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河村市長、張本勲さん…"偉い人"ほど「悪意なきハラスメント」に手を染める理由

ハラスメントという言葉はかなり一般的になってきました。こうした時代の流れに反して、立場あるおじさんたちによる失言や問題行動が後を絶たないのはなぜなのでしょう。男性学の第一人者・田中俊之さんが彼らの心理に迫ります――。

悪意なき「メダルかじり事件」

東京オリンピックの女子日本代表選手に対して、立場ある男性たちによる2つの問題行動がありました。ひとつは名古屋市の河村たかし市長が、表敬訪問に来たソフトボール代表選手の金メダルを断りもなくかじった件です。

定例記者会見で頭を下げる河村たかし名古屋市長=2021年8月16日、同市役所
定例記者会見で頭を下げる河村たかし名古屋市長=2021年8月16日、同市役所(写真=時事通信フォト)

市役所には抗議が殺到し、市長は会見を開いて謝罪するとともに「嫌がらせの認識はなかった」「リラックスしてもらおうと思って」といったことを述べました。本人としては、悪意がなかったことを強調したかったようです。確かに、僕も噛んだ瞬間の動画を何度も見ましたが、そこに悪意は感じられませんでした。

しかし、悪意がなければいいのかと言えばそれは違います。市長の行動は選手の思いや尊厳を無視したもので、立派なハラスメントです。友達でも何でもない相手に恋人の有無をしつこく聞いたり、容姿についてとやかく言ったりするのも同じです。

「偉い」がゆえに時代の流れについていけない

今の時代、こうしたことはすでに常識になっていますが、市長はおそらく時代の変化に疎かったのでしょう。ハラスメントという言葉自体は知っていても、中身について真面目に考えたことはなく、そんなことはたいした問題ではないと思っていたのではないでしょうか。

市役所の職員ならハラスメント研修を受ける機会もあるでしょうが、市長は「偉い」がゆえにそうした機会がなかったのかもしれません。あるいは受けたのに興味を持てず、聞き流してしまったのかもしれません。

だからこそ時代遅れの感覚のまま、これで場が盛り上がるだろうとばかりに金メダルを噛んでしまった。そんなことが問題になるなんて想像すらしていなかったのではと思います。

「そう受け止められたのなら申し訳ない」は許されない

もうひとつは野球評論家の張本勲さんによる、オリンピックの女子ボクシングに関する発言です。テレビ番組で「女性でも殴り合い、好きな人いるんだね」「嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合って」などと言い、女性やボクシング競技への蔑視だとして非難を浴びました。

張本さんは謝罪として「言い方を間違えて反省しています」と言いましたが、この言葉にも河村市長と同じ、「悪意がなかったから自分は悪くない」と言いたい気持ちが透けて見えます。

僕にはどちらも、問題の根本を理解しているようにも、反省しているようにも聞こえませんでした。お二人の言葉が意味するところは、謝罪のテンプレートである「そう受け止められたのなら申し訳ない」と同じです。

この言葉から伝わってくるのは、自分の言動が悪いとはまったく思っていないということです。不快に感じたのならそれは受け取った側の責任であり、自分は悪意がなかった、あるいは単に間違えただけなのだから許されるはずだ――。そんな思い込みが伺えます。

自宅の男は疲れとストレスを感じています ※写真はイメージです - iStock.com/kieferpix

「無自覚ハラスメントおじさん」はかなりたくさんいる

ジャーナリストの奥田祥子さんは、著書『捨てられる男たち』の中で、40~50代の上司世代によるパワハラやセクハラなどを「無自覚ハラスメント」と言っていました。今回のお二人に共通しているのは、まさにそれではないでしょうか。

本人がいかに無自覚でも悪意がなくても、ハラスメントはハラスメントです。指摘されたら受け取った側に責任転嫁するのではなく、自分がそうした言葉を発したことについてしっかり考え、何が悪かったのか理解し反省するべきでしょう。

なのに河村市長も張本さんも、「何でこんなに責められるんだろう」「昔はこれで許されていたのに」と不思議に思っている様子。残念なことに、こうした考え方のおじさんはいまだにかなりの割合で存在しているのです。

「窮屈な世の中になった」と嘆く人の残念なセンス

男性学では、男性は「達成」または「逸脱」で男らしさを示そうとするとされています。河村市長の場合は、市長という高い地位を達成した人が、金メダルを噛むという逸脱行為をしたわけです。

逸脱とは一般常識やルールを破る行為を指します。昔はそうしたことを「おふざけ」として許したり面白がったりする風潮もありましたが、今は違います。特に、差別的な行為や相手の尊厳を傷つけるような行為に対しては、今はもう笑いは起きません。

「昔はおおらかだったのに今は窮屈だ」などと言う人もいますが、時代が変われば社会の共通認識も変わって当たり前。その人のセンスが時代遅れなだけではないかと思います。

「言い方を間違えた」という言葉がでる理由

もう1点、こうしたおじさんたちに共通しているのは、コミュニケーションの捉え方が間違っているということです。自分が相手に対して話せばそれで成り立つ、一方的なものだと思い込んでいるのです。ここには、「自分の言動を相手がどう思うか」という視点が決定的に欠けています。

本来、コミュニケーションは双方向のものですから、相手の考えを無視していては成り立ちません。ところが彼らは、相手が自分に反論してくるなど想像すらしていないのです。これは、相手を自分より格下だと思っている場合に特に顕著です。

だからこそ、非難されると「悪気はなかった」「言い方を間違えた」と、謝罪でも反省でもない言葉が出てくるのだと思います。もちろん人間ですから失言することもあるでしょうが、受け手側が感じたことは素直に受け止め、反省して自分を変える努力をしてほしいものです。

こうしたおじさんたちは、河本市長や張本さんが叩かれているのを見てどう思うのでしょうか。自分も同じことをしていると気づき、彼らを反面教師として変わっていこうとするのでしょうか。

河村市長を反面教師にできるおじさんはわずか

残念ながら、大半の人は気づきもしなければ変わろうともしません。他のおじさんが世間から非難を浴びていても、それは対岸の火事に過ぎないからです。実際にハラスメントをしている人でさえ、そのほとんどが「あいつはバカだな、俺は違うから大丈夫」と思い込んでいると言われています。

ですから、もし職場でハラスメントを受けたら、社内の担当窓口と連携するなどして、本人に「あなたは加害者ですよ」とはっきり伝えるべきだと思います。告発は自分は被害者だと宣言することになるので勇気が必要ですが、無自覚を自覚に変えるには、本人を対岸の火事ではない状態に置くことが重要なのです。

まずは、自分の言動には河村市長や張本さんと同じように問題があるのだと自覚してもらわなくてはなりません。自分も同じ穴のムジナだと自覚できて初めて、反省することも変わっていくことも可能になるからです。

悪気の無いハラスメントを見かけたら

もし上司ではなく、腹を割って話せるような同僚や友人が悪気のないままハラスメントをしていると感じたら、きちんと指摘してあげてください。特に男性は損得勘定にとらわれやすい生き物ですから、そこを利用して「そんなハラスメントを続けていたら奥さんに逃げられるよ」「老後に人から疎まれて大変だよ」などと注意してみてはどうでしょうか。

社会は、ハラスメントが放置されていた時代に比べればだいぶ進化し、そうした言動に対してはしっかり非難の声が上がるようになりました。この声を受け止めて、自分の何がいけなかったのかを理解し反省する人が、少しでも増えていくことを願っています。

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田中 俊之(たなか・としゆき)

大正大学心理社会学部人間科学科准教授

1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。著書に、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など。

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(大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中 俊之 構成=辻村洋子)

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