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笑い話では済まなかった商標の世界の仁義なき戦い。

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「ZOOM」というオンライン会議ツールの名前を初めて聞いたのは、「COVID-19」の脅威が囁かれ始めてから間もない頃だっただろうか。

自分も早々に使い始めたのだが、リンク用のURLアドレスをクリックするだけで参加できる手軽さに始まり、家庭用のルーターでも十分なくらいのネットワーク負荷の少なさ、ついこの前まで使っていた和製の同種サービスやSkypeなどとは比べ物にならないくらいの画質・音質の良さ、そして遊び心も生かされる仮想背景等、あらゆるものが感動的なまでに画期的だった。

「セキュリティ」の問題がとやかく言われたこともあったし、”後発”のマイクロソフトやGoogleが、バージョンアップのたびに擦り寄ったような機能をくっ付けてきたこともあって、1年以上経った今では、「オンライン会議はZOOM一択」という状況ではさすがになくなってきているものの、それでもオンラインで打合せをやる時にはとりあえず「じゃあZOOMで」と言ってしまうくらい、”代名詞化”したブランドであるのは間違いない*1

当然ながらこれは日本だけの話でもないから、サービス提供会社であるZoom Video Communications, Inc.の株価は、昨年の春先から秋にかけて NASDAQ市場で恐ろしいまでの急激な上昇を遂げたわけだが、その過程では、こんな話題もあった。

blog.livedoor.jp

我が国が誇る音楽用電子機器メーカーである株式会社ズーム*2が勘違いされてストップ高・・・というある程度、株式投資の経験があれば、「そんなわきゃねーだろ!!」と突っ込みを入れたくなるような話。

結局、何が真相だったのかはよくわからないまま株式系掲示板の話題からは消えていった。

だが・・・。

あれから1年、さる2021年9月17日に、「あれは笑い話ではなかったのか」と思わせる戦慄のリリースが㈱ズームの側から出された。

www.nikkei.com

「当社は、NECネッツエスアイ株式会社を相手方として、当社が有する商標権を侵害する行為の差止等の請求訴訟を東京地方裁判所に提起いたしましたので、以下のとおりお知らせいたします。」(強調筆者、以下同じ)

なぜ相手がNECネッツエスアイ㈱なのか、ということは後ほど触れるとして、前記開示資料では、㈱ズームという会社がいかに知的財産を重視しているか、ということに始まり、米国法人であるZoom Video Communications, Inc(以下、ZVC社)が、「ビデオ会議サービスの利用に必要な会議用プログラムを顧客に提供するに当たり、当社登録商標と極めて類似した標章を使用してこれを提供」していること、さらに

「本提供行為が継続された結果、当社は、2019年10月頃より当社のカスタマサポートの受付電話やメール対応窓口にビデオ会議サービスに関する問い合わせが殺到する状況に陥り、また、2020年6月には、ZVC社の決算発表を契機に、社名誤認によって当社の株価が2日連続でストップ高を記録し、その後急落するという事態に至るなどし当社の業務上の支障に留まらず、善意の第三者である投資家に損害を与える結果となり、現在も日々、支障が生じております。」

と、先ほどの「ストップ高騒動」も含めた”具体的損害”を示した上で、「昨年来、ZVC社日本法人に連絡を取り、双方が受入可能な解決方法を模索しましたが、ZVC社日本法人からは誠意ある回答/対応がありませんでした。」という経緯を示し、「当社は、このまま現状を放置することは、当社ブランドを支持するユーザーの皆様、及び、当社の株式を購入した株主の皆様に対し間違ったメッセージを発する結果になると懸念し、また、当社登録商標が当社の重要な経営資源であることを鑑み」今回の提訴に至った、としている。

また、「本提訴に当たってZVC社日本法人ではなくNECネッツ社を被告とした」理由については、「ZVC社日本法人については自らがビデオ会議サービスを提供している事実が確認できず、その実際の事業内容も不分明であることを考慮した」ということで、ここで被告にされてしまった代理店には気の毒ではあるものの、外国法人特有の”訴え損”を回避するための策としては、原告側のやり方も一応理解はできるところである*3

最後の項では、

「本提訴に当たっては損害賠償を請求しておりませんが、これは当社に金銭的損害がないことを示すものではなく、当社登録商標が法的に保護されるべき知的財産であることの確認が訴訟の目的であり、和解金等での解決を排除する姿勢を示すものです。」

と書いた上で*4

「また、本提訴にあたっては、複数の知財を専門とする弁護士事務所から、本提供行為等が当社登録商標権を侵害している可能性が高いという見解を得ていることを申し添えます。」

と、とどめを刺すようなコメントも盛り込んでおり、「訴える側」のリリースとしては、おそらくパーフェクトに近い中身だと思う。

そして、ここまで自信を持って書き切られているのを見ると、当然、原告側の勝ち筋事案だろう、と思ってしまうのだが・・・

特許情報プラットフォーム(J-Plat Pat)の商標検索でシンプルに「ZOOM」と入れて検索すると、登録されているものだけで実に27件。

元々日本語としても馴染みのある言葉だから、1982年3月31日に主に登山用品の区分で登録された日本用品㈱の商標(登録第1503924号)を皮切りに、㈱トンボ鉛筆から本田技研工業㈱まで、実に様々な会社が登録している。

加えてさらに複雑なのは、今回問題になりそうな「電子計算機用プログラム」に関する区分(第9類、第42類)だけ見ても、商標権者は一社ではない。

今回訴えている㈱ズームは、1992年に第9類でも電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM、メトロノーム,レコード,蓄音機(電気蓄音機を除く)といった商品(類似群コード24E01 24E02)と、第15類の楽器,演奏補助品,音さ(類似群コード24E01)を指定して登録商標(第2445969号)を取得した後、2006年3月31日に時代の変化を反映して、リリースにも掲載されたロゴで、

第9類
理化学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,眼鏡,加工ガラス(建築用のものを除く。),救命用具,電気通信機械器具,録音済みの磁気カード・磁気シート・磁気テープ・コンパクトディスク・その他のレコード,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,メトロノーム,電子計算機用マウスパッド,電子計算機用マウス,コンピュータプログラムを記憶させた磁気ディスク・磁気テープ・その他の記録媒体,電子計算機用プログラム,その他の電子応用機械器具及びその部品,電子出版物,オゾン発生器,電解槽,ロケット,業務用テレビゲーム機用のプログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・光ディスク・光磁気ディスク・CD-ROM・デジタルバーサタイルディスク-ROM及び磁気テープ,業務用テレビゲーム機,スロットマシン,運動技能訓練用シミュレーター,乗物運転技能訓練用シミュレーター,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,鉄道用信号機,火災報知機,ガス漏れ警報器,盗難警報器,事故防護用手袋,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,スプリンクラー消火装置,消防艇,消防車,自動車用シガーライター,保安用ヘルメット,防火被服,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク,磁心,抵抗線,電極,新聞・雑誌・書籍・地図・図面・写真の画像・文字情報を記録させた電子回路・ROMカートリッジ・光ディスク・磁気ディスク・光磁気ディスク・磁気カード・磁気テープ,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,ガソリンステーション用装置,自動販売機,駐車場用硬貨作動式ゲート,金銭登録機,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,計算尺,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,運動用保護ヘルメット,エアタンク,水泳用浮き板,レギュレーター,潜水用機械器具,アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置,家庭用テレビゲームおもちゃ専用のプログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・光ディスク・光磁気ディスク・CD-ROM・デジタルバーサタイルディスク-ROM及び磁気テープ,家庭用テレビゲームおもちゃ専用のコントローラ・ジョイスティック・メモリーカード・ボリュームコントローラ・マウス,その他の家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,検卵器,電動式扉自動開閉装置,磁石,永久磁石,標識用ブイ,二輪自動車用シガーライター,耳栓但し、計算尺を除く

01C04 07E01 09A01 09A06 09A45 09D01 09E21 09E22 09E26 09G01 09G02 09G04 09G05 09G06 09G07 09G08 09G51 09G53 09G55 09G64 09G65 10A01 10B01 10C01 11A01 11A03 11A04 11A05 11A06 11A07 11B01 11C01 11C02 11D01 12A01 12A03 12A05 12A06 17A05 17A06 17A08 23B01 24A01 24B02 24C01 24C04 24E01 24E02 26A01 26D01

第15類
調律機,楽器,演奏補助品,音さ
09G52 24E01

と、第9類をより幅広く押さえた商標を登録した(第4940899号)*5

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