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中国海軍のレーダー照射事件、一触即発まできた「日中こじれ」の要因とは?

いよいよ、というべきか。尖閣諸島周辺がきな臭くなってきた。
2月5日、中国海軍の艦船が、海上自衛隊の護衛艦に対して射撃管制用のレーダーを照射したと日本政府は発表したのだ。
射撃管制用のレーダー照射をするということは、「これからミサイルなどを発射するぞ」ということを意味する。つまり、明らかな挑発的行為だ。
当然、日本政府は中国に対して抗議をし、説明を求めた。
ところが、中国外務省は、「詳細は分からない」と答えている。
だが、恐らくこれはウソだろう。

その前日の4日に『朝日新聞』は、たいへん刺激的な記事を1面トップに載せている。
「尖閣、党新組織が手綱」という見出しだ。
内容は、尖閣諸島付近で中国海軍や空軍の日本への挑発行為が常態化しているのは、決して末端の勝手な行為ではないということである。
中国共産党のトップが承知して、こうした行為をさせていると言っているのだ。

いま中国では、国民の間に不満が溜まりに溜まっている。
その「ガス抜き」のために、反日感情を煽っている。国民の不満の矛先をすり替えているのだ。
けれども、今回の問題はそのレベルを完全に超えていると言わざるを得ない。
まさに「一触即発」の状態、と言っていいだろう。

なぜ、尖閣問題がこれほどこじれたのか。野田内閣の性急な国有化にその原因があることは言うまでもない。
昨年9月8日のAPEC首脳会議の際、野田佳彦・前首相は胡錦濤主席に、尖閣国有化問題への理解を求めた。
もちろん、中国側がそんなことを認めるわけがない。それは野田前首相も織り込み済みのことだっただろう。

ところが、である。
野田前首相はなんとその翌日に国有化を決定、3日後の11日には購入してしまったのだ。
中国は面子(メンツ)を重んじる国だ。その中国のトップの面子を野田前首相は潰すことになった。なぜ、そのようなことになったのだろうか。

さらにもうひとつ、尖閣問題をこじれさせている要因がある。
横浜市立大学名誉教授の矢吹晋さんが著書『尖閣問題の核心』で、たいへんなことを書いている。
当時首相だった周恩来さんと田中角栄さんの会談についてだ。
現在の日本政府は、この会談の際、「周恩来は尖閣問題を棚上げにしようとしたが、田中首相はこのとき同意していない」という見解である。
ところが、矢吹さんは、当時の外務省の橋本恕・中国課長が記録を削除したと述べているのだ。

では、実際のやりとりはどうだったのか。
2000年に発刊された『去華就実 聞き書き大平正芳』のなかの「橋本恕の2000年4月4日 清水幹夫への証言」で、次のように描かれている。

「周首相は『これ(尖閣問題)を言い出したら、双方とも言うことがいっぱいあって、首脳会談はとてもじゃないが終わりませんよ。だから今回はこれは触れないでおきましょう』と言ったので、田中首相の方も『それはそうだ、じゃ、これは別の機会に』、ということで交渉はすべて終わったのです」

しかし、このやりとりは、橋本氏が公式文書から削除したのだから、記録には残っていない。当然、政府は現在のような見解をとるほかないのだ。
そして、中国側から見れば「日本がウソをついている」となる。
矢吹さんが言うとおりなら、問題のスタートからこじれるに決まっているだろう。

しかし、なぜ一官僚にすぎない橋本氏がこんなことをしたのか。
思うに、戦後の日本では「戦争」はあり得ないものだった。
だから、外交の失敗が行き着く先が「戦争」だという危機感を失ってしまったのだ。
危機感がないから、安易に「これは同意しなかったことにしておこう」と文書から削除してしまったのだろう。
結果、現在の非常に危ない状態を招いてしまったと言えよう。

政治にもっとも必要なものは「危機意識」だと僕は考えている。
つねに政治家は最悪を想定し、危機に備えなければならない。
とくに国家間の諍いは、戦争につながりかねないのだ。

安倍首相には、充分な危機感を持って、しかも慎重に、あくまでも慎重に対応してほしいと僕は思う。先の日中戦争は、たった一発の銃声から始まった。
そしてその一発がどんな悲劇をもたらしたのかを、僕たちは忘れてはならない。

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