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自民総裁候補者達の反経済主義にリスク

自民党総裁選が始まった。派閥の縛りを超え、個人の自主性尊重、政策論争によるリーダー選出となっている。これはいいことであり、その民主的手続きは諸外国の範となるかもしれない。9月17日総裁選告示、9月29日投票開票と続く自民党総裁選の過程で立候補者の討論が展開される。日本を巡る諸問題の検証と対策は、メディアと国民の注目の的になっていくだろう。議論沸騰の後に選出される新リーダーの下での衆院総選挙では、自民党の優勢が予想される。

この政局激変は最大級の株価押し上げ材料であろう。9月に入ってから日経平均は営業日10日間で10%と世界の中で突出して上昇している。過去10年を振り返ると、日本株式は衆院選のたびに大きく上昇してきた。2012年12月総選挙は自民党が118議席から294議席へ圧倒的に勝利し、日経平均は、2012年11月安値の8600円から2013年5月高値の15900円まで、6か月で85%の記録的上昇となった。

2014年12月の衆議院総選挙では2014年10月安値の14500円から2015年6月高値の20900円まで、8か月で44%の上昇であった。前回2017年10月の総選挙は「森友学園・加計学園問題」の困難の中にあっても自民党が改選議席数をほぼ確保し、2017年9月安値の19200円から2018年1月高値の24100円まで、25%上昇した。これを当てはめれば、選挙後の日経平均高値は、控えめに25%高と見積もっても33700円が見込まれると計算される。

各候補者の経済政策を検証すると、安倍政権、菅政権と継承されてきた ①市場経済重視の規制緩和・改革、②リフレ政策を2軸とする日本経済の体質改善と成長力強化路線の修正が一様にうたわれている。そして、そのような修正を市場が必ずしも評価しないとは思われることが懸念だ。路線の修正が現実のものとなり、市場がそれを政策後退と受け止めれば、選挙フィーバーの後の冷や水となりかねない。

新自由主義批判、規制改革から分配へ

岸田氏の新自由主義批判はその最たるものであろう。新自由主義批判の中身は今一つ明確でないが、規制緩和、構造改革が持てる者と持たざる者の分断を生じさせたとして、反改革ともとれるポジショニングになっている。そして分配政策により格差縮小を目指すと野党かと見られるような主張を展開している。

確かに今は大きな政府の時代、政府の裁量が重要になっているが、それは理想形ではなく、過渡期における経済不均衡のバランサーとして政府機能の寄与が求められるに過ぎない。市場での資源配分機能が有効性を取り戻せれば、個の経済活動を最大限に尊重する究極の経済民主主義、自由主義の方が望ましいことは言うまでもない。レーガン・サッチャー主導の新自由主義がそれまでのケインズ主義の枠を壊し、新たな経済ステージを生み出した歴史的成果は、十分に評価されるべきである。

今米国でも新自由主義の是正が求められているが、それは技術と経済の発展の結果、一時的に資源配分が市場経済だけでは完遂できない歴史的局面に立ち至ったからで、レッセフェール、自由主義、つまり市場経済に対する究極の信頼が揺らいだからではない。

インターネット、AI、ロボットが生み出したライフスタイル、ビジネススタイルの変化と生産性の向上が、市場の能力を超えてしまったので、一時的に政府が介入せざるを得ない事態に立ち至っただけのことである。技術の変化に市場が対応できるようになれば、再度市場重視の時代に戻ることは明らか。市場がより効率的に働くように規制緩和、規制改革を続けることは、活力ある経済を維持するうえで必須である。

究極の市場否定は、鄧小平以来の資本主義容認の「先富論」を否定し共産主義的資源配分「共同富裕」を打ち出した習近平政権である。それが中国経済の死に至る病であることを、多くの人々は直観しているはずである。アベノミクスで株価が倍増し、確かに株式を保有している高所得者は潤ったが、この間年金資産(GPIF)の累積運用益は70兆円に達し、運用資産額は47%増加した。国民の富の増加、老後不安の解消に大きく寄与したことは明らか。それを新自由主義がもたらした格差拡大と非難することは正しくない。

市場重視に対する批判は高市氏にも共通する。高市氏はアベノミクスを踏襲するとしているが、このニューアベノミクス(サナエノミクス)が第一の矢の金融緩和、第二の矢の機動的な財政政策とともに掲げている第三の矢は、アベノミクスから大きく逸脱している。アベノミクスの第三の矢は「規制緩和と改革によりビジネスを自由に」であったが、サナエノミクスは「大胆な危機管理投資・成長投資」であり、その内容は改革主体ではなく、プライマリーバランス黒字化の目標を凍結しての財政出動主体である。

PB規律の一時的凍結という主張自体は画期的で評価できるが、他方で改革が後回しである点は懸念される。日本的経営の長所としての終身雇用を評価しているが、それは日本に特徴的なメンバーシップ型労働を固定化し、欧米で一般的なジョブ型労働への移行を妨げ、イノベーションを阻害する恐れがある。

グローバリズム批判

国際分業と国際資本市場、国際的資本移動が貫徹している現実に対して、国境障壁を高めて経済ナショナリズムを追求することなどありえないが、各氏の主張に反グローバリズム的傾向もうかがわれる。国際分業と国際資本移動に背を向ければ鎖国経済となり国際競争の敗者になることは確実。国境をまたいだ分業、資本移動、人的移動、ビジネス展開を促進することは日本が勝ち抜く最低限の条件である。

米中貿易戦争や、中国などからのダンピング対応、海外資本の無防備の資本流入による資産買占め等緊急避難時の障壁構築の必要性は否定できないが、国際障壁を低め、①海外の有益な資源を導入すること(リスクキャピタル、有為人材、技術・ノウハウ、ブランド)、②日本企業による海外市場への浸食を推し進めることは、資源、食料、インターネットプラットフォーム等の国際インフラ、国際公共財を海外に依存する日本にとっては不可欠である。グローバル資本が求める株主利益の極大化は、資本効率を高め国際資本主義競争に勝ち抜くためには、必須の愛のムチと考えるべきである。

株式資本主義批判

株価上昇を基幹エンジンとする米国で進む株式資本主義は資本主義金融制度の最新型である。銀行による信用創造に代わって株価上昇が購買力を産む新たな金融メカニズム(株式資本主義)が始まっている。かつての中銀の目標は持続可能な最大マネー供給(信用創造)による購買力創出であったが、今の中銀の目標は持続可能な最高株価の維持にある、と言っても過言ではない。好き嫌い、正しいか間違いかの議論以前に、それが現実である。

この株式資本主義の基盤を棄損、否定し不当な資産価格の下落(=マイナスバブル)を作ったことが、1990年から2012年アベノミクス登場までの日本経済一人負けの一大原因であった。他方リーマンショック後11年で株価が6倍となった米国の成功は、株式資本主義が見事に機能したからである。

PBRが4.3倍とバブル化と言えるほどまで上昇した米国ならともかく、PBR1.3倍と米国の3分の1まで沈んでいて負のバブルと形容できるほど割安な日本株式市場において、株式値上がり益を不当としてキャピタルゲイン課税を強化するなどは、マクロ的逆効果の政策と言える。血まなこで税源を模索する財務官僚か、嫉妬を正義感で糊塗する左翼分配論者の議論のように思われ、いずれも角を矯めて牛を殺すものになりかねない。

高市氏は2%インフレ目標達成後という条件付きで金融所得課税を20%から30%への引き上げを主張。岸田氏も分配論の原資として金融所得をターゲットとしている公算がある。河野氏も金融所得への課税強化を著書で述べている。

中国台頭に対応する安全保障(高市氏)やデジタル化の推進(河野、高市、岸田氏)など大いに評価できる要素も大きいが、市場改革の後退とリフレ政策の後退だけは修正してほしいものである。

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