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高齢で退位のローマ法王 ―欧州ではイスラム教をめぐる発言で反発も

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ローマ法王ベネディクト16世(85)が、11日、今月末で退位すると表明した。法王職は事実上の終身職で、自分から退位を申し出るのは約600年ぶりというから、驚きだ。

 高齢のために「心と体の力が任務に適さなくなった」と理由を自ら説明したという。8年間の在任となったベネディクト16世とは、どんな法王だったのだろうか?

 英メディアの報道を追うと、注目された事件として、2006年、イスラム教の教えを暴力と結びつけたビザンチン帝国皇帝の発言を引用し、世界中のイスラム教徒から反発を受けた件、聖職者による未成年者への性的虐待事件、さらに法王庁内の不正に関する内部文書が流出した事件があげられている。こうした一連の事件が、法王を心身ともに疲労させたのだろうか?

 ドイツ・バイエルン出身のベネディクト16世の本名はヨーゼフ・アロイス・ラッツィンガー。ナチスを嫌っていた警察官の父の下、司祭になることを願っていたが、14歳で、当時ドイツ国内で加入が義務付けられていたヒトラー青年団に入団。戦後神学校で学び、司祭になった。

 神学博士号を取得し、ミュンヘン大学などで教鞭を執った。2002年、主席枢機卿に任命、05年、先代のヨハネ・パウロ2世が死去し、法王選挙会(コンクラーベ)で第265代の法王に選出された。ドイツ人の法王就任は950年ぶりだった。「超保守派」と言われ、避妊、中絶、同性愛に反対の立場をとってきた。

―イスラム教徒を「侮辱した」発言とは?

 英国・欧州に住む身として、印象深い事件の1つは、英メディアも取り上げているが、06年のイスラム教にかかわる発言とその影響だ。

 当時、2001年9月11日の米大規模テロ発生から数年たち、イスラム教を暴力やテロと結びつける論調が米国のみならず、欧州でも高まっていた。

 世俗主義(宗教と政治を分離させる)が進んだ西欧諸国だが、過去にはキリスト教が何世紀にも渡って社会の中で中心的な役割を果たしてきた。

 増えるイスラム教徒の国民とのきしみが様々な形で目に付くようになり、オランダでは04年にイスラム教を批判する映画を作った映画監督が、白昼、イスラム教狂信者の男性に殺害された。06年年頭には、デンマークで、イスラム教の預言者ムハンマドなどを描いた諷刺画が世界中で波紋を呼んだ。

 2006年9月12日、ドイツの大学で行った、法王のレクチャーが世界のイスラム教徒たちの反感を買った。法王の発言内容と、その影響を私が当時、記録した文章からたどって見る。(名称の一部と日付は、06年9月当時のものであることをご了解ください。) 参考:レクチャーの英訳

 レクチャーのタイトルは「信仰、合理性、大学 -思い出と反省」である。

 「14世紀、ビザンチン帝国皇帝と知識層のペルシア人の男性との会話」を、法王はレクチャ-の中で紹介した。イスラム教や預言者ムハンマドに関して否定的な言葉を使っているのは、この皇帝だ。「14世紀の皇帝はこう言っている」と法王は言っているのであって、法王自身の思いを直接表現したのではなかった。

 皇帝は、宗教と暴力の一般的な関係について話し出す。ムハンマドがもたらしたものは「悪と非人間性だけだ」として、具体例として、信仰を「剣で(注:つまり暴力で)広げた」としている。

 暴力を使って信仰を広げることがいかに不合理なことか、と皇帝は説く。「神の摂理や自然の摂理は暴力とは相容れない」、「宗教指導者は、暴力や脅しを使わずに上手に話し、適切に説いて人を納得させるものだ」。

 「理性に沿って行動をしないと神の摂理に反する。これが暴力反対への根拠だ」と続け、「皇帝にとってはこのことは自明のことだが、イスラム教の教えでは、神は全てを超越するので、神の意思は、理性的活動も含め、私たちが考えるいかなる範ちゅうによっても制限されない」―。

 レクチャーから3日後の15日の夜、英テレビを見て反応を追った。24時間のニュース局スカイテレビは視聴者からの電話を受けつけ、そのBBC版は、イスラム教側、キリスト教側のコメンテーターを招き、意見を聞いていた。

 キリスト教側のコメンテーターは、「カトリック教のトップとして、自分が信じることを言ったまでだ。当然だ」と言い、ローマ法王庁が「イスラム教批判の意図はなかった」とするコメントを紹介した。

 イスラム教側は「ムハンマドと暴力のことを言うなら、なぜキリスト教の十字軍のことも同時に言わないのか。バランスがおかしい。したがって、イスラム教徒への攻撃だと言っていいと思う」。

―欧州とキリスト教

 今、欧州では、欧州=キリスト教文化、と言い切ってしまうことは一種のタブーとなっている。地理的にも欧州がどこからどこまでなのかが自明ではなくなっている。

 例えば、EUに加盟を希望をしているトルコ。国民の99%近くがイスラム教徒だ。しかし政教分離の国。トルコは欧州と言ってよいのだろうか?

 16日朝、BBCのTODAYというラジオの番組で、イスラム教学者タリク・ラマダン氏とウエールズのカーディフ大司教ピーター・スミス氏がインタビューを受けていた。

 以下は一問一答の抜粋である。

―レクチャーに怒りを感じているか?

ラマダン氏:怒りを感じない。全体の文脈の中で考えるべきだ。最善の言葉ではない、と思った。14世紀の言葉を引用している。こんなことをする正しいときではないし、正しいやり方ではない。私たちは落ち着いて、合理的にこの問題を考えるべきだ。法王はジハードなどの問題を問いかけている。もっと重要なことにはイスラム教の合理性と欧州の伝統に関して話している。ただ、やり方がよくない。

―(暴力を用いるジハードに対する)問い自体は正しいと思うか?

ラマダン氏:もちろんだ。イスラム教の名の下で、ジハードということで人を殺す人々が世界中にいる事態に、イスラム教徒たちは直面している。米国だけでなくイスラム諸国でも起きている現象だ。

 こうした人たちに対し、私たち(=イスラム教徒たち)は、ジハードは「聖なる戦い」でなく、抵抗のことであること、心の中の抵抗であること、抑圧されている状態での抵抗であることを明確にしなければならない。しかし、戦争の倫理性というのがイスラム教の中にあるので、これも説明しないといけない。それにしても、法王は、引用を使ってイスラムにはジハードの問題があると言っておきながら、何故そうなるのかなどを言わないので助けにならない。

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