- 2021年09月17日 09:31
新聞はHPVワクチンをどう報じたか
1/2いま「ワクチン」というと新型コロナウィルス感染症のワクチンがまず頭に浮かぶが、もう1つ、今話題になっているワクチンが、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウィルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチンだ。2008年のWHOの報告によると、子宮頸がんは全世界で年間約50万人に発生し、約27万人が死亡しているとされる。
WHO (2008) “Cervical cancer, human papillomavirus (HPV), and HPV vaccines: Key points for policy-makers and health professionals.”
その主な原因はHPVの感染であり、有効な予防方法としてHPVワクチンの接種がある。世界の多くの国で接種が行われており、日本でも行っていないわけではないが、政府が積極的勧奨を行っていないこともあり、接種率はきわめて低い。
そのきっかけとなったのが副反応問題だ。HPVワクチンは2010年度から接種の公費助成が行われ、2013年4月に定期接種が始まったが、副反応を訴える人々の声を受け、同年6月には積極的勧奨が中止された。公費助成時点の対象だった1994~1999 年度生まれの女子のHPV ワクチン接種率が70%程度ほどであったのに対し、2000年度以降生まれの女子では接種率が激減し、2002 年度以降生まれの女子では1%未満へと激減した。
公益社団法人日本産婦人科学会「研修ノート No106 思春期のケア 3. 思春期に接種するべきワクチン(5)HPV ワクチン」
接種激減の影響は大きい。自民党の「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」が田村厚生労働大臣と加藤内閣官房長官に「年間1万人以上の女性が子宮頸がんに罹患し、3000人近くの命が失われている現状は看過できず、1日も早いHPVワクチンの積極的接種勧奨再開が望まれる」との要望書を提出した。加えて今年10月までに再開しなければ定期接種の最終学年である高校1年生分に確保したワクチンを使い切れず廃棄せざるを得なくなる。今後のワクチン入手への影響も懸念される。
「「年間3千人近くの命が失われている現状、看過できない」HPVワクチンの積極的勧奨の再開、厚労相らに申し入れ」
Yahoo!ニュース2021年8月30日
こうした一連の流れは副反応の被害を訴えた女性たちの声が大きなうねりとなった結果であるわけだが、併せてマスメディアが「反ワクチンキャンペーン」を行ったからだ、とする批判がある。この問題について下の2019年の記事では、厚労省の担当官だった官僚が「なぜ積極的勧奨を中止したまま6年以上も引っ張っているんですか?」とのバズフィード岩永直子記者の問いに対して「今となっては、マスコミの方からそのように言われてしまうのですね」という皮肉たっぷりの回答をしている。このような状況を作ったのはマスメディアではないか、というわけだ。
「HPVワクチン 厚労省はいつ積極的勧奨を再開するのですか?」
Buzzfeed News 2019年7月26日
しかし、マスメディア側にはあまりそうした「自覚」はないようだ。2021年8月に一部で話題となり批判を浴びた中日新聞記者のツイート(現在は削除)も、ワクチンへの不信を解消するのはマスメディアの責任ではないという趣旨の発言をしている。
検証などのため、スクリーンショットは残しておきます。(4/n) pic.twitter.com/RoWBn6VopD
— 今井 智文 (@imaicn21) August 7, 2021
こうした見方は適切なのか。マスメディアの報道が万能でないことはもとより当然だが、そもそもマスメディアはこの問題をどのくらい、どのように報じてきたのか。というわけで例によって大学で契約している新聞の記事データベースをざっと見てみることにした。いつもの朝日新聞に加えて、せっかくなので今回は今井記者が所属する中日新聞と、バズフィード岩永記者の出身である読売新聞もやってみる。
まずは朝日新聞。記事データベース「聞蔵Ⅱビジュアル」で「子宮頸がんワクチン」に関する記事を検索した結果、2013年1月から2021年8月までの間に235件の記事が記録されている。年ごとの記事件数は以下の通りだ。
2013年 60件
2014年 34件
2015年 72件
2016年 45件
2017年 14件
2018年 2件
2019年 4件
2020年 0件
2021年(8月まで)4件
これらのうち2017年までの記事のほとんどはワクチン接種に伴う副反応やそれに対する不安の声、その後被害者らが起こした訴訟に関するものだった。また、2015年12月に名古屋市が「接種と副反応の関連は確認できなかった」と発表して批判を浴び、2016年6月にこれを撤回し「統計学的な分析は困難」として因果関係に関する判断を避けた件では、データベースでみる限り当初の発表を報じていないようで、翌年の撤回のみを報じている。



