記事

【読書感想】現役引退――プロ野球名選手「最後の1年」

1/2

現役引退――プロ野球名選手「最後の1年」 (新潮新書)
作者:中溝康隆
新潮社
Amazon














Kindle版もあります。

現役引退―プロ野球名選手「最後の1年」―(新潮新書)
作者:中溝康隆
新潮社
Amazon

去り際に、ドラマが宿る――。

レジェンド24人の最晩年をプレイバック!

完全燃焼した者、最後まで己の美学を貫いた者、ケガに泣かされ続けた者、海外に活路を見出した者……どんな名選手にもやがて終わりの時が訪れる。

長嶋、王、田淵、江川、掛布、バース、原、落合、秋山、古田、桑田、清原など、球界を華やかに彩った24人の「最後の1年」をプレイバック。全盛期の活躍に比べて、意外と知られていない最晩年の雄姿に迫る。有終の美を飾るか、それとも静かに去り行くか――。その去り際に、熱いドラマが宿る!

 名選手、引退前の「最後の1年」か……
 「戦力外通告された選手たちのドキュメンタリー」は、すっかり年末恒例になりましたが、僕が子どもの頃、1970年代から80年代に比べると、「引き際の美学」よりも、「現役にこだわりつづける」という選手が多くなっていると思うのです。

 王貞治さんは引退の年にも30本ホームランを打っていますし、僕が長年ファンである広島カープの山本浩二選手も、引退の年に40歳で28本のホームランを打っていました。

 まだやれるのに、もったいないなあ……日本シリーズも3連勝のあとの4連敗、西武の秋山選手にはバック宙でのホームインまで見せられて、ミスター赤ヘルの最後がこんな負け方なんて……と悔しかった記憶が残っています。

 最近では、成績的には、もう現役にこだわるよりも、指導者に転じるか、他の仕事に目を向けたほうが良いのでは……と思うような「レジェンド級の選手」たちが、晩年に現役を続けているケースが多くなりました。

 イチロー選手(すでに引退)や松坂大輔選手、鳥谷選手をみていると、「あれだけの実績を残したスター選手なのに、控えとかリハビリばかりの状態でも『現役』でいたいのだろうか?」という気はするんですよね。

 ある球団で「レジェンド」と呼ばれて、ファンにも愛されていて、そこで引退すれば、コーチから監督になっていくような選手が、晩年の1年、2年の「現役続行」のために自由契約になり、指導者にもなりづらいというのは、もったいない、と僕は思うのだけれど、最近は、本当に「燃え尽きるまで」プレーする選手が多くなりました。

 中には、カープの新井貴浩選手のように、もう引退間際、という状況から古巣で「復活」して、チームの25年ぶりのリーグ優勝に貢献し、MVPを獲るような選手もいるんですけどね。

 最近引退した人で、最後の年の成績も「まだ重要な戦力としてやれるのに」という引き際だったのは、カープの黒田博樹投手くらいではないでしょうか。その黒田さんも、身体は満身創痍で、前年に引退を考えていたそうですが。

 この本を読んでいると、どんな偉大な選手でも、すごい成績を残したまま引退するのは難しい、ということがわかります。

 まあ、すごい成績を残していたら、そもそも引退しないだろう、というのもあるんですけど。

 あの落合博満選手は、清原選手のFAでの加入の影響もあって、巨人を退団したあと、日本ハムに移籍しています。

 ああ、そういえばそうだったなあ、って。

 けっこうプロ野球をみてきた僕も、「日本ハム・落合」は、誕生の経緯は覚えているけれど、その後は、いつのまにかいなくなっていた、という感じなんですよ。

 前年、42歳の時点で、巨人で打率.301、21本塁打、86打点の成績を残していた落合は、まさに「鳴り物入り」で日本ハムに移籍したのです。年俸3億円の2年契約。

 移籍1年目の1997年は113試合、打率.262、3本塁打、43打点という寂しい成績で終わり、日本ハムも同率4位と低迷、戦力外通告を受けた選手が「落合さんが来てからおかしくなった」なんて捨て台詞を残して去るなど、入団前の優勝請負人扱いが嘘のような状況で、移籍初年度のシーズンを終えることになる。

 捲土重来を期した移籍2年目が、落合選手の現役ラストイヤーになるわけですが、開幕戦では大活躍したものの、その後は怪我もあって成績は低迷します。

 落合の現役最後の打席は98年10月7日、千葉マリンスタジアムの古巣ロッテ戦(ダブルヘッダーの2試合目)でのことだ。なお日本ハムは後半戦に急失速し、当日は西武の逆転優勝が秒読み段階(当時はもちろんCS制度はない)。

すでにオールスター戦後の7月下旬の日刊スポーツに「落合FA、獲得名乗りなければ引退」という記事が出ていたが、FA宣言をして引退発表をせずに自らの立場をあやふやにしておくのも面倒だと腹を決める。10月にはメディアで「今季限りの引退」が報じられ、最終戦前には上田監督から指名打者での先発出場を打診されていた。このロッテ戦で有終の一発を打てば、12球団すべてから本塁打を放ったことになる記録がかかっていたが、落合はその申し出を断りベンチスタート。

「引退試合や派手なセレモニーみたいなものはオレの性に合わない」という己のこだわりを最後まで貫いた。チームが1対4とリードされた5回表一死、「週刊ベースボール」98年10月26日号の写真を確認すると、代打で登場した背番号3は全盛期と同じように素手でバットを握り、”神主打法”と呼ばれた独特の構えで打席に立っている。

 最多勝のタイトルを狙う、20歳年下の相手エース黒木知宏は全休直球勝負で、満身創痍の打撃の職人は3球目の141キロのストレートを打って一塁ゴロに倒れる。ベンチに戻る際、静かに笑みを浮かべる背番号3。

19年前に代打出場からスタートした25歳の無名のオールドルーキーは、三度の三冠王という前人未踏の金字塔を残し、45歳を目前にバットを置いた。通算2371安打、510本塁打、1564打点の大打者としては異例のセレモニーも涙もない静かなラストゲーム。「お疲れさん」といつもと同じようにロッカールームをあとにすると、落合は意外な行動に出る。

球場出口で出待ちしていたファンがいる柵前まで歩み寄ったのだ。「ありがとう落合」という横断幕を掲げる男性もいる中、彼らと握手を交わして回り、稀代のスラッガー落合博満の「最後の1年」は終わりを告げた。

あわせて読みたい

「書評」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    ガンダムにはなぜイライラする女性キャラが出てくるのか?一気観で生まれた疑問

    倉持由香

    10月19日 12:16

  2. 2

    「今日の仕事は、楽しみですか。」"炎上→即謝罪"を歓迎するSNS社会の末路

    PRESIDENT Online

    10月19日 14:13

  3. 3

    【衆院選】投票の心構えと公約比較 安保政策で自公に距離、野党各党はエネルギー・経済財政で特色

    宇佐美典也

    10月19日 16:16

  4. 4

    斎藤佑樹投手の引退セレモニー「敗者の弁」を引き受けた勇気を称賛

    企業法務戦士(id:FJneo1994)

    10月19日 10:20

  5. 5

    共産党はマンガ・アニメの規制にカジを切ったのか

    紙屋高雪

    10月19日 09:30

  6. 6

    共産党が強い「表現規制派」へ転向 公約では「表現の自由を守る」の建前が崩壊

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    10月19日 09:42

  7. 7

    iPhoneなら3800円惜しまずAirTagは買え!! を体感した伝説(笑)の日

    永江一石

    10月19日 09:23

  8. 8

    北が不穏な動き 公示日に出陣式への出席を取り止めて急遽官邸に戻った岸田首相は正解

    早川忠孝

    10月19日 15:54

  9. 9

    小泉進次郎氏の「万歳三唱批判」に自民党関係者は「またか」の声

    NEWSポストセブン

    10月19日 09:18

  10. 10

    「nanaco」と「WAON」が「Apple Pay」に10月21日より対応!

    S-MAX

    10月19日 12:44

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。