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北朝鮮が長距離対地巡航ミサイルの発射実験

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北朝鮮が巡航ミサイルの発射実験を行いました。

(『労働新聞』より画像転載。)

국방과학원 새로 개발한 장거리순항미싸일시험발사 진행、労働新聞、2021/9/13.
『労働新聞』によると、「長距離巡航ミサイルを発射し、領土と領海の上空に設定された楕円と8の字型の飛行軌道に沿って7,580秒を飛行し、1,500km先の標的に的中した」とのこと。


(平壌近傍を中心に半径1,500kmの範囲。)

巡航ミサイル開発は安保理決議の穴

現在の北朝鮮は、弾道ミサイル技術に関する活動を厳しく制限されています。人工衛星だろうと核兵器だろうと、北朝鮮によるロケット/弾道ミサイル発射は、国連安全保障理事会決議1695、1718、1874への違反となります。しかし、UNSCRが規定しているものは弾道ミサイル開発に関わる技術で、今回は「長距離巡航ミサイル」であることから、従来のUNSCRに抵触しない恐れがあります。もともと、安保理の対応は日本と温度差があり、米国などは北朝鮮のミサイル実験を「ICBM・IRBMと、それ以外」と分類している節があり、北朝鮮による短距離~準中距離弾道ミサイル開発への対応が甘い状況です。

今回の長距離巡航ミサイルが、核兵器を搭載する事が明らかになれば、大量破壊兵器開発プログラムのひとつとして考えられ、UNSCR1718(2006)の7(「また、北朝鮮が、その他の既存の大量破壊兵器及び弾道ミサイル計画を、完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法で放棄することを決定する」)に該当するのではないでしょうか。この辺りは国際法に詳しい方の解説を待ちたいと思います。

また、一部SNS上には今回の長距離巡航ミサイルが、イランの地対地巡航ミサイル「Hoveyzeh」に似ているとの見方もありました。

Hoveyzehは、射程1,350km。弾頭部が違うかな、とも思いますが、主翼、操舵翼、空気取入口などの形状は似ているように見えます。

仮にイランからの技術提供であるなら、大量破壊兵器計画の投射手段の移転ということになるので、イランによるUNSCRの違反にあたるかもしれません。

長距離巡航ミサイルの搭載重量は不明ですが、射程300km以上なのでMTCR(ミサイル技術管理レジーム)の方面からも怪しい案件ですが、残念ながら北朝鮮もイランも参加国ではありません。


弾道ミサイルと巡航ミサイルの違いは?

弾道ミサイルと巡航ミサイルはまったく別物です。

たとえば、北朝鮮が日本攻撃専用に配備している準中距離弾道ミサイル「ノドン」と比較すると、まず速度が大きく違います。ノドンは燃料が燃焼完了した時点での速度が、秒速約3.2km(マッハ9.4)。一方の長距離巡航ミサイルは、今回は実験でかなり蛇行しているものの平均して秒速約0.2km(マッハ0.7)。米国のトマホークも同じくらいの亜音速です。

弾頭重量は、ノドンが1,200kg。長距離巡航ミサイルがトマホークやHoveyzehと近いものであるなら、ペイロードは450kgほどと見られます。北朝鮮は、核の小型化(直径90cm以下、重量1,000kg以下)も進めていると見られますが、現時点で長距離巡航ミサイルに搭載できるかどうかは不明です。なお、通常弾頭では破壊力が小さいため、米国がトマホークを運用する際には100発以上つるべ打ちしています。北朝鮮が通常弾頭で使用するつもりなら、大量に配備する必要があります。

弾道ミサイルと巡航ミサイルの大きな違いのひとつに、軌道が挙げられます。弾道ミサイルは発射から加速中に慣性航法(INS)でほぼ落下点が決まり、基本的に外部からの測位信号の妨害を受けずに落ちていく状態になります。ノドンの場合、発射から約320秒前後には高度約360kmの大気圏外に達します。

一方の巡航ミサイルは、水上では慣性誘導またはGPS誘導等を使用して事前に入力された飛行経路をたどり、高度は30m以下です。陸地になると、地形/等高線照合(TERCOM)によって支援されます。ミサイルによっては、さらに終末誘導を受けて自分の位置が補正されます。結果的に、うねうねとした軌道を描くのが巡航ミサイルの特徴です。

加えて、こうした速度や誘導方式の違いゆえに、巡航ミサイルは精度において弾道ミサイルを大きく上回ります。ミサイルの精度を示すCEP(Circular Error Probability)というものがあります。管見の限り、ノドンのCEPとして最も高い数字は、190m。中国が開発したGPS衛星「北斗」を活用しているとされ、極超音速で大気圏外から落ちてくる弾道ミサイルとしては大変な高精度と言ってよいでしょう。しかし、亜音速で複数の誘導装置によって位置を修正しながら飛行する巡航ミサイルの精度はけた違いです。たとえばトマホークなら10m、Hoveyzehにいたっては1mとされています。北朝鮮の長距離巡航ミサイルの終末誘導と姿勢制御能力次第では十数mのCEPを持っていても不思議ではありません。


北朝鮮の巡航ミサイル開発の意図は?

2011年、オデッセイの夜明け作戦で、114発のトマホークがリビアの防空・通信施設を破壊しましたが、北朝鮮の巡航ミサイル戦力だけでは日米の防空システムを突破するのが難しいのは平壌も承知しているでしょう。北朝鮮の巡航ミサイル開発の目的は、1つには迎撃側の迎撃ミサイルを消耗させることであり、もう1つは迎撃側に同時多目標迎撃というミッションを強要する意図があると思われます。あくまでもノドンや北極星がBMD網を潜り抜けるための補助を担わせるでしょう。

日米は、弾道ミサイル+巡航ミサイル+航空機(ドローン含む)というようなハイブリッドな経空脅威に対し、同時対処を迫られ、数に限りがある様々なシステムの迎撃ミサイルを統一された指揮の下で連携させて運用しなければなりません。こうした状況を2000年代から想定していた米国では、陸軍のシステムだとIBCS(統合戦闘指揮システム)が登場し、海軍ではDWES(Distributed Weighted Engagement Scheme)というシステムの開発が進められています。これらは、複数の射手のうち、誰が射手として最適であるかを自動的に調整するシステムで、重複発射を防止することができます。

また米国は、同時多目標迎撃実験を何度も実施しています。PAC-3なんぞは21年前の2000年10月に複数目標同時迎撃実験を成功させています。むしろ近年のミサイル防衛実験では、事前通告なしの多目標迎撃が当たり前の課題となっています。短距離弾道ミサイル×2発 + 空中発射準中距離弾道ミサイル×1発 + 巡航ミサイル×2発の計5発を同時に迎撃する実験では、発射された模擬標的弾5発のうち4発の迎撃に成功しています。ほかにも、MQM-107巡航ミサイル標的とPAAT弾道ミサイル標的が同時に発射され、それをパトリオット・レーダーとセンティネル・レーダーが探知・追跡し、弾道ミサイル標的はPAC-3によって、巡航ミサイル標的はPAC-2によってほぼ同時に迎撃したりしています。

【参考過去記事】

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