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  • 2021年09月14日 10:46 (配信日時 09月14日 06:01)

なぜバイデンは撤退に「失敗」したのか - 小谷哲男 (明海大学外国語学部教授)

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米国人は、9・11同時多発テロの瞬間に自分がどこで何をしていたかを覚えているといわれる。他にそれほどの衝撃を米国に与えたのは、真珠湾攻撃とケネディ大統領の暗殺くらいであろう。

その9・11から20年を前に、タリバンがカブールを掌握する中で、米軍がアフガニスタンから撤退して「永遠の戦争」が終結した。米大使館から職員がヘリで脱出する模様や、タリバンの支配から逃れようとアフガン人が米軍の輸送機にしがみつく姿は、サイゴン陥落の再現を彷彿とさせるのに十分であった。

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バイデン政権が100人以上の米国市民、数万人のアフガン人協力者、さらには米軍がアフガン国軍に提供した兵器を置き去りにしたことは、1979年の在テヘラン大使館の占拠や2012年の在ベンガジ領事館の襲撃にならぶ屈辱的な外交の失敗とする評価も出ている。

サイゴン、テヘラン、ベンガジといえば、米外交の失敗の象徴であり、カブール陥落は米外交史上最大の汚点として記憶されることになるかもしれない。バイデンは上院議員として、また副大統領として半世紀近くアメリカ外交に深く関わってきたいわば「外交のプロ」である。そのバイデンがなぜ、このような惨めな形でアフガン戦争を終結させることになったのであろうか。

バイデンのアフガン撤退に影響与えた長男の死

バイデンは上院議員としてアフガン戦争に賛成する票を投じたが、後に反対の姿勢を示すようになった。09年のオバマ政権発足時には、副大統領としてアフガンへの増派の方針に閣僚の中で唯一反対した。

11年にはビン・ラーディンの殺害作戦の実施にも、失敗を恐れて反対した。当時国防長官であったゲイツは、回顧録の中でバイデンは重要な国家安全保障問題では常に誤った判断を下してきたと評している。アフガン・パキスタン特使であったホルブルックも、アフガンへの関与縮小を主張するバイデンの意思の強さに驚いたと書き残している。

アフガニスタン以外でも、バイデンの対外介入に対する姿勢には一貫性を見出すことができない。上院議員時代、バイデンはサイゴン陥落前の南ベトナムへの支援に反対し、湾岸戦争にも反対票を投じたが、ユーゴスラビアへの空爆には賛成した。バイデンはイラク戦争に賛成したが、副大統領としてはイラクからの米軍撤退を主導している。

しかし、近年のバイデンの対外介入への消極的な姿勢には、個人的な事情が影響していると考えられる。バイデンは、最愛の長男がイラクで従軍し、さらにその時の怪我が元で後に亡くなったことに何度も言及している。これを機に、息子や娘を兵隊として海外に送り出す家族の気持ちを強く意識するようになったという。バイデンのアフガン撤退へのこだわりにも、長男の死が影響していると考えられる。

米国世論を〝忠実に〟反映

このような個人的な事情に加えて、世論の動向もバイデンに大きな影響を与えている。アフガン戦争の終結はバイデンの公約であり、8割近い米国内世論もこれを支持してきた。カブール陥落の混乱の中での撤退には半数の世論がこれを支持しないと答えているが、撤退そのものに対する支持は揺らいでいない。

国内の関心はすでに経済回復や新型コロナウイルス対策、自然災害、中絶の権利などに向いており、アフガン撤退をめぐる失態は次第に米国人の記憶から薄らいでいくであろう。今年の9・11追悼式典でも、バイデンやブッシュ元大統領が国内の結束を呼びかけるなど、米国の内向きな姿勢が目立った。

バイデンのアフガン撤退への決意は、世論に広がる厭戦気分を的確に反映したものである。米軍撤退完了後にバイデンが述べた通り、20年におよんだ戦争でビン・ラーディン率いるアルカイダを掃討するという目的はすでに達せられ、タリバンが復権したとはいえアフガニスタンはもはや米国にとって死活的な利益ではないのである。

9・11は米国人に大きな衝撃を与えたとはいえ、米国がいつまでもアフガンに関与する理由にはならない。バイデン政権は「中間層のための外交」を掲げ、対外政策においても国内の労働者たちの生活の改善を重視するとしているが、その背景にはアフガン駐留や民主国家の建設は米国人の生活には利益をもたらさないという冷徹な判断が透けてみえる。

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