記事

『スマホ脳』の著者が断言…スマホで読んでもいい文章と紙で読むべき文章の根本的な違い

1/2

電子書籍の普及で、スマートフォンなどのデジタルツールで長文を読む機会が増えている。『スマホ脳』(新潮新書)の著者で精神科医のアンデシュ・ハンセン氏は「スマホは便利だが、使い方には注意すべきだ。思考力においては紙の優位性は揺るがない。たとえば難しい内容の記事を読むときは、スマホより紙の本のほうがいい」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、大野和基インタビュー・編『自由の奪還 全体主義、非科学の暴走を止められるか』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

狩猟時代にマンモスに挑む人間のイメージ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Denis-Art

ここ10年で世の中は最も速いスピードで変化している

——あなたの著書“Insta-Brain”の邦訳『スマホ脳』(新潮新書)は、世界的な社会問題であるスマホ中毒の構造と処方箋を説き、ベストセラーになっています。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツは、デジタルツールが脳に有害な影響を与えることを認識しており、自分の子どもに対してその使用を制限していたといいます。あなたがスマホの負の側面について認識したのはいつごろからですか?

ここ5年ほどです。といっても、初めから負の側面を認識していたわけではありません。私はもともと人間の行動や認識、また人類史に強い関心をもっていました。そして5年前の2016年ごろにふと気づいたのです。ここ10年の世の中は、人類史において最も速いスピードで変化しているのではないか、と。我々の行動がここまで変わったことは、この10年間を除いて他にありません。その理由を何とかして理解したいと思いました。

——現代の病理について考える背景には、より深い人類史的視点があったわけですね。

現在の人類にとって、自動車やコンピュータを活用し、食べ物が安価な値段で手に入り、国境を越えてどこへでも旅行できる世界はごく当たり前のものです。しかし我々がこのような生活様式で生きているのは、人類の歴史からいうと、ごくわずかな期間にすぎません。現在の環境は、人類にとって当たり前どころか、きわめて特異な状態なのです。たとえそのようには感じられないとしても。

人類は自らの肉体と脳を狩猟採集民としてサバンナの生活に適応させましたが、その後1万〜2万年のあいだに肉体と脳に生物学的な変化が起きたかというと、何も起きていない。すなわちそれは、我々がいまだに狩猟採集民であることを意味しています。人間の生理機能や心理機能を理解するためには、我々が人類史上、生物学的には変化していない前提をまず押さえる必要があります。

その問題意識が、『スマホ脳』の執筆に至る出発点でした。そして、なぜデジタルライフは我々にとってこれほどまでに魅力的なのか、なぜ毎日3〜4時間(ティーンエイジャーは5〜6時間)もスマホやタブレットといったスクリーンの前で過ごすのか、スマホ中毒から逃れようと思ってもなかなかできない、その根幹にあるメカニズムは何か、などについて解き明かしたかった。私がこの本を書いた目的は、現段階で科学的にわかっている事実を読者に提供することです。私の本を読んで、最終的にどういう行動をとるかはその人次第です。

現代社会で最大の商品は人間の関心

——デジタルツールという人類にとって画期的な発明が、我々に負の影響を及ぼしている側面は否めませんね。

実に多くの企業が我々の弱さにつけ込み、莫大な利益を上げています。それらの企業は、いままで我々がみたことがない形に世界を作り変え、社会のインフラとして確立している。ひいては我々の思考回路や情報の受け取り方、生き方さえも変えています。

たとえば、勘違いしている人が多いかもしれませんが、我々はフェイスブックの顧客ではありません。顧客だったら然るべき顧客サービスを得られるはずですが、そんなものはないでしょう。我々は顧客ではな く、フェイスブックの商品なのです。

現代社会最大の商品とは、何だと思いますか。お金ではありませんし、はたまた新型コロナウイルスのワクチンでもありません。それは、人間の関心です。我々人間の脳をハックして関心を集める力、これを各企業がまるで兵器のように行使している。こんな事態は、いまだかつて起こったことがありません。

もちろん、我々がデジタルライフに大いに助けられているのも事実です。そのプラスの側面はまず認識しなければなりません。そのうえで、デジタルライフから生じるマイナス面、副作用についても、真摯な議論を行なうべきです。

いまスマホが引き起こしている副作用はほんの幕開けにすぎず、我々の生活は高度なテクノロジーに今後さらに浸食されていくでしょう。テクノロジーに我々が適応するのではなく、テクノロジーのほうを我々に適応させるべきです。そして、テクノロジーのメリットとデメリットを慎重に議論すべきです。

スマホ依存は我々から心身ともに健全である要素を奪う

——精神科医として多くの患者を診察するなかで、デジタルライフの影響を感じる部分もあったのでしょうか。

そうですね。たとえば私が住むスウェーデンでは現在、睡眠障害を訴えるティーンエイジャーが2000年頃の約8倍に増えています。睡眠薬の使用も急増している。それはなぜか。ある研究によれば、いまのティーンエイジャーの約3分の1は就寝する際、ベッドにスマホを置いていることが判明しました。寝室ではなく、まさに寝るベッドの上にです。

デジタルツールが我々の関心を引くためにどれほど精巧に開発されているかを知ると、それが睡眠にとって有害であることに気づきます。睡眠障害で助けを求めてくる人へは、スマホを寝室から追いやり、代わりに目覚まし時計を枕元に置くようアドバイスしています。実行した患者さんたちからは、思ったほど難しくなかったという声を毎日のように聞きます。

ベッドに入り、それぞれのスマホに没頭するカップル※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Viacheslav Peretiatko

あわせて読みたい

「読書」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    自民党総裁選 所見演説や記者会見等 候補者4名の中で「高市ピカイチ」

    赤池 まさあき

    09月18日 14:39

  2. 2

    男性パートナーの得意な家事「皿洗い」に女性は不満?意識のギャップを防ぐカギは【9月19日は育休を考える日】

    ふかぼりメメント

    09月18日 08:50

  3. 3

    新型コロナの影響で「九九」の勉強がおろそかに 顕在化するコロナ禍の子どもへの影響

    石川奈津美

    09月17日 08:07

  4. 4

    総裁選で高市氏が怒涛の追い上げ 単純な「極右ムーブメント」とくくってよいのか

    倉本圭造

    09月17日 14:15

  5. 5

    「FIREブーム」は昭和バブル期のフリーターブームに似ている

    内藤忍

    09月18日 14:15

  6. 6

    高市早苗総裁候補VS小泉進次郎議員の抗争勃発?!重要争点の一つは「エネルギー政策」だ

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    09月18日 08:32

  7. 7

    自民党政権の危機管理の失敗【2】後悔のない対策

    山内康一

    09月18日 08:43

  8. 8

    米英豪が安保の新枠組みを発表、中国はTPP加盟を申請

    My Big Apple NY

    09月18日 09:21

  9. 9

    靖国神社公式参拝は当たり前では

    和田政宗

    09月18日 08:37

  10. 10

    先進国唯一の異常事態 「安値思考」から抜け出せない日本 - 渡辺 努 (東京大学大学院経済学研究科教授)

    WEDGE Infinity

    09月18日 10:45

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。