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”大辞職”時代の米国で、企業はキャリアアップ補助に邁進

一昔前にGreat Recession、<大不況>という言葉をよく目にしました。それと似たgreat Resignationという言葉が米国で広がっているようです。

Googleで検索したところ定着した日本語はないようですので、一応「大辞職」と直訳しておきます。

これが話題になっているのは、コロナのパンデミックから立ち直りつつある米国で、多くの企業が人材を募集していることもあり、より良い職を求めて、多くの人が現在の職を止める動きが鮮明になっているようなのです。

Pricewaterhouse Cooperが8月初めに行った調査では、新しい仕事を探していると回答した人はなんと65%にも達しました。5月の調査では36%だったそうですから大変な増え方です。

「従業員が離職する理由」として第1がサラリー、第2が福利厚生で、3番目に「キャリアアップ」が挙げられていました。キャリアアップの機会があることが、人材確保や離職防止に大事な要素になるということです。

Amazonが、この時期に全米75万人に及ぶという時給従業員を対象に「学士、準学士、各種資格取得のための授業料その他経費を全額負担」というプランを公表したのも、この脈絡で見ると分かりやすいようです。

パンデミックの間に、さらに規模を拡大したAmazonは、更なる従業員確保に躍起になっており、そのための勧誘材料なわけです。

AmazonがGallupに依頼して今年6月に行われた調査<The American Upskilling Study:Empowering workers for the job of tomorrow>によると、「新しい仕事に就くかどうかを決める際に、スキルアッププログラムに参加する機会があるかどうかが<非常に>または<とても>重要な要素だ」と回答した人は65%にも達していました。

また、「現職に止まるかどうかを判断する際にスキルアッププログラムに参加できるかどうかは<非常に>または<とても>重要だ」という回答も61%でした。

つまり、働きながらキャリアアップが図れる機会の提供は人材募集にも、離職防止にも効果的だという結果になったのです。

さらに、「もし新しい雇用主がスキルアップの機会を提供してくれたら転職するか」との問いには<非常に>または<とても>その可能性が高いという回答はほぼ2人に1人(48%)もいたのです。

小売の最大のライバル、Walmartは、一足早く7月下旬にその150万従業員を対象に、それまでの1日1ドルの負担で授業料と書籍代をカバーしていた制度を改定し、会社が全て負担することにし、それまで就業90日後だったのを、初日から認めることにし、提携大学も増やしました。

これに、34万人の従業員を抱える小売大手Targetも8月初めに追随します。40以上の大学や各種学校と提携、Walmartと同様の内容を、就業初日から適用すると発表しました。

こうした業界内の動きにAmazonも動かざるを得なかったのでしょう。これまでの「就業後1年経過者が対象で、学士号は含まず準学士号までで、授業料などの費用は後払いで95%」だったのを、「終業後90日後が対象で、費用は100%、前払い」に改めたのです。

そこで疑問。ハードワークで有名なAmazonの倉庫などで働く時給従業員に大学に通う余裕などあるのでしょうか?

その疑問の一部に答えてくれたのがFortuneの記事。それによると、Amazonの教育パートナーはオンライン、対面、Amazonの施設内のクラスなど様々な形式で授業を提供しているようで、「Amazonには37州にまたがる従業員のために110を超えるオンサイト教室がある」とのことです。

しかし、Amazonは、大学に通ったりオンラインやオンサイト教室で学ぶ時間まで提供するわけではありません。そこで、ペンシルベニア大学ウォートン校のPeter Cappelli教授は「学校が終わった夜や週末に働かなきゃならないので大変だから、わずかな人しかこのプログラムを使えないだろう」と悲観的な見立てです。

さらにこの記事を書いたQuartzの Courtney Vinopal 記者は重要な指摘をしています。それは「現在の連邦規制では。課税されることなく企業が従業員に提供できる年間の最大額は5,250ドルだ」という点です。

今の米国の大学授業料は高騰し、公立大学でも州内学生で10,560ドル、州外学生だと27,200ドルに達するそうですから、とても賄えない。これはその連邦規制は1986年に定められたもので、当時の米国の4年生大学の授業料は2,312ドルの過ぎなかったからとのことです。

ま、これはAmazonだけでなく、Walmart、Targetその他の学費負担を表明しているいくつもの企業のプランにも同じ懸念が及ぶように思われます。おそらく、各社とも承知して、提携する大学などとはなんらかの手を打っているのでしょうが、その詳細はプレスリリースなどには全くありません。

今年5月の当ブログ親が大卒じゃないととても不利な米国の現実でもご紹介しましたが、米国は日本以上に学歴社会で、大卒かそうでないかで収入も資産も大違いなのが現実のよう。であればこそ、AmazonやWalmartなどで働くブルーカラーの人たちの中にキャリアアップに熱心な人が少なくないのでしょう。

先に紹介したGallupの調査でも、過去12ヶ月の間に、働きながらキャリアアッププログラムに参加した人は52%もいて、年収は平均8.6%(平均8,000ドル)も増えたそうです。

またFortune500に入る米国の一流企業ではMBA(経営学修士)を取得するのを手助けするケースも少なくないよう。その一覧がここにあります。

アメリカ人って前向きで勉強好きなんだと感心しています。

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