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ビートたけし、明石家さんまをスターダムに押し上げた『オレたちひょうきん族』の名物ディレクターが語る仕事論

フジテレビが誇る伝説のバラエティ番組『オレたちひょうきん族』の名物ディレクター三宅恵介が自身の著書で語った仕事論。現代のビジネスマンにも通じる考え方があったため、三宅さんの著書から気になるところをまとめました。

放送作家の深田憲作です。

今回は「フジテレビ黄金期を築いたバラエティの演出家」について書いていきます。

YouTubeで人気の「本要約チャンネル」を“テレビマンの本でやってみるコラム”の第6弾です。

これまで『水曜日のダウンタウン』を演出するTBS局員・藤井健太郎さん、『マジカル頭脳パワー‼』『エンタの神様』などを演出してきた元日本テレビ局員・五味一男さん、映画『おくりびと』の脚本や『くまモン』の生みの親として知られる放送作家・小山薫堂さん、『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』『テレビ千鳥』などを演出するテレビ朝日局員・加地倫三さん、『ゴッドタン』『あちこちオードリー』などを手掛ける元テレビ東京局員・佐久間宣行さんについて書かせていただきました。

今回はフジテレビのエグゼクティブディレクター・三宅恵介さんの『ひょうきんディレクター、三宅デタガリ恵介です』という本です。

ひょうきんディレクター、三宅デタガリ恵介です Kindle版

本のタイトルに「ひょうきんディレクター」と入っていますが、三宅さんはビートたけしさん・明石家さんまさん・島田紳助さんといったそうそうたるメンバーが出演していた伝説のお笑い番組『オレたちひょうきん族』を手掛けられていた方です。

Getty Images

『オレたちひょうきん族』は1981年から1989年まで放送されていて、僕は番組終了時に小学生だったため、番組を見ていた記憶は残っていません。ある程度の年齢になって色々な番組で三宅さんがさんまさんにイジられているのを見て、存在を知りました。

三宅さんは『オレたちひょうきん族』以外には『あっぱれさんま大先生』『ライオンのごきげんよう』『はやく起きた朝は…』などを手掛けてこられた演出家で、正真正銘のレジェンドテレビマンです。

テレビ・お笑いが好きな方であれば『めちゃ×2イケてるッ!』の総監督を務めていた片岡飛鳥という名前を聞いたことがあるかもしれません。その片岡飛鳥さんがフジテレビに入社後、ADとして担当した番組が『オレたちひょうきん族』であり、片岡飛鳥さんの師匠にあたるのが三宅さんです。

僕はこの本を読むまで、三宅さんが若手の頃はフジテレビがずっと黄金期だったのだと勝手に思い込んでいましたが、そうではなかったようです。この本の中で、昭和55年(1980年)、三宅さんがADからディレクターに昇格して3年目の31歳の時に『フジテレビは出直そう』という合言葉のもとに組織の大改革が行われたと書かれています。近年、フジテレビといえば視聴率の低迷がメディアで報じられることがありますが、当時のフジテレビは今の状況と似ていました。

この時の改革をフジテレビ社内では「フジテレビの55年体制」と呼んでいるそうですが、この改革を経て1982年から1993年まで12年連続で視聴率三冠王を獲得するというまさに黄金期を築くわけです。

苦しい時代から頂点に上り詰めるまでを現役バリバリのディレクターとして経験した三宅さんが、どんな思いや理論を持って番組作りをしたのかにはテレビマンとして非常に興味を持ちました。またそこには、テレビ業界以外のビジネスマンにとっても有益な話が含まれていることでしょう。

萩本欽一が語る「テレビ作りでは無駄なことをやれ」

BLOGOS編集部

この本を読んで、全体を通して印象に残ったのは、三宅さんがディレクター人生の恩人であり、師匠であると述べている萩本欽一さんの教えでした。

テレビ番組でもタレントの口から萩本欽一さんのテレビ論が語られているのは見たことがありますが、それはあくまで後輩のタレントへの言葉であるためタレント目線の理論であることが多かったと思います。

この本に綴られているのはディレクターである三宅さんに向けた言葉のため、萩本欽一さんが持つテレビの演出論が多く綴られていました。その中で僕の印象に残った4つをご紹介します。

1つ目が「テレビ作りでは無駄なことをやれ」という教え。

例えば、三宅さんが演出をされていた『ごきげんよう』ではサイコロを振って「情けない話」というトークテーマが出た時にMCの小堺一機さんがお客さんと一緒に「せーの!ナサバナー!」などと叫ぶくだりがありました。一見、このくだりはどうでもいいことなのでやる必要はありません。しかし、これが番組を象徴するシーンとなり、この部分が学校や職場で話題になったり、真似されたりすることで番組に弾みがついていたのだと書かれています。

『ごきげんよう』で同じく“一見無駄に見えること”の例として、ゲストの話が終わった後の席替えタイムで自分のおやつを持ったまま席を移動するシーンについて述べられています。これも本来であれば移動シーンは編集でカットしてオンエアでは使わず、スタッフがおやつの移動などを行えばいいと思いがちですが、移動の際の出演者の動きに人柄や素が表れていたといいます。

近年のテレビは視聴率の推移が1分毎に分かる視聴率グラフを重視して番組制作を行っていますから、視聴率が落ちそうな無駄な部分は極力省こうとする傾向があります。しかし、無駄が省かれすぎた結果として番組が平坦なものとなり、個性を殺していることも多々あるのかもしれないと思い、この萩本さんの教えには自戒の念を抱きました。

萩本欽一の教え「笑いとは普通をズラすこと」

萩本欽一さんの教えで僕の印象に残った2つ目が「笑いとは、普通を考えてから普通をズラすこと」。

ある時、萩本さんから「三宅ちゃん、笑いって何だと思う?」という質問をされたそうです。萩本さんの答えは「笑いとは普通をズラすこと。だからまずは普通ならどうするかを考えて、それをズラしたり逆のことをやればいい」

萩本さんはその例えして「女性が痴漢に襲われたら普通は『助けて!』と言う。でも、そこで『好き!』と言ったらそこで笑いが生まれるでしょ?」と話されたそうです。

萩本さん自身も普段から普通の生活をすることを心掛けていたといいます。こういったことは僕も先輩から「クリエイターというのは奇人変人をよしとする風潮があるが、常識外のことをするためには誰よりも常識を心得ていないといけない」と教えられ、腑に落ちた腹落ちしたことがありました。萩本さんもそのような考え方を持たれていたようです。

3つ目は「素人いじりの名人」と言われていた萩本欽一さん独自の理論「素人は3つのことを同時にできない」

『欽ちゃんのドンとやってみよう!』という番組のタイトルコールを素人の方に叫んでもらうというCM撮影の時に三宅さんは、萩本さんの教えに従い出演する素人の方に①カメラを見て②「欽ちゃんのドーンとやってみよう!」と叫んで③「ドーン」のところで右手を上げてください、と演出したそうです。すると、素人の方はこれが全くうまくできなかったため、微笑ましくて面白い映像になったのだとか。

テレビで素人を面白く輝かせている番組はたくさんありますが、演出家として狙って高い確率でその面白さを引き出すことこそがプロの仕事なのでしょう。

現在、素人の面白さを見せている番組には『月曜から夜ふかし』『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』などがありますが、面白いキャラの素人を見つけるために多大な労力をかけていることは大前提でありながら、取材時、画面には見えていないところでこうしたノウハウが使われているのでしょう。

素人の面白さを引き出す番組を思い浮かべてみると、日テレとテレ東が多いなと感じます。おそらくこの2局では伝統的に素人の魅力を引き出すノウハウが引き継がれているのではないのでしょうか。

恋愛がうまくいっている人はスタッフやキャストに起用しなかった


萩本欽一さんの教えで僕が印象に残った4つ目が、萩本さんが人事の判断基準にしていた「人生プラスマイナスゼロ理論」

これは「人間が神様から与えられた運はみな平等。違いはその運をどこで使うかだけだ」というもの。人生を①家庭②身体③金銭④仕事の4つに分けて、この4つ全てでうまくいく人間がいるわけがないという考えで、萩本さんは自分の番組のキャストやスタッフには結婚しそうな人や恋人とうまくいっている人は起用しないという方針だったそうです。

この考えで僕が感心したのは「人生がプラスマイナスゼロ」という理論ではなく、萩本さんが仕事の1つ1つの行動に明確な指針を持っていることです。

多くの仕事がそうかもしれませんが、テレビ番組の制作に明確な正解はありません。萩本さんや三宅さんのように組織のトップとなる人は、日々とてつもない数の決断を迫られます。「映画監督は質問に答えることが仕事」と言われていますが、これは「このシーンのテーブルの上に置いてあるコップはどんな形ですか?どんな大きさですか?」「タイトルのロゴはどんなのがいいですか?」「このシーンでどんな音楽をかけますか?」など、小さくて細かい決断を膨大な数こなさなくてはいけないという意味で、テレビの演出家も同じだといえます。

そんなトップの人たちの判断が鈍かったり、曖昧だったりした場合、組織はうまく回りません。だからそれぞれが自分の中に判断基準を持っているのでしょうが、萩本さんもタレントでありながらそのようにあらゆる物事を決定するための判断基準を明確に持っている方なのだろうなと思いました。

『オレたちひょうきん族』の会議は少数でしか行われなかった

最後に三宅さんの代表作でもあり、読者のみなさんが興味を持っているであろう『オレたちひょうきん族』に関する記述をご紹介します。

『ひょうきん族』といえば、今では伝説のお笑い番組として語り継がれていますが、ビジネス視点で注目すべきは「元々は視聴率30%以上を記録していた絶対王者『8時だョ!全員集合』に対抗する裏番組として始まり、弱者の兵法で戦に挑んだ番組であった」ということです。

そのため、この本でも書かれている『ひょうきん族』の番組作りの発想は『全員集合』をもとに進められています。例えば、『全員集合』が生放送だったため『ひょうきん族』はVTR収録で時間をかけて作りこむ。『全員集合』のターゲット層が小学校低学年から中年男性まで幅広かったため『ひょうきん族』は小学校高学年から上の年齢層で若い女性を取り込みに行く。

オチに向かって計算された笑いが『全員集合』であるのに対し、『ひょうきん族』はアドリブやハプニングを活かしたドキュメントの笑いで勝負する…といった具合です。

見事なチームプレーができあがっていたドリフに対抗するため、それぞれのタレントのキャラクターを活かし、徹底した個人プレーで勝負した結果、明石家さんまさんのブラックデビル、アミダばばあ、ビートたけしさんのタケちゃんマンといったテレビ史に残るキャラクターが生まれていったというわけです。

そして番組作りの話で意外だったのが、『ひょうきん族』がスタッフ全員による制作会議をやっていなかったということ。何か面白そうなアイデアが浮かんだ時に大勢で会議をすることで、熱が冷めてつまらないものになってしまうという理由からだったそうです。ディレクターと放送作家による少数の会議で面白いと思ったことは、その面白いと思った気持ちが熱いうちに実行していたのだとか。まさに鉄は熱いうちに打て。

これに関しては身に覚えがあるというか、個人的に納得感がありました。全体会議などで多くの人のチェックにさらすという行為は企画を磨いていく上でさまざまなアイデアが足し算されていく良さがある一方で、元々尖っていた発想が無難で丸いものになっていってしまうケースも多々経験してきました。

番組の種類や組織の状況によりますが、初期衝動の熱い思いをできるだけ熱いまま実行することの大切さは考えなければいけませんね。

この他にも明石家さんまさん、ビートたけしさんといったレジェンド芸人のエピソードも数多く記されていたので、ぜひAmazonで購入してお読みください。

深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
・Twitter @kensakufukata
日本放送作家名鑑

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