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  • ロイター
  • 2021年09月09日 10:25 (配信日時 09月09日 10:23)

焦点:欧州EV革命、大量解雇の恐れ 抗議活動も


[ブリュッセル 6日 トムソン・ロイター財団] - アンドレア・クネーベルさん(55)はこの20年間、ドイツ・ビュール市にある自動車部品大手ボッシュの組立工場で働き続けてきた。しかし欧州が化石燃料車から電気自動車(EV)への転換を加速する中、同社は2025年までに人員を700人削減する計画だ。クネーベルさんはその1人になるかもしれない。

欧州連合(EU)は、域内の温室効果ガス排出量の約15%を生み出すガソリン・ディーゼル車について、2035年以降の実質的な販売禁止を提案している。

EVセクターの労働者は従来の自動車に比べてはるかに高い職能を要求される上、必要な人員は少なくなる見通しだ。欧州自動車製造工業会(EAMA)によると、自動車産業はEUの労働人口の約7%に相当する1460万人の雇用を直接、間接に生み出しているが、大量の解雇が行われる恐れがある。

労働組合員のクネーベルさんは、労働者を代表して経営陣と交渉を進めてきた。しかしホワイトカラー職に就く彼女自身のポストさえ安泰ではないかもしれない。

クネーベルさんによると、ビュールとビューラータールにあるボッシュの工場では今のところ、EV製造のスキルを身につけるための再訓練の機会はほとんど提供されていない。

労組は2工場の従業員3700人のうち、最大で半分が最終的に職を失う可能性があるとみている。ドイツ全体では数千人のレイオフが実施される見通し。もっともボッシュの広報担当者は「できる限り社会的に受け入れ可能な」方法で行うだろうと述べた。

広報担当者は、ディーゼル車用のパワートレイン・システムの製造にはEV用の10倍の労働者が必要だ、とも説明した。

代替となる雇用や訓練の機会が提供されない限り、これだけの規模の人員余剰は、低炭素経済への移行に伴う社会的コストについて厳しい疑問を提起することになる。

エコノミストの間では、環境に良い製品や事業モデルへの移行は雇用と成長にプラスの影響をもたらす、との見方が強まっている。しかし比較的高齢かつ職能が低く、再配置が不可能で再訓練の機会も与えられない労働者には特別な支援が必要になると、労働者の権利向上を求める活動家らは訴えている。

クネーベルさんはコンサルタントの仕事を探そうかと考えているが、「私の年齢では」成功するかどうか分からないと話した。

欧州の労組はEVへの急速な移行を強く支持してきた。最近の調査では、クリーンエネルギー産業が生み出す雇用を勘案すると、2030年までに失われる雇用は正味3万5000人分にとどまると試算されている。

加えて、EV充電インフラの製造、設置、運営で10万人以上の新規雇用が生まれそうだという。

しかし労組内からは、こうした予想は楽観的だとの声も上がる。

<抗議活動の恐れ>

世界中で5000万人の労働者を代表するインダストリオール・ユニオンの副事務総長、ジュディス・カートンダーリング氏は「移行の進め方について明確な計画が無ければ、数百万人の雇用が危機にひんする」と訴える。「『公正な移行』が空っぽの言葉や約束にとどまるなら、反発の種をまくだけだろう」と強い懸念を示した。

同氏は、フランスで2018年から19年にかけて起こった燃料価格引き上げに対する抗議活動「黄色いベスト運動」のような、大規模な反発が巻き起こりかねないと危惧する。この猛抗議によって国の一部で経済活動が停止状態に追い込まれた。

「経済的な不安に駆られる人々はポピュリスト(大衆迎合主義者)の格好の標的だ」とカートンダーリング氏は付け加えた。

労組が隠れた問題として警戒するのが、比較的賃金の低い東欧の工場への生産シフトが加速する可能性だ。

英エンジニアリング企業GKNでは8月、同社を傘下に収める投資会社メルローズが計画したバーミンガム工場閉鎖とポーランド工場への生産移転を巡り、労働者がストライキを行うかどうかの採決が実施された。メルローズの広報担当者は工場閉鎖の理由について、EV移行の流れによってガソリン・ディーゼルエンジンの需要減少が加速したと説明している。

欧州自動車部品工業会(CLEPA)のシグリド・ドゥ・ブリー事務総長は6月のオンラインセミナーで、EV電池工場では自動車産業の他分野で失われる雇用を補うほどの雇用は生まれないと予想。また、EVセクターの新たな職種の約4割は、4年の訓練と高い教育水準を必要とし、化学プロセスやデータ分析の知識も求められると述べた。

<産業革命との声も>

欧州の労組、企業経営者、環境団体は7月、EUに対して異例の共同声明を出し、「公正な移行」を支援するためにもっと資源を投入するよう訴えた。声明は、自動車労働者240万人のスキルアップと再訓練を要求し、「これは歴史的に重要な意味を持つ産業革命だ」としている。

労組は米EV大手テスラがドイツのグリューンハイデで年内に稼働を予定する工場「ギガファクトリー」を、試金石として注視している。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)がかつて、従業員が労組を結成すればストックオプションを取り上げる可能性を示唆しただけに、なおさら注目度は高い。

金属産業労組(IGメタル)のクリスチャン・ブランクホルスト理事は最近のイベントで「こうした新工場で労組を結成するのは大変な仕事だろうが、やらなければならない」と言い切った。

テスラのコメントは得られていない。

(Arthur Neslen記者)

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