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安倍前首相の菅首相後継指名が失敗の原因 ー同じ東北出身の鈴木首相と比べると菅首相は器が小さいずるい政治家だった

<企業と違って政治では後継指名は無理筋>

 企業の場合は、社長が次期社長を指名し本人が会長等に退いて引き継がれていく。それに対して政治の世界では「後継指名」と言葉では出てくるが、実際は前首相が後継を指名することは希である。政治家は企業と違い有権者が選ぶものであり、議院内閣制の日本では、首相を国会議員が選ぶ。その前に、今の政権与党の自民党総裁が自動的に総理に選ばれるが、総裁は党員投票も含め選挙で選ばれる。だから時の首相が次の総理を決めようとしても無理であり、そこに前首相があれこれ介入するのは民主主義に悖ることになる。

<政界は何事も選挙で選ぶ>

 後継指名でなくても、田中角栄首相がそうであったように、2年で首相を退いても、後々大派閥を背景にキングメーカーとしていろいろ口を出すことになった。それでも最終的には自民党の総裁つまり日本の首相は自民党内の選挙で選ばれる。だから政治の世界では後継指名はなかなか見られない。特に三角大福中がひしめき合ってしのぎを削っていた自民党の黄金期には、後継指名などあり得なかった。

<トップは去り際が大切>

 ところが、安倍長期政権でやはりおかしな方向に進んでしまっている。後継の菅首相は明らかに安倍首相の指名であった。その結果が1年しか持たないという惨憺たる結果になっている。世界は再び首相の使い捨て(竹下首相の口癖)が始まり、日本政界は不安定化していると危惧し始めている。日本の評価を落としているのは明らかである。

 私はやはり政治の世界は後継指名はむしろ慎むべきであり、引退したトップは後は他の人たちに任せるのが常道であると考える。そういう点では細川護熙や小泉純一郎、福田康夫等は首相を辞めた後衆議院議員にもならなかった。それに対して我が野党側の元首相の菅直人、野田佳彦はずっと今も衆議院議員であり続けている。だから私は2012年に2人はもう政界を引退すべきだと公言してきた。

<トップの器と中隊長の器は最初から違っている>

 官房長官から首相になった人はどれだけいるか見ると、平成以降、小渕恵三、福田康夫、安倍晋三、菅義偉の4人だけである。その前もそうだが外相、財務相と比べるとずっと少ない。官房長官は言ってみればNO.2であり、やはりトップとNO.2は元から違っているからではないかと思う。

 役所にいたころ、私の趣味の先輩というのはアイデア豊富で、新しい事を積極果敢に取り組んでいる人たちであり、その人たちを見習って私は仕事をしてきた。ところが私の尊敬するそういった人たちはなぜかしら事務次官にはならなかった。おかしいと思っていたが、私は途中から切り込み中隊長と大将軍とは元から違うのではないかと思うようになった。

 つまり私が尊敬してやまない先輩たちは、言ってみれば切り込み中隊長として相応しくとも、ややこしい調整が必要とされる農政のトップには向かないのかもしれない。多くは何をしてきたのかわからない目立たない者が事務次官になっている。最近、一人私と同じ課で2回部下として一緒に仕事し上司として使い勝手のよい優秀な後輩が、次官になり農水省がキリキリ舞いさせられたようだ。私はその当時から「お前の部下になる奴等に同情するよ」と警告をしてきたが、無駄だったようだ。農水省の伝統はやはり墨守したほうがよいのだろう。

<期待を裏切った菅首相>

 政治の世界で言えば首相と官房長官は全く違った素養が求められており、官房長官でうまくやったからといって首相に相応しいとは言えないということである。2月3日のブログ(「菅首相の支持乱高下の理由は人柄への期待と見込み違い」)で報告したが、私は菅首相は、団塊の世代の代表であること、田舎生まれの代表であることからそれなりにうまく務めてくれるのではないかと期待していた。これは日本国民全般がそうで、驚いたことに内閣発足時には小泉純一郎、鳩山由紀夫に次ぐ第3位の高い内閣支持率を記録していた。

 ところがその後、瞬く間に支持率は下がっていた。案に相違して田舎の好々爺ではなく独善に陥った頑固爺にすぎなかったのだ。

<菅辞任は当然のこと>

 その弊害がもろに出たのが東京五輪とコロナ対策の関係ではないかと思う。オリンピックに拘り続け、コロナ対策は疎かにし五輪に合わせて緊急事態宣言を発したり解除を早めたりというめちゃくちゃなことをしてしまった。国民の目は確かである。こうしたことで国民をイライラさせ支持率は急激に下がっていった。私はもう辞任は時間の問題だと思っていた。権力者は何でもできると言うが、これだけ仲間内からもNOのシグナルを出されてはやっていけまい。あっさりと突然辞任した。

<鈴木善幸首相の見事な退陣>

 私は首相の去り際というのを間近で見たことがある。鈴木善幸首相の時(1980年~82年)、内閣府総合安保担当室に出向し、官邸に出入りしていた。鈴木首相は一般国民には全く無名で、Zenko, Who?と言われていた。三角大福中の権力闘争があまりにも激しいので、敵のいないベテランの鈴木首相が選ばれたのだ。自民党が健全だった頃の絶妙なバランス感覚である。

 丁度いい派閥均衡の上に立っていたので、皆が長期政権になるだろうと思い始めていた。しかし、私は近くにいてそろそろ退陣の表明をされるのではないかと思うようになった。それを同じ総合安保担当室に出向していた娘婿の浅見敏彦審議官 (大蔵省)にも後に外務大臣になる上司の川口順子内閣審議官にも言ったが、誰も信用しなかった。ところが、私の予測した通り鈴木首相は2年過ぎた秋に突然辞任を表明した。

<菅首相と鈴木首相の謙虚さの違い>

 どうしてわかったかというと、なかなか一言では言えないが、記者会見のときの言い回しと総合安全保障関係閣僚会議のときの態度等から感じ取った。自民党を落ち着かせろという使命を果たしたことから、その後を受けた中曽根康弘は5年の長期政権になった。鈴木首相には、自分は単なる中継ぎであり長くやることは慎もう、という控えめな態度が最初から見られた。私は菅首相が思いがけず総理になったということで、鈴木首相と同じような気持ちで政権運営をすると思っていたが、謙虚さなど少しも感じられず、放漫さだけが目立った。

<農業・農村への思い入れのない菅首相と漁業・漁村への愛情あふれる鈴木首相>

 そういえば、同じ東北の片や農村、片や漁村の出。菅首相は農業が嫌で飛び出し、野心のとりことなりあちこちの派閥を渡り歩き首相まで登りつめた。農業・農村への愛のひとかけらもみられなかった。安倍首相ですら、はっと息を呑む美しい田園風景を守るとかきれいごとを並べ立てたが、菅首相はそうしたそぶりは少しも見られなかった。

 それに対して鈴木首相は、ずっと漁業・漁村に尽くすことを第一とし、農林省を農林水産省に名称を変更し、水産庁長官を次官にしようと奔走するなど、漁業への思い入れはずっと続いた。首相になったらあらゆるまず公的な職は退くのがルールになっていたが、漁船海難遺児育英会の理事長だけは頑として続けた。もともと貧しい上に、父親も亡くした子供の学費を提供する仕事は、自分が死ぬまで続けるというのだ。 (内閣府出向中に書いた論文がもとで、本を出版し講演が相次ぎ、私は臨時的収入を得ることになった。役所の仕事の延長であり、大半は課の親睦会に消えていたが、私も鈴木元首相にならいこうしたお金数百万円寄附している。)

<息子の扱いも大違い>

 そして、息子俊一も全魚連に就職させ、後継にしている。一方、菅首相は、息子を総務省の息がかかった東北新社とやらに入れ、総務省の谷脇康彦局長、山田真貴子内閣広報官といった役人をスキャンダルに巻き込み辞任させている。あまりの好対照である。

 こうしたことの総合的結果として見事な退陣と追い込まれた上の哀れな退陣の差が出てしまったと言ってよい。

 後は、我々野党がどう戦うかという難問だけが残されてしまった。

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