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日銀は「2%のインフレ目標」を達成できないと思っているー片岡剛士氏インタビュー後編

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分析よりもストーリーを重視する一部の”市場関係者”


―市場は、安倍総理が「次元の異なる金融政策」を明言してから、円安・株高になっていますが、1月22日の協定はこの傾向を後押しすることにはなりませんでした。そういう意味では、市場は非常に真っ当な反応を示しているにもかかわらず、何故市場関係者から出てくるコメントは乖離しているのでしょうか?

片岡:答えづらい質問ですが(笑)、あえて言えば、市場関係者は関係者でしかないんですね。市場の結果を信じたくないという心理が根底にはあるのだと思います。それよりも「自分の思っているストーリー」があって、そのストーリーに沿って話をするというパターンが多いように感じます。市場を見て、どういうメカニズムで何が起こっているのか、ということを考えるはずですが、むしろそうではない捉え方をされる人もいるように感じます。

そういう方々は「今までの自分の意見を変えたくない」というのももちろんあるのでしょうが、例えば国債が値上がりしているという状況が、自分のよって立つ会社の利益になるかもしれないといったポジショントーク的な理由もあるのでしょう。ただしストーリーというのは分析ではないことに注意すべきです。

―聴く方はストーリーでは最終的に稼げない訳ですよね?にも関わらず、何故そんなストーリーに耳を傾けるのでしょうか?

片岡:そういう話を聞きたいということだと思います。もちろん独特なキャラクターから発せられる面白い話を聞きたいという人たちもいると思いますし、それは悪いことではありません。しかし、経済の分析ということで考えた場合には、間違えたことを永遠に言い続けている人達が社会的に尊重される社会というのは決して好ましいものではないと思います。それを例えばマスコミなどがありがたがって拝聴して、政府の審議会などに呼ばれて話をするようなことになると、専門外の方は「なるほど、そうか」という風に思ってしまうんですよ。そうすると政策といった形で具体的に影響を及ぼしてしまう。それを無自覚にやってしまっているというのもマスコミの問題だと思います。

また、マスコミは別の側面においても、金融政策を阻害している要因になっています。1月22日の金融政策決定会合に関する報道で「2%のインフレ目標」が決まったことについて、マスコミ各社は非常に好意的な報道をしました。しかし、一方で金融政策決定会合後の株価や為替は低調な反応だったわけです。これはつまりマスコミが伝えていた「良かった。これで金融政策をちゃんとやってくれるんだ」というような報道が、マーケットから見れば間違いだったということなんです。これは事実を正確に捉えていないということなんですよ。

―最後にざっくりとした質問ですが、今年は景気がよくなるのでしょうか?

片岡:金融政策云々に関わらず、悪化から回復という局面変化が生じるという意味では景気は良くなると思います。

海外経済に目を転じれば、中国もそこそこの成長率を維持しています。アメリカについても去年から踏み切ったいわゆるQE3(量的金融緩和政策第三弾)が非常に効いています。また、「財政の崖」問題もひとまず回避されて、それほど深刻な話にはならないんじゃないかという情勢ですから、そういう意味で明るい材料が出てきていると思います。1月の政府による月例経済報告においても、「一部に下げ止まりの兆しも見られる」という形で8カ月ぶりに上方修正されました。景気という意味ではちょっと下げ止まった感が見えてきています。

しかし、ここ15年程デフレが続き、さらに経済停滞が続いているという事実は、こうした景気循環のサイクルに基づくアップダウンとは別の問題です。中央銀行が2%のマイルドな物価上昇率を維持するような金融政策を行わない限りは、景気が多少改善したとしても十分な経済成長を確保できないため「良い」という実感を持ち得ないのです。デフレを続けている限り、実質2%程度の成長率、名目3~4%程度の成長率を続けていくのは不可能です。デフレに陥ったこれまでのわが国の経済成長率の推移が証明しています。

「2%の物価安定の目標」を設定し、デフレファイターとしての日銀のパフォーマンスを経済財政諮問会議にて3ヶ月に一回検討することが決まったのは一歩前進ですが、このまま状況が変わらないとすれば悲観的に考えざるを得ません。当面のポイントは日銀総裁・副総裁人事で誰が見ても明らかに「明確なリフレーション政策に日銀は舵をきった」と判断できる方が選ばれることです。「次元の異なる金融緩和策を行う」という安倍首相の発言が、日銀がひ弱なデフレファイターから頼もしいデフレファイターへと変貌するのではという予想をもたらすという形で進んでいるのですから、予想を具体的な実績が上書きしていくような形にならなければ、予想はいずれ修正を迫られることになるでしょう。今年は日本経済が「失われた30年」に陥らないための重要な一年になると考えています。

―本日はありがとうございました。

プロフィール

片岡剛士(かたおか・ごうし)
1972年愛知県生まれ。1996年三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2001年慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程(計量経済学専攻)修了。現在三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済・社会政策部主任研究員。早稲田大学経済学研究科非常勤講師(2012年度~)。専門は応用計量経済学、マクロ経済学、経済政策論。著作に、『日本の「失われた20年」-デフレを超える経済政策に向けて』(藤原書店、2010年2月、第4回河上肇賞本賞受賞、第2回政策分析ネットワークシンクタンク賞受賞、単著)、『円のゆくえを問いなおす-実証的・歴史的にみた日本経済』(ちくま新書、2012年5月、単著)などがある。

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