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日銀は「2%のインフレ目標」を達成できないと思っているー片岡剛士氏インタビュー後編

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BLOGOSが「知」のプラットフォームSYNODOSとタッグを組んでお送りするインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。

前回は金融政策の必要性や効果を中心に聞きました。今回は、日銀が金融政策に消極的な理由に迫ります。【取材・執筆:永田 正行(BLOGOS編集部)】

硬直した現状は政治にしか打破できない


―1月21~22日に掛けて金融政策決定会合が行われ、日銀と政府による共同声明が出されました。共同声明には「2%のインフレ目標」が明記されたものの、全体としては骨抜きに近い内容でした。何故、日銀はそれほどまでに金融政策を嫌がるのでしょうか?

片岡剛士氏(以下、片岡):昨年の11月半ば頃、当時の与党であった民主党と自民党の安倍総裁が論戦を行い、その中で、安倍総裁が「これまでと次元が異なる金融政策をやる」と明言したことが、現在のアベノミクスの流れのきっかけになっていると考えられます。その中で安倍総裁が要望していたのは2~3%のインフレターゲットの設定と、この目標に応じて日銀に金融緩和を行ってもらうということでした。

ただ1月の金融政策決定会合で「2%のインフレ目標」が明記されましたが、「2%のインフレ目標」に対応する緩和策は十分ではありません。政府と日銀が締結した共同声明が政策協定ではなかったこと、「2%のインフレ目標」に対応した追加緩和策は2014年以降についてのものであり、かつ2014年以降に行われる「期限を定めない資産買い入れ方式」に基づく金融緩和策は従来と何ら変わりがない。これらの問題点は具体的に拙稿(デフレ脱却のための「次元の異なる金融緩和策」に必要なこと )で指摘したとおりです。

なぜ積極的な金融緩和策に踏み込めないのかと言えば、率直に言って日銀としては2%のインフレ目標政策を受け入れ難かったためではないでしょうか。おそらく白川総裁は、「自分には実現できない目標だ」という風にお考えなのではないでしょうか。昨年11月に白川総裁は記者の質問に答えていますが、「例えばバブルが起こった87~89年といった期間においても、消費者物価指数で見たインフレ率がゼロ%台だった。景気が良かったバブル期においても、物価上昇率が低かったのだから2%なんてとんでもない」と述べていました。白川総裁はすべての財を含んだ総合指数、もしくは生鮮食品を除いたコア指数に基づく消費者物価指数でみたインフレ率に基づいて話をされていましたが、食料品及びエネルギーを除いた消費者物価指数(コアコア指数)で当時のインフレ率を計算するとバブル期(1985年~89年)のインフレ率は平均1.9%です。確かに他の時期と比較するとインフレ率は低いのですが、総合指数及びコア指数でみたインフレ率とコアコア指数でみたインフレ率とで差が生じる原因は1980年代後半に急速な円高が進んだことと、穀物やエネルギーの国際価格が値下がりしていたという特殊要因によるものです。2%という物価上昇率が高すぎることにはなりません。

また、これまでも日銀は「当面は1%の物価上昇率を目途とする」と言って金融政策を運営してきたのですが、それすらも達成できていません。展望レポートという形で1月に将来の物価上昇率の見通しを公表しているのですが、その中でも政策委員の方々の中央値は0.9%(2014年度)です。こうした点から見ても、「2%のインフレ目標」は達成できないと考えている。しかし、昨年の選挙で自民党が大勝し、国民の支持を得た政権の総理が2%と言っているわけですから、これを無視することはできません。ですから、表向き2%は受け入れたものの、できないなりに金融政策をやりましょうというポーズだけになってしまっているのではないでしょうか。

―それは、本気で「できない」と考えているのでしょうか?

片岡:本気だと思います。白川総裁の認識としては、「金融政策は十分やっている」ということなんでしょう。だからこそ、成長戦略が必要で、金融緩和だけではデフレから脱却できないということをしきりにおっしゃっているわけです。

ただ注意しなければいけないのは、「金融政策でデフレから脱却できない」もしくは「金融政策で物価安定を達成できない」と主張している中央銀行の総裁は世界を見渡しても、白川総裁お一人です。例えばアメリカのバーナンキ総裁は昨年1月末に、インフレ率についての長期的なゴールを定めているのですが、その時にFRBは2%の物価上昇率を達成できると言っています。ですから、「実現できる、責任がある」と明言した上で、対策を考えるFRBと、無理筋だという目標を政治的圧力によって、敢えて飲んだという形になってしまった日銀とはかなりの違いがありますよね。

―日銀は、「そもそも金融政策に効果がない」と考えているのでしょうか。それとも「日本が特殊な環境にあるから金融政策ができない」と考えているのでしょうか?

片岡:これは両方だと思います。日本はずっとデフレ状態が続いてきたわけですから、日銀の認識としては「できない」と思っているのでしょう。ただ、「金融政策が物価に影響を与えうる」ということを認めてしまうと、デフレが日本銀行の責任になってしまいます。それを回避するために「日銀の金融政策だけではデフレからは脱却できない」というロジックを作った上で「日銀は十分やっている」と主張しているわけです。「足りないとすれば政府の政策が足りないのだ」というのが日銀の主張ですね。

―そうなると、日銀が2%という目標を達成するということを、市場から信頼してもらうための制度として、日銀法を改正する必要があるということになってきますね。

片岡:必要な行動をとらせるためのシステム・制度的な枠組みが必要ということです。金融政策を政策担当者がやろうとしているけれども実は目標を達成できないと思っていて、具体的な金融緩和政策を行わない状況なわけです。無理だと考えているから目標に対してグダグダ言い訳みたいなものを考えている状況。そういう状況を誰が打ち破れるかといえば政治しかないんですよ。安倍首相のいわゆる「次元の違う金融政策」という発言が、株価もしくは為替にインパクトを与えて、市場が反応した理由というのは、こういった現状の組織体制の下で硬直していた状況を政治が打ち砕いてくれると期待したからではないでしょうか。

学者もしくは官僚といった専門家の影響ではなく、国民の意思を反映した政府がこれをやると明言したから初めて物事が前進するんじゃないか、と市場が捉えたという部分が非常に大きなポイントなのです。現状では、金融政策の手段という意味では具体的な形で進んでいない状態なのですが、これは行政、つまり実務部隊側の「できない」というゼロ回答を政府が飲んでしまったという形になっています。そうすると「やはり政治では日本はまだ変えられないのか」という風に、市場は反応してしまう。ですから政府が「自分達はこれをやると約束したんだから断固としてやるんだ」ということをきっちり押し通していく、そして具体策を実行にうつしていくということが今一番必要だと思います。

先ほども述べたように、2014年度までの見通しを立てている日銀の展望レポートの物価上昇率は0.9%と言うのが中央値です。しかし、お金の量をコントロールできる唯一の機関は日本銀行です。日本銀行がお金を増やさない限り、今のままではお金の総量が十分に増えていくとは考えられません。つまり、日本銀行が「2%を達成できる」と明言しない限り、誰も信用できないのです。にもかかわらず、日本銀行が一般のエコノミストや民間人と同じような目線に立って、「いや我々も0.9%と予想しています」と言ってしまっているわけですから、これではダメなんですよ。

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