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  • 2021年09月07日 10:39 (配信日時 09月07日 05:59)

ドイツ新首相選出前に潜むメルケル外交への批判 - 岡崎研究所

英国のシンクタンクIISS(国際戦略研究所)のギーゲリッチが、8月19日付けフィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説‘Germany must end the confusion over security and defence’で、メルケル後のドイツは、戦略的思考に基づいた安保・防衛政策に改め、権威主義的な大国である中国から自由主義的な国際秩序を守るために、軍事的な面を含む貢献を強めるべきである、と論じている。

Anton Litvintsev / iStock / Getty Images Plus

論説のポイントをごくかいつまんで紹介すると次の通りである。

・ドイツ人は国際問題について、曖昧な議論を通じて解決し得ると誤解しており、国際問題が国益の衝突であることを直視できずにいる。

・ドイツでは、米国と中ロとの間である程度の等距離をとるべしとの主張が目立つ。

・ドイツ人は、軍事力とパワーポリティクスを、今や存在しない、あるいは無視し得る古い秩序の残滓と扱いがちで、それゆえ国家目標を欠いて来た。

・安保・防衛については、ドイツの次期政権はメルケル時代の因習を放棄すべきだ。過去のドグマにしがみつくのではなく、戦略的思考を採用するようにすべきだ。

・中国とロシアといった修正主義的で抑圧的な大国の再台頭が、戦後のドイツの安全保障と繁栄の基礎となった国際秩序を脅かしているので、戦略的思考は必要かつ緊急である。

・西側の利益への最も重要な挑戦はインド太平洋で発生するだろう。ドイツの議論に欠けているのは、欧州の防衛はインド太平洋と結びついているという認識である。

ギーゲリッチ氏は、元ドイツ国防省職員であり、ドイツ人の安全保障気質を良く知っている。現在は英国IISSで働いており、なおさらドイツと他国の安保観の落差を感じるのであろう。上記の論説では、メルケルの外交・安保政策を厳しく批判している。

現在、ドイツは安全保障・防衛政策をめぐり分裂している。このギーゲリッチ氏のような見方をする人もいないわけではない。例えば、アンネグレート・クランプ=カレンバウアー(通称AKK)国防相はそうした一人である。しかし、彼女はメルケル率いるキリスト教民主同盟(CDU)で主流派にはなれず、首相候補の座から追い落とされた。

マスコミでは、今回の選挙戦では、保守系新聞のヴェルト紙もFAZ紙も、CDU後任候補ラシェット氏を支持しておらず、異様な選挙となっている。保守系メディアが離れた最大の理由が外交路線である。しかし、それはCDU本体を動かすには至っていない。CDUは支持率を下げているが、メルケル個人の評判はそれほど影響を受けていない。

一枚岩でない状況で日本はどう動くか

ギーゲリッチのような見方は、ドイツの中で増えてはいるが、いまだ半分よりはおそらく少ないだろう。諸政党の中では、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン、ノルドストリーム2に反対しているのは緑の党くらいである。

選挙後もおそらく、中国やロシアに甘い外交が続くものと思われる。ただ、決してドイツ国内は一枚岩でないことを意識して、日本としては自由主義陣営にコミットしている勢力としっかり絆を結んでおく必要がある。

日本では、緑の党をいまだに単なる市民運動の左翼と思われがちだが、日本の野党に比べれば、はるかに現実主義の政党である。特に外交・安保ではレアロと呼ばれる党内右派の安保専門家たちが、大変しっかりしている。

社会民主党と緑の党が連立したシュレーダー政権(1998年~2005年)では、外相を緑の党のヨシュカ・フィッシャーが務め、コソボ介入の軍事作戦も参加した。緑の党が選挙後に政権入りするとすれば、彼らは政権についたその日からNATOの一員としての責任を果たしていく準備ができていると言ってよい。

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