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香港情勢「次の標的」はネットメディア、報道の自由求めイギリスに脱出した記者に直撃

香港政府の弾圧、次は独立系オンラインメディアが標的だ

[ロンドン発]香港国家安全維持法(国安法)で蘋果日報(アップル・デイリー)が廃刊に追い込まれるなど「報道の自由」を奪われた香港の記者たちがイギリスに拠点を移している。日本では北海道の旭川医科大学で学長解任問題を取材中の新人記者が現行犯逮捕されると「記者は法律を守れ」という新聞批判が渦巻いた。「報道の自由」とは何か――香港の現状から考えてみた。

蘋果日報は6月、国安法に基づく資産凍結で廃刊になり、1千人近い従業員が職を追われた。ロンドン大学シティー校でジャーナリズムを教えるユエン・チャン上級講師は「蘋果日報にはセンセーショナルな報道や倫理上の問題があったことは間違いないが、香港政府高官の腐敗を暴き、北京に立ち向かう勇気もあった。その存在は香港における報道の自由と表現の自由のバロメーターだった」と振り返る。

Getty Images

次は独立系オンラインメディアが弾圧の標的だと若い記者たちは不安を抱く。民主派の抗議運動を報道するなど市民の声を伝えてきた立場新聞(スタンド・ニュース)は弾圧の口実を減らすため、5月より前に掲載されたすべてのオピニオン記事を非公開にした。公共放送のRTHKは中国に忖度して口を閉ざし、有料チャンネルのi-CableやNow TVでは香港政府や北京を支持する親中派が起用された。

立場新聞の前身である主場新聞(ハウス・ニュース)は14年7月、突然、閉鎖された。関係者の1人は「100%確かなことは分からないが、背後に中国共産党の圧力があったとみられている。その年の12月、立場新聞に生まれ変わり、15人で再スタートを切った」と打ち明ける。

14年、香港では学生が民主化を求めてデモを繰り広げ、世界中から「雨傘運動」として注目された。主場新聞の創業者は運動を支援したが、公の場から姿を消し、一部メディアは中国公安に逮捕されたためと報じた。創業者は今も口を閉ざし、真相は闇の中だ。

蘋果日報から立場新聞に移った記者もいるが、「報道の自由」が息の根を止められつつある香港で記者職を見つけるのは至難の業だ。蘋果日報の元社員を救済するため香港記者協会は10万香港ドル(約141万円)以上の金券を配布した。「国境なき記者団」による「報道の自由度」ランキングで香港は2013年の180カ国・地域中58位から80位に転落した。

国境なき記者団ホームページ

今年7月に公表された香港記者協会の年次報告書には香港政府の徹底した言論統制と報道管制が報告されている。

(1)有名作家や放送局が標的
国安法のもと法律は言論弾圧の武器となり、香港政府が導入を検討している「フェイク(偽)ニュース法」は有名作家や放送局をターゲットにしている。

(2)公文書を調査した記者が有罪
香港政府は市民や報道関係者が公文書をチェックすることを禁止した。公文書を調査した記者が有罪になり、そのため調査報道を行うのが困難になった。

(3)報道関係者の定義を制限
香港警察が「報道関係者」の定義を一方的に改正し、フリーランスの記者、学生メディアの報道、市民ジャーナリストに制限をかけた。

(4)公共放送はトップ交代で政府のプロパガンダ機関に
RTHKでは今年、新しい放送局長が就任してから、透明性と編集の独立性は消滅し、政府のプロパガンダ機関と化した。

(5)コロナ危機による経営悪化を口実に調査報道記者を指名解雇
昨年12月、i-Cableがコロナ危機による経営悪化を理由に40人のスタッフを解雇。調査報道番組チームや受賞歴多数の記者が含まれていたため、抗議して編集者や記者が大量に辞職する騒ぎになった。

(6)コロナ報道にも当局から指示
香港政府からの指示と要求でコロナ報道のトーンが統一された。政府批判を避け、コロナ対策の成功例に焦点が当てられた。

香港からイギリスに逃れた記者「それでも私は原稿を書き続ける」

07年、香港の大学を卒業したあと蘋果日報で記者として働き始めたジェフさんは8年前、交際していた同僚の女性記者と一緒に渡英して英国籍を取得した。ロンドンから原稿を送っていたが、蘋果日報の廃刊で今、新しい仕事を探している。

「香港の未来を描けなくなって脱出した。今でこそ多くの人が気付いているが、そのころはほとんどの人が、中国共産党の影響力が強まり、香港の自由がなくなっていくという政治的な変化を気にもかけていないことが残念で仕方なかった」と振り返る。

香港のオンラインメディアで働くAさん(36)は今年2月、英政府の「イギリス海外市民(BNO)」ビザでイギリスに移住した。それまでの4年間は香港メディアの記者として働きながら日本の芸術大学で博士号を取得した。テーマは日本における芸術と社会だった。Aさんに「あなたにとって表現の自由とは何か」と尋ねてみた。

今年2月、イギリスに逃れてきたAさん(筆者撮影)

「表現の自由は私の人生にとって核心的な要素だ。これまで100%の表現の自由を享受してきたので、絶対に失いたくない。その自由はどんなことが言えて、どんなことが言えないのかに留まらない。権力や地域社会、人々にモノが言える自由が守られていることだ。それはジャーナリストとして独立した立場があるから認められている」

「悪いことは昨年6月末に施行された国安法で最後と思っていたが、その後も状況はどんどんひどくなったので香港を逃げ出した。香港では自由が奪われ、権力にチャレンジすることはできなくなったが、それでも私は原稿を書き続ける」とAさんは言う。

英政府によると、BNOビザ申請者は今年1~6月で6万4900人。イギリスに逃れてきた香港市民は3グループに大きく分けられる。政治活動家、中産階級世帯、香港の未来に希望を抱けなくなった若者たちだ。「中産階級の人たちは香港の財産を処分した金で、イギリスで住宅を購入している。ジャーナリストの僕は裕福じゃないから妻と賃貸住宅で暮らしている」と苦笑いした。

イギリスに逃れてきた香港市民の定住を支援する団体のロンドン市内ウォーキングツアーに参加する人々(筆者撮影)

「新疆ウイグル自治区と同じことが香港でも行われている」

今年3月、イギリスに逃れてきた香港のジャーナリストで元地方議員カワイ・リーさん(25)は返還1年前の1996年に生まれた。父親は平均的な労働者であり、母親は平凡な主婦、香港のどこにでもあるような家庭で育った。しかし「雨傘運動」で香港は政治化し、親中派と民主派に二分される。リーさんの家族も北京を擁護する母親、何も言わない父親、学生ジャーナリストだったリーさんに分断された。

「中国本土への容疑者引き渡しを可能にする逃亡犯条例改正案に端を発した19年の民主化デモで私はひたすら記事を書いた。一方、母親の勤め先は民主化デモの影響を受け、母親は解雇された。そんなこともあって母親は民主派を嫌い、北京を支持している。民主派の主張に耳を貸さず、民主派の1人である私も認めようとはしない」

共同通信社

香港の教育現場では、普段使われる広東語ではなく「普通話(標準音は北京語音)」のみを用いて国語の授業を行う小・中学校が増えている。「香港の母語は広東語なのに、普通話で教育を受けさせられる。新疆ウイグル自治区と同じことが香港でも行われている。中国は私たちに中国という制服を着せようとしているのだ」

リーさんが高校の生徒だった時、中国への愛国心を養う「国民教育」が小学校から導入されることになった。「中国が偉大な歴史を持っていることは知っていたが、中国とは何かを知らなかった。中国が求める愛国教育とは、何の疑問も抱かずに中国は素晴らしいと頭から信じる子供を育てることだ」

リーさんは19年の地方選挙に出馬して当選した。「抗議デモで名もなきヒーローたちが一斉に立ち上がった。中からシステムを変えられるかもしれないと考えた」。しかし今年1月、約50人の民主運動家や活動家が逮捕されるのを目の当たりにして自分の身に危険が迫っていることを実感した。自分は逮捕されずに、イギリスに逃れられたことに罪悪感を覚えることもあるという。

「僕たちは表現の自由の中で育った。物事には良い面もあれば悪い面もあることを知っているということだ」とリーさんは話した。

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