記事

助けを求められる「心理的安全性」が確保されると日本は変わると思います -「賢人論。」第146回(前編)石井遼介氏

1/2

「心理的安全性」という言葉を聞く機会が増えた人は多いのではないだろうか。1999年にハーバード大学のエイミー・エドモンドソンによる論文で提唱されて以来、経営学の分野で注目されてきた「心理的安全性」は、Googleの「プロジェクト・アリストテレス」で再発見されて以降、一気に認知度が高まった。

しかし、具体的な指針が少なく、「ヌルい職場では?」といった誤った概念も広まる中、日本人が実践しやすいように具体的なアプローチも踏まえて解き明かしたのが、株式会社ZENTech取締役の石井遼介氏の著書『心理的安全性のつくりかた』だ。心理的安全性を求める人が増える現代で実践するためのヒントを、石井氏に伺った。

取材・文/みんなの介護 撮影/丸山剛史

みんなの介護 まず、心理的安全性についての本を書こうと思われたきっかけや経緯にはどのようなことがあったのでしょうか?

石井 もともと私は、「個人がどう輝くか」というところに興味がありました。精神科医の志村祥瑚さんとの共著でそこに焦点を当てた『悩みにふりまわされてしんどいあなたに』(セブン&アイ出版)もあります。

この本は、質問に回答することで、さまざまな観点で自身の状況や問題を捉え直すことができるようになっています。うつ度や不安度が下がり、心理的柔軟性が上がるというメソッドで、国際特許も取りました。つまり、その場で被験者のメンタルを改善できるメソッドをつくったのです。

しかし、例えば「パワハラ上司」の元に戻ると、結局また落ち込んでしまう人もいます。そういった現実の中で人が輝くためには、「そのひと個人」を取り扱うだけではなく、所属する組織やチームという環境も大事だと学びました。そこからチームや組織に目を向け始めたのです。

みんなの介護 では、「心理的安全性」とは、どのような考え方なのでしょうか?

石井 一言でいうと、心理的安全性は、先輩・後輩などの立場にかかわらず、お互いに疑問に感じていることや意見を言い合えるチームの雰囲気であり、カルチャーです。『心理的安全性のつくりかた』の中では、「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」という4つの因子について触れました。

出典:『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)2021年8月30日更新

心理的安全性が高いチームは、この4つの因子が満たされています。

みんなの介護 心理的安全性が欠けることで、どのような問題が起こりますか?

石井 大きく2つ問題があると思っています。1つは「サムい職場」になってしまうことです。これはお互いに無関心で、他人のせいにする状況です。

もう1つは、「キツい職場」です。「必達」「もっと頑張れ」と目標やノルマは示されますが、なかなかサポートや助け合いが得られない・結果が出たときしか評価や承認されないのが、キツい職場です。介護現場はキツい職場であることが多いのではないでしょうか。

キツい職場では助けを求めづらい

みんなの介護 例えば、どのような点がキツいと思われますか?

石井 助け合いがないことで、本来の組織・チームなら十分達成できることまで、失敗するような事態が起きます。また、事前に一言確認しておけば避けられたはずのトラブルが、お互いに確認しないままズルズル放置されてしまったことで、起こってしまうというのが、心理的安全性がないキツい職場で起こりがちなことです。

4つの因子の「助け合い」で重要なのは、助けてくれる「親切な人」が多いかどうかに目が向きがちですが、「助けてください」と言える環境かどうかも重要です。誰もがすべてを察することが出来るわけではないからです。

特に、キツい職場では、「言いづらい」「言う機会がない」ことで、助けが求められないケースも多いように思います。「アラートを上げられるかどうか」という言い方をしても良いですね。

キツい職場では、ほかにも気になっていることを言いづらかったり、会議などで意見をフィードバックできる機会がなかったりして、上司に言えないまま一方的な指示を受けるだけで終わってしまうことも多いと思います。

介護現場で言えば、本当は利用者さんのために、もっとやりたいことや改善したいことがあるのに、「いちメンバー」からは悶々として言い出せない・話し合えないまま、日々が過ぎていくというイメージでしょうか。このようにキツい職場では、意見を言い合うことができず、成長の機会・改善の機会が減ってしまいます。

みんなの介護 言えないということでは、介護の職場では、ハラスメントの相談ができないという悩みを持つ方が多いです。これはどのように解決したら良いでしょうか?

石井 実際にはハラスメントと言えるような対応を受けたとしても、「これを言ったらわがままだと思われるんじゃないか」と考えたり、「恐縮して言えない」ところがあったりするのではないでしょうか。毅然と自分自身を主語にして「自分は嫌だと感じた」と言える人は多くはないでしょう。

そんなときは、より組織やチームが良いものになるために、「ほかのみんなも被害に遭っているかもしれないので、お伝えしたいのですが…」「もっと良い組織・チームになるために必要な改善だと思うのでお話するのですが…」といった「前置き」を置くと、少なくとも黙り込むことを避け、声をあげやすいと思います。

あわせて読みたい

「雇用・労働」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「ワクチン2回打てば安心」と思い込む高齢者が引き起こす社会の不和

    NEWSポストセブン

    09月19日 19:43

  2. 2

    目に見えないコロナとの戦いには「孫子の兵法」が有効

    自由人

    09月19日 22:49

  3. 3

    自民OB・舛添要一氏「岸田文雄総裁なら“疑似政権交代”のような雰囲気出せる」

    NEWSポストセブン

    09月19日 11:56

  4. 4

    自民党総裁選の4候補者が討論会 基礎年金と原発ゼロめぐり河野氏に質問が集中

    安倍宏行

    09月19日 15:05

  5. 5

    ヒートアップする総裁選 すべては菅首相と二階幹事長の決断のおかげ

    早川忠孝

    09月19日 15:35

  6. 6

    SNSで敢えて「時差投稿です」と言い訳 背景に日本社会の同調圧力の強さ

    内藤忍

    09月19日 13:00

  7. 7

    恒大集団(エバーグランデ)破綻で中国不動産バブル崩壊か

    藤沢数希

    09月19日 09:40

  8. 8

    中国の狙いは“人民元”拡大と知財保護? TPP加入なら専門家「今後は日本のメリットになっていく」

    ABEMA TIMES

    09月19日 12:13

  9. 9

    敬老の日 自民党総裁選⑺ 年金改革 河野氏提案の最低保障年金導入で消費税大増税???

    赤池 まさあき

    09月20日 08:28

  10. 10

    アンタタッチャブル「共演NG説」あった松本人志との共演急増のワケ

    NEWSポストセブン

    09月19日 09:23

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。