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「異次元緩和は机上の空論だった」それでも日銀が"失敗"を認めない本当の理由

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日銀の異次元緩和で日本経済はどう変わったのか。元日銀理事の山本謙三さんは「異次元緩和政策で2%物価目標を絶対視した結果、出口の見えない泥沼に陥った。財政赤字は拡大し、将来世代にツケを回し続けている」という――。

記者会見する日本銀行の黒田東彦総裁=2021年7月16日午後、東京・日本橋本石町の日銀本店
記者会見する日本銀行の黒田東彦総裁=2021年7月16日午後、東京・日本橋本石町の日銀本店 - 写真=時事通信フォト

根幹から変質した日銀の異次元緩和政策

米国では、ワクチン接種の進捗に伴う景気の回復を受けて、金融緩和の出口を探る議論が始まった。一方、日本では緩和の出口が一向に見えない。日本銀行が掲げる物価目標は、前年比2%だ。しかし、7月に公表した日銀の経済見通しでは、2023年度も物価は1.0%にとどまる。

異次元緩和の開始当初、「2年以内に達成する」としていた目標だ。これが一度も達成されることなく、すでに8年以上が過ぎた。日銀の見通しどおりであれば、開始から少なくとも10年は目標を達成できないことになる。

この間、異次元緩和の政策は根幹から変質した。本来ならば政策全体を見直すべき事態である。しかし、日銀は変質を真正面から説明することなく、「2%目標」の見直しも行わない。金融政策の漂流は続く。

「すべて講じる」から「待ち」の姿勢へ

異次元緩和の変質を端的に示すのが、物価目標へのコミットメント(約束)だ。13年4月の開始当初、日銀は2年以内に目標を達成するとして、「施策の逐次投入はせず、必要な施策をすべて講じる」と言い切った。

しかし、いまは、目標に達しない物価見通しにもかかわらず、追加の緩和措置を講じない。ただ「粘り強く金融緩和を続ける」とするばかりだ。「必要な施策をすべて講じる」とした当初の姿勢からは、180度の転換である。

この姿勢は、各国中央銀行が標ぼうするインフレターゲティング(物価目標政策)の理念からも外れる。インフレターゲティングは、物価目標と見通しの間のギャップを測り、これを埋めるように緩和や引き締めを行う政策枠組みである。23年度でも大きなギャップが残るにもかかわらず、追加の緩和措置を講じないのは「ターゲティング」に当たらない。

もちろん、背後にはゼロ金利制約があるだろう。しかし、日銀はゼロ金利制約の存在を認めない。むしろ「必要があれば、マイナス金利の深掘りも辞さない」とする。「必要があれば」というのは、異次元緩和の開始時に真っ向から否定した「施策の逐次投入」にほかならないが、特段の説明はない。追加緩和を講じない理由に、副作用を挙げるわけでもない。

現在の日銀の主張を一貫した論理の中で理解することは、ほぼ不可能である。

撤回された目標達成期限「2年」

異次元緩和の変質は、当初のもくろみが完全に期待外れに終わった結果だ。

2008年12月7日、ストックホルムのスウェーデン科学アカデミーにて記者会見するノーベル経済科学賞を受賞者したポール・クルーグマン氏
2008年12月7日、ストックホルムのスウェーデン科学アカデミーにて記者会見するノーベル経済科学賞を受賞者したポール・クルーグマン氏(写真=Prolineserver/GFDL-1.2/Wikimedia Commons)

もともとの政策フレームワークは、米国のノーベル経済学者、ポール・クルーグマン氏(ニューヨーク市立大学大学院センター教授)らが主張したロジックに依拠していた。①中央銀行が物価目標に強くコミットし、②量的拡大の継続を約束すれば、③国民の物価期待(インフレ心理)が高まり、④その結果実質金利が低下し、⑤経済活動が活発になる、という論理立てである。

日銀が物価目標に「2年、2%」を掲げ、調節目標に量的指標「マネタリーベース」を採用したのは、まさしくこのロジックに沿うものだった。しかし、「量的緩和を約束すれば、国民の物価期待が高まる」という見立ては、完全な空振りに終わった。

これ以上「2年、2%」を掲げても、国民は日銀の発信を信用しなくなるだけと考えたのだろう。2016年、日銀は「2年」を放棄し、目標達成期限を明示すること自体をとりやめた。

しかし、「2%」は見直さない

しかし日銀は、物価目標の「2%」は見直さない。自ら掲げた目標を8年以上達成できない以上、目標の適切さを疑うのが自然だが、「2%はグローバルスタンダード」といって、突き放す。さらに最近は、物価目標を達成できない理由として「適合的期待」(人々の根強いデフレ心理)の存在を強調する。

適合的期待とは、「人々の物価予想は過去の経験に引きずられがち」との説だ。とくに日本人は過去の実績から「物価は将来も上がらない」とみる傾向が強く、これが物価を上がりにくくしているという主張である。

しかし、1980年代半ば以降、物価が前年比2%を超えたのは、バブルの後遺症にあたる90~92年だけである(消費税率引き上げの年を除く)。いまさら「適合的期待」を主張されても、単に物価と経済の関係を読み誤っていただけにしかみえない。

金融政策を適切な軌道に乗せるには、読み誤りの理由を深掘りする必要がある。「適合的期待」との言葉だけで、説明を終えてはならない。

「量」から「金利」へ、しかし「量」の旗も降ろさない

日銀は、金融調節のターゲットも「量」から「金利」に戻した。異次元緩和の当初、日銀は調節上のターゲットを代表的な量的指標である「マネタリーベース」に据えた。

マネタリーベースとは、流通現金と日銀当座預金の合計をいい、日銀が世の中に直接供給するお金の総量を示す。お金の総量をターゲットとしたのは、大量の資金供給こそが国民のインフレ心理を駆り立てる、というロジックに立脚したものである。

実際、異次元緩和開始後の資金供給はすさまじかった。21年3月までの8年間で、マネタリーベースの増加率は+350%を超えた。しかし、消費者物価指数(全国、生鮮食品を除く総合)の上昇率はわずか+5%(年平均+0.6%程度)にとどまった。現実の量と物価の関係はきわめて希薄だった。当初のもくろみは完全に外れた。

こうした経緯を踏まえ、日銀は16年1月に「マイナス金利政策」の導入に踏み切り、さらに同年9月「イールドカーブ・コントロール」を導入した。金利であれば、実体経済に及ぼす効果をある程度定量的に推し測ることができる。調節上のターゲットは、量から金利に完全に切り替えられた。

しかし、日銀は表面上「量」の旗も降ろさない。現時点でも「イールドカーブ・コントロール付き質的量的金融緩和」を標ぼうする。「オーバーシュート型コミットメント」と称して、「物価が安定的に2%を超えるまでは、マネタリーベースの拡大方針を継続する」とも述べる。

日銀通り
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

本来、金利(市場金利)と量(マネタリーベース)を、同時にターゲットとすることはできない。金利水準の実現には、資金量を市場の需給に応じて伸縮させる必要があるからだ。実際、イールドカーブ・コントロールの導入により日銀が金利誘導を優先するようになってからは、マネタリーベースの増加額は大きく振幅するようになった。

それでも日銀は、金利と同時に量も追求しているかのように装う。異次元緩和を全面否定しないためのレトリック(巧みな言辞)とみなすのが自然だろう。

読み誤りを認めない日銀の態度が“出口”を遠ざける

こうしてみると、金融緩和の出口がはるかに遠い理由が分かってくる。第一に、日銀の頑なな態度がある。

みずから掲げた目標を何年も達成しないにもかかわらず、2%目標は見直さない。異次元緩和のフレームワークを根幹から変質させたにもかかわらず、一貫した政策をとり続けているかのように振る舞う。そのためにレトリックを多用する。

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