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「シウマイがかわいそうだ」崎陽軒が全国のスーパーより横浜で売ることを決めた"ある理由"

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「横浜の人は運動会があると必ずシウマイ弁当」

彼は「シウマイはやっと横浜のソウルフードになった」と語る。

「埼玉出身の女性が入社してきて、びっくりしたと驚いていたことがあります。

『社長、横浜の人は運動会があると必ずシウマイ弁当を頼んで食べるんですね』って。彼女は『埼玉では特定の弁当ばかり食べることはあり得ない』って。

幼稚園運動会※写真はイメージです - 写真=iStock.com/igaguri_1

確かに、シウマイとシウマイ弁当は横浜のソウルフードになっているんです。データを見るとわかりますよ。

総務省統計局が全国家計調査をやってますが、しゅうまいの消費量は毎年、横浜がダントツの一位。餃子は宇都宮と浜松が争っているけれど、しゅうまいは横浜。全国平均が一世帯で1000円弱なのに横浜は3000円近く(取材当時)。

また、餃子としゅうまいの消費量を比べてみると、全国どこでも餃子が多い。ただ、唯一の例外が横浜。横浜だけはしゅうまいが餃子を圧倒している。それだけ地元の人たちが好きなのがしゅうまいなんです。

さらに言えば、この統計のしゅうまい、うちのシウマイ弁当に入っているシウマイはカウントされていない。弁当というジャンルに入っている。ですから、数字以上に地元の人たちはしゅうまいを食べているんです」

ただ、今でこそ、同社はシウマイで知られるが、創業した当初は「何の特色もない駅弁屋」だった。

野並は「ええ、そうなんですよ」と言った。

「横浜は開港でできた新しい町です。それまでは貧しい漁村で、文化はなかったんです。その証拠に横浜にはお城がないでしょう。崎陽軒が創業した1908年は、開港して50年後。そのときは特色のない普通の駅弁屋で、まだシウマイは出してません。

何しろ横浜駅では弁当が売れなかった。横浜駅というのは東京駅に近すぎるから、みんな東京駅で弁当を買って、横浜を通過するときは車内で食べている最中でした。

なんとか売れるものはないかと考えて作ったのが、冷めてもおいしく食べられるシウマイだった。まだ弁当ではなく、名産品としてのシウマイでした」

だが、現在ではシウマイだけでなく、シウマイ弁当などの弁当類も同社の看板商品になっている。

「当日キャンセルOK」というマーケティング施策

「弁当類が伸びてきたのはお客様の食生活の変化です。以前、夕食は自宅の台所で作りました。そして、シウマイはプラス一品でした。でも今の消費者は台所に立つことが少なくなり、シウマイだけを買っても、食事にならない。

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ところが、シウマイ弁当ならば、そのまま一食になる。女性の社会進出もあり、疲れて帰ってきて台所で食事を毎晩、作るのは大変なんですよ」

そんなシウマイ弁当が売れるようになったのは社会の変化もさることながら、発売当初から行っていた、あるマーケティング施策が大きな要因となっている。

世の中には意外と知られていないけれど、同社はシウマイ弁当に関して特別のキャンセルポリシーを持っている。

野並は丁寧に説明してくれた。

「昔から、うちはシウマイ弁当に関して、当日の雨天キャンセルがOKなんです。朝、雨が降ったから運動会は中止。そのとき、幹事さんが当社に連絡してくれれば、キャンセル料を払わなくてもキャンセルできます。

当社では、シウマイ弁当を1954年に売り出してから、ずっとそうです。シウマイ弁当が売れる母数が大きいので、キャンセルされたシウマイ弁当を他の売店に回せば売れるんですよ。ただ、他の弁当はダメですよ。シウマイ弁当だけです」

同社の営業マンは「当日に雨が降ったら、うちはキャンセルできます」とトークをして、注文を取ってくるという。

そして、これは神奈川県を地元とする友人から聞いた話だが、「雨が降って、運動会が中止になっても、すでにシウマイ弁当を食べる気になっているから絶対にキャンセルはしない」とのこと。そういう人もいるわけだ。

シウマイ弁当が横浜や川崎など神奈川地区の運動会需要で独走しているのは、他の弁当メーカーが絶対に真似のできない「当日キャンセルOK」というマーケティング施策を取ってきたからだ。

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。noteで「トヨタ物語―ウーブンシティへの道」を連載中(2020年の11月連載分まで無料)
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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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