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  • WEDGE Infinity
  • 2021年08月31日 10:11 (配信日時 08月30日 05:59)

アフガンで負けていた米国に求められた巧妙な撤退 - 岡崎研究所

razihusin / Ungrim / iStock / Getty Images Plus

ワシントン・ポスト紙コラムニストのファリード・ザカリアが、8月16日付の同紙で、米軍がタリバンに勝てないことはつとに明らかだったことであり、その実態が覆い隠されていただけだと論じて、バイデン大統領のアフガニスタン撤退を基本的に支持する論説を書いている。

米国内外の言論は、バイデンのアフガニスタン完全撤退の決定に対する批判一色のようであるが、ワシントン・ポストのザカリアは以前にもバイデンの決定を支持する論説を書いたことがある。今回の論説も、アフガニスタンの政府が腐敗し正統性に疑念が持たれる存在であるが故に、政府とその軍はタリバンの攻勢に反撃して戦う意思も能力もとっくに失っていたと指摘し、米軍がその実態を覆い隠して来たが、タリバンに勝てないという事実は変えようがなかったと論じて、基本的に米軍のアフガンからの撤退を支持している。

8月16日、ホワイトハウスで演説したバイデンは、「アフガンの政治指導者は諦め国を逃れた。アフガン軍は時に戦おうともせず崩壊した。いずれにせよ、先週の事態の展開はこの時点でアフガニスタンにおける軍事的な関与を終わらせることが正しい決定であるとの論拠を強化するものである」と述べ、アフガン軍が戦おうとしない時に米軍に戦いを強化するよう命ずることは間違いであるとも述べた。

ザカリアの論説とバイデンの演説は同じことを言っているが、間違ってはいない。しかし、それなら、この判断を早きに及んで下し、もう少し巧妙な撤退の計画は作れなかったものか。無理な注文かも知れないが、判断の悪さを指摘されても仕方がない。

しかし、バイデンの演説には悲劇と混乱の責任をアフガニスタンに転嫁するものとの批判がある。米国の行動がアフガン政府と軍に無力感と自棄の感情を起こさせた可能性があることを考えれば、この批判には理由があるであろう。特に、トランプは撤退を急ぎたいばかりにアフガン政府の頭越しにタリバンとの交渉に踏み切り、「イチジクの葉」の如き合意に至った。

その関連で、嫌がるアフガン政府に援助の停止を脅しにタリバンとの捕虜の交換に応じせしめるなど(解放された捕虜がタリバンの戦闘力を強化したとの説がある)、高圧的な態度が目立った。このドーハ合意で米軍の後ろ盾を失うことを知った政府軍の兵士が無駄な努力を放棄しタリバンとの取引きで武器を捨てる事態が相次ぎ、ドミノのように拡大したとの観測は恐らく当たっているであろう。

ザカリアの論説では冒頭で、ドーハの合意によって決定した米軍の撤退を進行させるために、タリバンは米軍に対する攻撃を控えて来たのであり、バイデンは小規模の兵力の駐留という小さなコストで現状を維持することが出来たはずだとの議論は成り立たないと指摘している。指摘の通りだと思われる。

バイデンは演説で「アフガニスタンにおける我々の唯一の枢要な国益は......米国本土に対するテロ攻撃を阻止することにある」と述べたが、アフガニスタンが米国を脅かす国際テロの温床となることを防げるかがバイデンの決断の評価を左右するであろう。

米国は撤退に備えてパキスタンなど周辺国の協力を取り付けテロ監視の体制を構築しようとしたようであるが、実現し得ていない。アルカイダがアフガニスタンをテロの拠点とする脅威は現実のものであるが、タリバンがこれを許容するかについては、アルカイダの「9.11」のテロ攻撃が理由で20年前に政権を失った彼等の痛い経験に鑑みれば、そうと決まったことではないかも知れない。

バイデンはいかに退避させるのか

バイデン政権にとって短期的に重要なことは、アフガニスタンに滞在する米国と同盟国の市民および米軍に対する協力者(通訳、運転手、警備員、料理人など)を含め出国を希望するアフガン市民を安全に国外に退避させることである。バイデン政権の方針に対する批判とその能力に対する疑問は、カブール空港の壁を乗り越えて殺到する恐怖に駆られたアフガン市民が離陸しようとする米軍機に取りつく衝撃的な映像に相当程度負っているように思われる。

「戦争に優雅に負ける方法はない」では済まされない。退避を始動させるタイミングは如何にも遅過ぎた。バイデンは大量出国は信頼の崩壊を招くとしてアフガン政府に止められたと言うが、タリバンが刻一刻と迫っていたのだから、理解に苦しむ。

1975年のサイゴン陥落時には、米国は4月1日から 29日までの間に固定翼機で2678人の戦争孤児を含む5万0493人のベトナム市民を退避させ、4月30日にはヘリコプターで7000人を退避させた由である。この際、米国は自ら設定した撤退期限を超えてでも(18日、バイデンはその方針を表明した)、そして、要すれば軍を動員してカブール市街から空港への安全な通路を確保してでも、所要の退避を完了させる必要があろう。

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