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菅首相、なぜ任期満了解散にこだわる

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菅義偉首相 2021年06月17日(木) 出典:Photo by Issei Kato – Pool/Getty Images

樫山幸夫

【まとめ】

・菅首相は再選されたら、任期満了間近にかかわらず衆院を解散するという。

・なぜ〝無駄な解散〟を強行するのか、任期満了選挙で自民大敗の過去があるからだ。

・奇策を繰り出しても、可能な限り総選挙の時期を先送りするだろう。

自民党の総裁選には現職を含む複数の候補が出馬表明、一時取りざたされた無投票は避けられる見通しとなった。

総裁選とあわせて焦点になっているのが、衆議院の解散時期だ。

現在の衆院議員の任期はことし10月21日まで。任期満了選挙を行えば、解散する必要はないはずだが、首相は9月の総裁選で再選されれば、解散に踏み切るという。任期切れが迫っているのになぜ、わざわざ解散する必要があるのか。

素人には理解しがたい。無駄ともみえることに知恵を絞っているのは、滑稽感すら感じさせられるが、首相は大まじめなのだろう。永田町の論理では、解散権を行使できない首相は求心力を失い、任期満了による総選挙に踏み切っても敗北する恐れがあるからだ。

戦後、解散によらない総選挙が一度だけ行われたが、自民党はそのとき、手ひどい打撃を被った。菅首相は解散見送りによって、そのときの悲劇が再来するのを恐れているのかもしれない。

■解散によらない総選挙、戦後は一度だけ

解散権は内閣総理大臣の〝伝家の宝刀〟といわれる。なにしろ自分の判断で、500人近い衆院議員を任期途中で首を斬るのだから、強大な権限だ。

戦後、昭和22年から前回平成29年までに行われた総選挙は27回。ほとんどが衆議院の解散に伴う。解散されたときの政治状況を反映して、膝を打ちたくなるようなぴったりの〝ニックネーム〟で呼びならわされている。

バカヤロー解散」といういささか品のないケースがあった。

昭和28年。吉田茂首相が、衆議院予算委員会での西村栄一氏(右派社会党)の質疑中、興奮して「バカヤロー」とつぶやいたのをマイクが拾い、これがきっかけで選挙に発展した。

▲写真:サンフランシスコ平和条約に調印する吉田茂首相(当時)1951年9月17日 出典:Bettmann/GettyImages

1966(昭和41)年12月の佐藤栄作内閣による「黒い霧解散」

砂糖会社が、払い下げを受けた国有林を担保に農林中央金庫から不正融資を受けていた事件(共和製糖事件)、就任早々の運輸大臣(当時)が、自分の選挙区内の駅に急行が停車するよう横車を押したーなど相次ぐスキャンダルで政局運営が行き詰まったことを解消するのが狙いだった。

■任期満了による「ロッキード選挙」で大敗

自民党が敗北を喫した戦後唯一の任期満了選挙というのは、昭和51年の第34回だ。

本来なら「ロッキード解散」と呼ばれるべきところ、解散をともなわなかったことから「ロッキード選挙」といわれる。

この年は戦後の政治史上、特筆されるべき年だった。

アメリカの航空機会社、ロッキード社が航空機を売り込むために全世界の有力者にワイロをばらまいた。日本では右翼の大物が関与、田中角栄前首相をはじめ政府高官、代理店の商社、航空会社らの幹部が相次いで逮捕された。

▲写真 周恩来中国首相と会談する田中角栄首相(当時)1972年12月25日 出典:Bettmann/GettyImages

当時の三木武夫首相はこの事件の解明に積極的に取り組んだが、元首相の政治姿勢に批判的だったこともあって、その逮捕は三木のさしがねなど根拠のない憶測が乱れ飛んだ。そんなわけでもあるまいが、自民党内では三木首相への批判が高まりをみせていた。

ロッキード事件に先立って、田中首相が金脈疑惑で退陣した際、自らの裁定で三木政権を誕生させた副総裁の椎名悦三郎氏ですら公然と批判した。その舌鋒、「惻隠の情がない」は当時、はやり言葉にもなった。

三木首相は、この年12月に衆院議員が任期満了を迎えるため、解散の時期をさぐっていた。しかし、反三木の福田赳夫元蔵相、大平正芳元外相らが急先鋒となって解散に反対。挙党体制確立協議会(挙党協)という〝党中党〟が発足、党は分裂状態となった。

挙党協から、閣僚14人が名を連ねる退陣要求を突き付けられるなど苦しい状況の中、三木氏は党役員人事、内閣改造で批判勢力の一部を取り込み、中央突破を図るなどあくまで強気を崩さなかった。

この粘り腰は、戦前から国会で活躍、戦時中の翼賛選挙を非推薦で勝ち抜き、戦後は小党を渡り歩いて権謀術数を身につけた〝バルカン政治家〟三木の面目躍如だった。小派閥が、敵味方をめまぐるしく変えて生き延びていくという意味だ。

▲写真 自民党大会で演説する三木武夫首相。ロッキード事件に関与した日本人の名前を取得するために米国からの協力を求める手紙をフォード大統領に送った。(1975年1月22日) 出典:Bettmann/Getty Images

しかし、衆寡敵せず、結局、伝家の宝刀をぬくことはかなわず、戦後初の任期満了選挙を余儀なくされる。

党内の分裂を抱えた選挙など勝てるはずがない。12月5日に行われた投票で、自民党の獲得議席は249、現有議席より16議席減、過半数(256)も割り込んだ。

保守系無所属候補の追加公認でかろうじて危機をしのいだものの、三木の奮闘もここまで。その退陣表明で、長い三木おろしは幕を下ろした。

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