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「政権におもねる"国営放送"になりつつある」NHKの"番組介入問題"が示す末期症状

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白日の下にさらされた番組への干渉

NHKの最高意思決定機関である経営委員会が自壊しつつある。

7月8日、NHK経営委員会は、NHKのかんぽ生命保険の不正販売報道をめぐって、経営委員会が2018年10月23日に執行部トップの上田良一会長(当時)に「厳重注意」した議事の全容を開示したと発表した。3年近く経ってようやく、である。

衆議院予算委員会に臨む参考人の(左から)NHKの上田良一会長、NHK経営委員会の石原進委員長、日本郵便の横山邦男社長、日本郵政の鈴木康雄上級副社長=2019年10搈11日、国会内衆議院予算委員会に臨む参考人の(左から)NHKの上田良一会長、NHK経営委員会の石原進委員長、日本郵便の横山邦男社長、日本郵政の鈴木康雄上級副社長=2019年10月11日、国会内 - 写真=時事通信フォト

「NHKは存亡の危機に立たされるようなことになりかねない」

その当時、「厳重注意」を受けた上田会長は、「厳重注意」に至る経緯が表に出ればNHKはかつてない危機に直面すると警告したという。経営委員会が個別番組への干渉を禁じている放送法に抵触することを確信していたからにほかならない。

そして今、経営委員会がかたくなに公表を拒んできた議事録が白日の下にさらされ、経営委員会の番組介入は疑いようもなくなった。上田会長の「予言」どおり、執行部のガバナンス(企業統治)を問題視した経営委員会そのもののガバナンスが欠けていることが露見したのである。

放送法を遵守できない最高意思決定機関をいただくNHKは、組織としての根本的なあり方が問われる事態となった。それは、NHKが、受信料を支払っている国民のための「公共放送」か、権力におもねる「国営放送」か、を問われる重大局面に立たされることになったともいえる。

始まりは「クローズアップ現代+」

NHKのかんぽ不正報道問題の経過を振り返ってみる。

始まりは、2018年4月24日放送の「クローズアップ現代+(プラス)」。日本郵政グループの郵便局員がかんぽ生命の保険を不適切な営業で販売していたことを報じた。

その後、SNSなどを駆使した続編を制作しようとしたところ、日本郵政グループが激しく反発。8月に入って、続編の放送は取りやめになった。

だが、それだけでは終わらなかった。

日本郵政本社の入る大手町プレイスウエストタワー
日本郵政本社の入る東京・大手町プレイスウエストタワー(プレジデントオンライン編集部撮影)

番組自体に不満をもつ日本郵政グループは10月初め、NHKの番組幹部が日本郵政グループに対し「会長は番組制作に関与しない」という趣旨の説明をしたこと(放送法上では番組制作の最終責任者は会長)を捉えて、長門正貢日本郵政社長、横山邦男日本郵便社長、植平光彦かんぽ生命保険社長の三者連名で、経営委員会に「ガバナンス体制の検証と必要な措置」を要求した。

主導したのは、NHKを監督する総務省の事務次官の経歴をもつ鈴木康雄・日本郵政上級副社長。抗議文を発出する前には、やはり総務省の監督下にあるNTT西日本の社長を務めた経営委員会の森下俊三委員長代行(当時)を訪ね、きっちり対応するよう求めていた。

経営委員会は、日本郵政グループの意に沿う形で議論を進め、石原進委員長(当時、元JR九州社長)と森下委員長代行のリードで10月、上田会長に「厳重注意」を行った。執行部は反発したものの、結局、上田会長が日本郵政グループに事実上の謝罪文を届け、いったん幕引きとなった。

正鵠を射ていたNHKの番組

「厳重注意」をめぐる一連の経緯は、一切公表されず水面下に埋もれていたが、1年ほど経った2019年9月、毎日新聞の報道で発覚した。

「経営委員会は個別番組への編集に干渉することを禁じた放送法に違反しているのではないか」「『厳重注意』によってNHKの番組制作の自主自律が脅かされたのではないか」という「公共放送・NHK」の存立の根幹にかかわる問題が急浮上したのだ。

これ以後、かんぽ不正報道問題は、大きく動く。

国会でも取り上げられ、事実関係を解明するため、議事録や関連資料の全面開示を求める声が高まった。しかし、経営委員会は「非公表を前提とした意見交換の場での議論だった」として「厳重注意」に至る議事の開示には応じようとしなかった。

一方、2019年夏ごろから全国の郵便局でかんぽ生命保険の不正販売が表面化、膨大な数の被害者が存在することがわかり、日本中が騒然となった。

「クローズアップ現代+」の報道はまさに正鵠(せいこく)を射ていたのである。

日本郵政グループが不正販売を認めた後の7月には、棚上げされていた続編が放送されたが、もはや日本郵政グループに番組を押しとどめるすべはなかった。

日本郵政本社東京・大手町の日本郵政グループ本社 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

年末になると、日本郵政グループは、NHKに抗議した3社長と鈴木上級副社長が引責辞任、3カ月の業務停止に追い込まれるという前代未聞の不祥事に発展した。

2度の答申を受けてようやく議事録を全面開示

経営委員会は12月、上田会長の再任を見送り、「厳重注意」を主唱した森下委員長代行が委員長に昇格。新体制になっても、議事録の非開示を継続した。

ところが、事態は、経営委員会の不実を許さぬ方向で展開する。

2020年5月、NHKの情報公開・個人情報保護審議委員会(委員長・藤原靜雄中央大学大学院教授)が、議事録の全面開示を答申したのだ。

さすがに経営委員会も無視するわけにはいかず、しぶしぶ「議事概要」だけを公表した。

しかし、答申をないがしろにされた審議委員会は2021年2月、改めて全面開示を答申。そこでは、「情報公開制度の対象となる経営委員会が対象文書に手を加えることは、改ざんというそしりを受けかねない」と指弾した。

そして7月8日、経営委員会は、「厳重注意」から3年近く、審議委員会の最初の答申から1年余り経って、ようやく議事の全容を開示、真相が明らかになったのである。

「ガバナンス問題」にすりかえられた番組介入

全面開示された議事録で浮き彫りになったのは、経営委員会による番組介入の疑いだけではない。経営委員の多くが放送法をきちんと理解しているとは言い難く、経営委員会という最高意思決定機関の一員としての自覚に欠けることや、当然の責務である議事の透明性を確保しようとしなかったことなど、公共放送を標榜するNHKにとって致命傷になりかねない問題ばかりだ。

NHK放送センターは今改築工事中東京・渋谷のNHK放送センター。現在は改築工事中。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

経営委員会が「厳重注意」を発した当時の議論を詳しく見てみる。

まず、日本郵政グループから「NHKはガバナンスが効いていない」との抗議文を受け取った直後の2018年10月9日の経営委員会。

石原委員長は、抗議文が発出された背景に「郵政には放送に詳しい方がいらっしゃる」と鈴木上級副社長の存在をちらつかせ、「経営委員会は、番組の中身の問題だと受け入れ難いが、ガバナンスの問題なら放ってはおけなかろう」と、真意は番組内容に対する不満だが、放送法に抵触しないよう「ガバナンス問題」を持ち出してきたとの認識を示した。

これを受ける形で、森下委員長代行は、SNSなどを活用して番組を制作するオープンジャーナリズムについて「ちゃんと取材になっているのか。一方的な意見だけが出てくる番組はいかがなものか」と取材手法を批判、さらに番組制作や取材方法の基準を経営委員会が関与してつくるべきだと踏み込んだ。

経営委員会は、禁じられているはずの個別番組への介入が、「ガバナンスの問題」にすりかえれば容易にできてしまうことを実践してしまったのである。

報告を無視して口々に番組批判

そして、上田会長を「厳重注意」した2018年10月23日の経営委員会。

冒頭、高橋正美監査委員から「NHKから日本郵政グループへの説明責任は果たされ、ガバナンスに問題はなかった」旨の報告がなされた。

ところが、その報告をあえて無視するかのように、森下委員長代行が「今回の番組は極めて稚拙。ほとんど取材をしていない」「つくり方に問題がある」「視聴者目線に立っていない」と、番組批判の口火を切った。

すると、他の経営委員も口々に「誤解を与えるような説明がある」(小林いずみ委員)、「一方的になりすぎたような気がして」(渡邊博美委員)など、取材方法や番組の内容にかかわる意見が続出。さらに、「番組の作り方が問題にされた。会長はその責任がある」(中島尚正委員)と禁句ともいえる見解まで飛び出した。

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