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「専業主婦歴17年の52歳は価値ゼロなのか」怒りを胸に"元給食のおばちゃん"が社長に上り詰めるまで

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薄井シンシアさん(62)は、20年近い専業主婦生活を経て、48歳で「給食のおばちゃん」として仕事に復帰した。その後、電話受付から外資系ホテル、東京オリンピックのホスピタリティー担当など次々とキャリアを切り開き、今春外資系ホテルの日本法人社長に就任。今も「主婦ほどクリエイティブな仕事はない」と言い切る薄井さんが、社長になって目指すものとは――。

専業主婦からホテルの社長へ

「18時になったけれど、ラウンジの電気はつけた?」
「『マニュアル通り』よりも親しみやすいサービスをお願いね」

薄井シンシアさん。オープンしたばかりのLOF HOTEL Shimbashi最上階のラウンジで 撮影=藤岡敦子
薄井シンシアさん。オープンしたばかりのLOF HOTEL Shimbashi最上階のラウンジで 撮影=藤岡敦子

社員の採用から教育、施設のマネジメント、外部業者との交渉や備品の発注に至るまで、社長としての薄井さんの仕事は多岐にわたる。日本に進出したばかりの外資系ホテル「LOF HOTEL Shimbashi」を7月に新橋にオープンさせたばかり。秋葉原と東神田での開業も控える。週に数回はホテルに泊まり込んでオペレーションを確認し、元専業主婦やシングルマザーなど、観光業未経験のスタッフに細かく指示を出す。

コロナ禍で東京オリンピックは無観客となり、厳しい逆風が吹く観光業界。「今はどん底だけど、これからよくなるしかない。『スタッフをしっかりトレーニングする時間ができた』とプラスに受け取って、インバウンド回復に備えます」。前を見据える。

5つ星外資系ホテルのディレクターなどの経歴を持ち、社長として辣腕(らつわん)を振るう薄井さん。だが、14年前までは家事と育児に専念する専業主婦だった。

「娘を育てることが人生最大の仕事に」

「女の子に学歴はいらない」という厳格なフィリピン華僑の家庭で生まれ育った。家父長制的な考え方に反発し、20歳で日本に国費留学。東京外国語大学などで学んだ後、貿易会社に就職した。

娘(左)が5歳の時の薄井さん 写真=本人提供
娘(左)が5歳の時の薄井さん 写真=本人提供

27歳で結婚し、外交官の夫とアフリカのリベリアへ。帰国後は広告代理店に転職して30歳で妊娠。1980年代当時、女性の人生の「花形コース」は、結婚や出産を機に家庭に入ることだったが、「仕事大好き人間」だった薄井さんは、産休後、必ず復帰するつもりだった。しかし生まれてきた娘を腕に抱いた瞬間、人生が一変した。

「『この人を育てることが、私の人生最大の仕事になる』と、直感的に分かりました。仕事なら、失敗しても自分のことだからなんとかなるけれど、子育てで失敗したら一生後悔する。迷わず専業主婦になって育児に専念しようと決意しました」

常に全力投球する自分の性格では、仕事と育児の両立は難しいことも分かっていた。

“キャリア”としての専業主婦

専業主婦を「選び取った」薄井さんは、主婦業が自身のキャリアだと覚悟する。弁護士や銀行員、大手IT企業の社員として活躍する友人らの颯爽としたスーツ姿に嫉妬を感じたこともあった。だが、専業主婦としての「覚悟」が自身のプライドを支え続け、仕事として真剣に取り組む意識付けになった。

キャリアとしての専業主婦とは具体的にどういうことなのか。

例えば、いかに効率的に家事をこなせるか、料理や掃除などの基本を徹底的に学んで合理化を追求する。献立は1カ月分を月初めに計画し、1日の家事スケジュールも決めて時間を厳密に管理した。経営者のつもりで費用対効果を考えつつ家計を回し、PTAやボランティアにも積極的に携わって人脈を作る。夫や娘と対等に話ができるよう、新聞や本から毎日多くの情報を仕入れた。これらの経験がのちのキャリア形成に大きく役に立つ。

夫の転勤に伴って海外を転々としつつ、学校から帰宅した娘とお菓子を食べながら語らう幸せな日々。しかし娘が17歳になった年、転機がやってきた。米国の名門・ハーバード大学への入学を機に、娘が薄井さんの元を巣立ったのだ。「無理やり退職させられたようでした」と薄井さん。生活が一変し、喪失感にさいなまれた。

48歳で「給食のおばちゃん」に

そんな時、娘が通っていたタイ・バンコクの学校から「カフェテリアで働かないか」と誘いを受けた。48歳で「給食のおばちゃん」として仕事に復帰。メニューや衛生面の改善などの取り組みが評価され、パートから一気にマネジャーにならないかとのオファーを受ける。ブランクが長かった薄井さんは躊躇したが、背中を押したのが、娘の一言だった。

「私はママみたいなお母さんになりたいけれど、それなら専業主婦になって仕事をあきらめなければならないのかな」
「『ママみたいなお母さんになりたい』というのはすごく嬉しかった。でも『育児に専念しようと主婦になったら、キャリアは終わり』と思わせたくはなかった。そんなことは絶対ないと証明したい、ならば徹底的に仕事に復帰してキャリアを作ろうと」

カフェテリアは評判となり、学校関係者だけでなく近隣からも人が集まる店となった。

カフェテリアを退職するときに、ほかのスタッフから贈られた写真。中央の、白いワンピースを着ているのが薄井さん
カフェテリアを退職するときに、ほかのスタッフから贈られた写真。中央の、白いワンピースを着ているのが薄井さん - 写真=本人提供

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