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みんなが幸せになれる国づくりは一人ひとりが自分の足で立つところから- 「賢人論。」第145回(後編)堀内勉氏

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近代資本主義の時代、多くの人は組織で働くことによって企業に貢献し、経済活動を行うライフスタイルによって人生のほとんどの時間を過ごしてきた。しかし、「良い大学、良い会社に入ることが幸せになれる道」と信じて就職し、会社に尽くしてきた人たちが、社会情勢の変化でリストラに遭って途方に暮れるということが起こっている。生涯安定して幸せに暮らせる生き方・考え方は一体どこにあるのだろうか。六本木ヒルズなどを運営する森ビルの元取締役専務執行役員CFOであり、多摩大学社会的投資研究所教授・副所長/ボルテックス100年企業戦略研究所所長の堀内勉氏に伺った。

取材・文/みんなの介護 撮影/丸山剛史

「カイシャ」というフィクションが崩壊し、丸裸のまま社会に放り出された人々

みんなの介護 堀内さんは、コミュニティの喪失が今の日本の最大の問題とお考えです。コミュニティの喪失はなぜ起こり、どのような問題があると思われますか?

堀内 人間は、家族でも、仲間でも、地域社会でも、何らかのコミュニティの中ではじめて生きていける社会的存在です。そのすべてを絡みとり、吸い上げてしまったのが、戦後の「カイシャ」なのだと思います。その発端は、いわゆる1940年体制と言われる戦時体制なのかもしれません。いずれにしても、「カイシャ」というフィクションが共産主義のように社会を覆い尽くし、そのフィクションの上に多くの人々の生活が構築され、それが今崩壊しつつあり、人々は丸裸の個人のままで社会という荒野に放り出されているというイメージです。これは、社会学者の宮台真司さんがよく言われていることですが。

会社というコミュニティに100%依存して生きてきたため、そこを完全に解体されると、「地元に戻って、地域に根ざして生きなさい」と言われても、戻る場所がないのです。

それで、真面目なサラリーマンだけが、会社の中のコミュニティに何も疑問を持たないまま過ごし、会社に裏切られて、荒野に放り出される。そうすると、自分一人では生きていけないから、みんな精神を病んでいくという、ひどい循環になっているわけです。

私は、「カイシャ」というフィクションをもう一度取り戻すべきだ、などと言うつもりはまったくありません。これから私たちに必要になるのは、地域社会と仲間、ではないかと思います。そのような基本的な前提を無視して、人間の幸せや自己実現と言っても、あまり意味がないように思います。

みんなの介護 コミュニティの再構築のためには、何から着手していくことが必要ですか?

堀内 まずは、「つまらないフィクションに寄って立つ愚かさ」を一人ひとりが知ることだと思います。そして、もう一つは、人間はお互いに支えあわないとい生きていけないということの自覚ですね。

みんなの介護 最近は、複業でいろいろな会社の仕事をする生き方も広まってきていますが、それについてはどう思われますか?

堀内 もちろんそれは、広げていってもらいたいですね。しかし、レガシー(負の遺産)となっている日本の大企業がどいてくれないのですよね。そして、「会社の資本金いくらなんですか?」とか、「取引実績どうなのですか?」という意味のないことを言って、新しいものをすべて排除しようとします。政府も同じですね。

その排除の巨大なメカニズムが順調に動いてしまっているので、日本社会の矛盾に気づいて会社の外に飛び出しても、自分の食い扶持ぐらいは稼げますが、大きなムーブメントになかなかならないのです。

ですから、澱のようにたまってしまったレガシーに、まず一度どいてもらう作業をしないといけません。でもそれが非常に難しい。レガシーにどっぷり浸かっている人たちにとっては、急にどいてくれと言われても、「私が何か悪いことしましたか?」ということになります。俯瞰して見れば、そこにいること自体が悪いのですが、本人たちが気づいていません。また例えば、その人たちが住宅ローンを抱えていて、奥さんが専業主婦で子どもが小さい場合などは、「ちょっとどいてくれ」と言われたら、絶対抵抗しますよ。レガシーがどいてくれるのを待っていると、おそらくあと30年はかかるのだろうなと思います。

自分の人生を人に預けない意識を持つこと

みんなの介護 では、会社に依存して生きる生き方が限界ということに、一人ひとりがまず気がつくことでしょうか?

堀内 そうですね。「カイシャ」ばかり悪者にしましたが、もう少し俯瞰して見れば、「自分の人生をむやみに人に預けるようなことをするな」という、当たり前のようなことを言っているだけなのです。

未だに、「会社で働いていれば、もしかしたら自分の人生のつじつまが合うんじゃないか?」という人は、ナイーブで楽観的で、物を考えていないですよね。ですから、会社そのものが悪いというよりは、そのような思考方法が悪いのです。

そもそも、人間はある程度ちゃんと自分で稼いで生きていかなければいけないはずです。自分の人生は自分で考えて、自分の食い扶持は自分で稼いでくださいという当たり前のようなことを言っているだけなのです。それをあたかも宗教のように、「何かに身を捧げたら、自分を庇護してくれるのではないか」と思う方がおかしいわけです。


経済を理解するためには、人間の理解が不可欠

みんなの介護 堀内さんは、経済のほかにも宗教や哲学、思想の研究もされています。これらは資本主義社会を生きる私たちにとってどのような意味を持つのでしょうか?

堀内 経済というのは、学問としてはとても新しい分野です。経済学の萌芽は、古代ギリシアの「オイコノミア」ですが、これは家計の管理を意味する言葉でした。現代的な意味での経済学が成立するのは、18世紀後半のアダム・スミスの『国富論』からです。スミスは同時に『道徳感情論』という人間論も著していて、人間に対する考察と経済に対する考察は対になっていたのです。

この頃の経済は「political economy(政治経済学)」と呼ばれていて、国家経済の運営を意味していました。これが今の経済学として独立して「economics」になるのは、一般均衡理論を取り入れた新古典派経済学が成立する19世紀終わり頃です。産業革命が始まるのは、一般的には18世紀半ばと言われていますから、経済学や資本主義というものが、人類の歴史に比べるといかに短いものかが理解できます。

経済というものが人間の営みである以上、経済を理解するためには、人間に対する理解が不可欠です。単純に「合理的経済人」を想定することで済ますわけにはいきません。つまり、経済について理解するためには、その前提となっている何千年にもわたる人類の歴史を理解し、人間についての洞察を深める必要があるということです。

いろいろな古典を読んでみてわかるのは、人間というのはこの二千数百年間、本質的にはたいして変わっていないということです。喜びがあり、悲しみがあり、社会があり、政治があり、生があり、死がある。2千年前のローマ皇帝マルクス・アウレリウスが書いた『自省録』を読んでも、彼の悩みは現代人の悩みとまったく変わりません。つまり、みんな同じような悩みや苦しみを抱えて生きて死んでいったのです。それを追体験してみれば、自分の人生や社会に少しは役に立つのではないかと思います。

また、歴史の風雪に耐え、今まで生き延びてきた本を読むことで、人間の真実に突き当たる可能性が極めて高いのだと思います。特に心や哲学、思想の問題などはそうです。自然科学の分野は、新しければ新しいほど、真実に近い知見が得られますが、人間についての問題は、古い・新しいは関係なく、むしろ人々の批判に耐えて、今日まで生き延びてきた本の方が役に立つということです。

みんなの介護 4月に出版された『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』に掲載されている本は、そのような思いでセレクトされた一冊一冊なのですね。

堀内 そうですね。実は本書を書いた目的は2つあります。一つは自分の勉強のためです。還暦を迎えるにあたって、これまで10年に一度行ってきた頭のOS(オペレーティングシステム)の書き換えを、このタイミングでしようと思ったためです。もう一つが、自分のこれまでの経験を、若い人たちに説得力のある形で伝えたかったためです。

しかし、60歳にもなったおじさんが若い人に対して何かを単純に喋ってみたところで、老人の説教か自慢話にしか聞こえないだろうなと思います。ですから、どうしたら自分の経験が偏見なしに人に伝えられるかということを考えて書いたのが、『読書大全』なのです。

この本が、読者が原書を手に取ってみようと思うためのゲートウェイになってくれればと思います。書評は、あくまで私の目を通したその本の評価ですので、もし気になった本があったら、ぜひ原書を読んでみていただきたいですね。私の書評を読んで、何となく読んだ気になって終わってしまうというのは、あまりにももったいないと思います。

みんなの介護 一度読んだ本を血肉にするために、どんなことを心がけていますか?

堀内 私について言えば、何か悩みがあれば、一生懸命本を読んで、その中にヒントのようなものがないかを、必死に探しに行きました。

ですから、違う読み方ももちろんあると思っています。読者レビューで批判的なものを読むと、「こんなに真剣な読書をしていたら疲れそう」「もっと楽しい読書があるんじゃないか」と書いている人もいます。そのように読みたいのであれば、そう読んだらいいと思います。読んだ本を自分の中に残すには、自分がそのための心構えをもって、心を開いていなければ、入ってこないと思いますので。

ですから、私はどちらかというと、何となく本を読んでいたら、何となく良いことが書いてあったというような読み方はしていません。とても困ったり悩んだりしたときに、そのヒントになるものはないかといつも本を漁って、目的を持った読書をしていたのです。そういうことで、あまりフィクションを読まないのかも知れません。

私にとって、血肉になるというのは、自分が必死になっている度合いに応じて、本が応答してくれるイメージです。

時間つぶしのために読書をすることはまったく否定しません。しかし、本はいろいろなものがあるので、漁っているうちに人生が終わってしまう可能性もあります。『読書大全』が、良い本を見つけるガイドになってくれれば良いなと思っています。

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