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「それでよく管理職になれましたね」産業医が見た、上司を追い詰める"逆パワハラ部下"の正体

「なんでそんなこともできないんですか」「それでよく管理職になれましたね」「能力の低い上司の指示なんて聞いていられません」……、公然と上司を罵倒したり侮辱したりする“逆パワハラ的”な部下の存在に悩まされている上司が増えています。注意すればパワハラと訴え、指示は無視、社内の秩序を乱す問題社員の正体とは――。

ストレス

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taa22

評価面談をきっかけにスイッチオン

これまで職場の困った人といえば、パワハラ上司が代表格でしたが、最近、新たな問題の種となっているのが逆パワハラをする部下です。人前で上司を罵倒したり、侮辱したりするようなことを平気で言い、上司の指示は無視する。こういう部下が現場にいると、本当にやっかいです。

逆パワハラ部下のイメージは、20代半ばから後半の若者。ITリテラシーが高く、情報収集能力が高い。ですから「上司のくせにまだそんな非効率なことをしているんですか」「エクセルの関数を使ったら一発じゃないですか」といったことをさらっと言ってしまう。

「この仕事って結局、3年後はAIにとってかわられますよね。もう無駄だと思うんでやりません」なんてことも……。そもそもできもしないのに、知識だけはすごく持っていて、社内評論家を気取っている、それが逆パワハラ部下の典型です。

もともと怪しいところはあったにせよ、そこまで大問題にならなかったのが、豹変して問題化するのは、評価面談がきっかけであることが多いですね。つまり、自分の思っていたような評価がもらえず、そこからスイッチが入ってしまうパターンです。

自分が下に見ていた上司に「傍若無人にふるまっているところがダメだよ」なんて言われると、もう腹が立って、「許すことができない!」という感じで、みんなの前で暴れだすわけです。

「見てくれていない」「尊重されていない」と不満

そもそも会社というのは階層型の組織ですから、上司から評価を受けることは当たり前です。しかし今の若い人たちの中には、少なからず他人からの評価を受け入れることができない人がいます。

その原因は、本人の性格だけでなく、少子化、核家族化といった時代的な背景にもあります。なにしろ子どもの人数が少ないので、自分から発信しなくても、大人が「今日はどうだったの?」と聞いてくれ、目をかけてくれる。ちやほやされることに慣れています。

また、今は多様性が重視されています。誰もが「自分の好きなことで生きていこう」と言われる時代です。

そういった価値観で育ってきた子どもが大人になると、自分にちやほやしてくれない上司に対して「あいつは俺のことを見てくれていない」、自分の意見が通らないと「なんで私の意見が尊重されないの?!」と言ってしまう。

注意すると「上司にマウントとられた」

「上から目線」に対しても過敏で、注意されると「上司にマウントとられた」と捉えてしまうのです。僕が初めてこの発言を聞いたときは、そんな日本語があるのかと本当にびっくりしました。

「好きなことで生きていく」ということも拡大解釈されて、業務上も自分の好きなことしかやらないので、自己中心的な判断が多くなります。

加えてパワハラが問題視される時代ですから、上司の方も、自分が何か言うとパワハラになってしまうのではないかとビクビクしています。そうすると、相対的に部下の立場が強くなってしまう。「お前は無能な上司」と平気で指示を無視するので、現場は混乱します。人はいるのに、仕事が全然回らない。なぜか慢性的に人手不足ということになってしまうのです。

1人で抱え込まない

こういった部下に対しては、どう対処すればいいのでしょうか。これはもう、がっちり注意するしかありません。ここまで社内の秩序を乱す行為をしているわけですから、放置せず厳格に対処する必要があります。

大事なことは、上司が1人で抱え込まず、会社として組織的に取り組むこと。具体的には、まず証拠を集めることから始めます。その部下が、いつどこで、どんなことをしていたか、その言動や行動、態度をできれば録音して証拠を集めていきます。これはハラスメントですから、証拠を集めることは戦うひとつの要素になります。

ある程度、証拠が集まったら、こちらから指導していくことになりますが、1対1でやると水掛け論になるので、総務人事部や管理部門、コンプライアンス部門の人など、必ず第三者的な人を交えましょう。

1対1で行う危険性はほかにもあります。2人で話すと上司も「それも一理あるか」と部下の言うことをのんでしまい、ますます問題が肥大化していくのです。そうすると、もう手がつけられなくなる。部下のことを思って真面目に指導しようと思った揚げ句、ドツボにはまるパターンです。

また、こういう部下はこっそりと仲間をつくるので、1対1で話をすると、あとから「拘束された」「あれはパワハラだ」「人格否定だ」と仲間内で結託して上司を攻撃する恐れがあります。こうなると、やられた上司は精神的に追い込まれます。

ですから、とにかく1対1は避け、第三者とともに、職場の秩序の維持と職場環境の改善という視点から指導します。その際は「注意文書」を発行し、記録として形に残しておくとよいでしょう。

それでも変わらないときは、就業規則にのっとって懲戒処分を下します。懲戒になると履歴書に明記しなければいけませんから、そのことも事前に伝えておく。「次にやったら懲戒だよ」「履歴書に書かないといけないんだよ」というところまで言ってもよいでしょう。放置していたら、職場環境も悪化するし、上司も病むし、いいことは全くありません。

チームワーク

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi

権利意識の強いタイプは要注意

では、こうした「逆パワハラ部下」を見抜く方法はあるのかでしょうか。

残念ながら採用の面接では難しいだろうと思います。面接ではいくらでも猫をかぶれますので。

兆候としては「義務を果たしていないのに権利ばかり主張する」タイプが怪しいですね。たとえば、まだ一人前の仕事もできないのに、始業時間ギリギリに出社して制服に着替え、朝礼に遅れて参加する。朝礼に間に合うよう準備してほしいと言うと「法的には、着替える時間も就業時間に含まれますから」と主張する。ほかにも、まだ対面できめ細かい指導が必要な研修期間であるにもかかわらず、随分上の先輩を引き合いに出して「あの人がテレワークなのに私が出社しなくてはならないのはおかしい」と文句を言う。やるべきことをやらず、権利ばかり主張するタイプは、かなり危ないですね。

もともとそういった権利意識が強いところに、優しすぎる上司がからまっていくと、そこからエスカレートしていきます。とにかくこういった部下を持った上司は、1人で抱え込まず早めに第三者に相談しましょう。

この問題は、深刻化してから発覚することがほとんどです。上司自身が、周りから「管理能力がない」と思われることを恐れて1人で抱え込み、第三者への相談が遅れてしまうことが多いのです。

問題社員に対しては、上司はとにかく早めに周りと連携し、組織全体で正していく姿勢を持つことが何よりも重要なのです。

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井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務
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