記事

アフガン崩壊:「最も長い戦争」を強制リセットしたバイデンの「アメリカ・ファースト」 - 中山俊宏

1/2
バイデン政権が負うべき責任とは(C)AFP=時事

バイデン政権はアフガニスタンで何を誤ったのか。中山俊宏・慶應義塾大学教授は「撤退の是非そのものではなくて、あくまでそのタイミングと手法」とし、こう言う。「米軍がいれば戦い続けたであろう国軍の正当性を、撤退の決定によって奪い、自ら作り上げた軍隊を自らの手で融解させてしまったことだ」。そして、決定の背後に浮かび上がるバイデン政権「アメリカ・ファースト」の本質。

 アフガニスタンの首都カブールがタリバンの手に落ちた。どうにか安定した国家を建設しようとした国際社会による20年におよぶ取り組みが水泡に帰したと言っても大袈裟ではないだろう。いま、ある種の徒労感が国際社会を覆っている。アメリカがアフガニスタンに介入したのは、9.11テロ直後の2001年。アフガニスタンは「最も長い戦争(longest war)」と呼ばれるまでになっていた。

 この急展開のトリガーは米軍の撤退だった。アメリカは秩序だった撤退を目指していた。しかし、タリバンのブリッツ(電撃作戦)によって、事態は急変、カブール上空を飛び交う大型ヘリコプターCH-47チヌークを見て、サイゴンの陥落を思い浮かべなかった人はいないだろう。

「アフガニスタン自身の手に委ねる」という撤退のシナリオは、あっという間に「混乱」と「退散」の言説に取って代わられてしまった。

批判をかわすバイデン政権のロジック

 ジョー・バイデン政権は想定外の事態に慌て、予定されていたバイデン大統領本人の会見を前倒しで実施したものの、大統領は撤退という自らの決定の正しさをただひたすら繰り返すばかりで、説得力を欠いていた。問題は、撤退の是非そのものではなくて、あくまでそのタイミングと手法にあったからだ。

 バイデン政権は、ドナルド・トランプ前政権とは違い、「プロ集団」であることを自負していただけに、その慌てぶりが際立ってしまったことは否めない。

 まだ内戦が続いている状態で、スマートに引き上げる方法などなかっただろう。かつてアフガニスタン担当国連事務総長特別代表を務めたラフダール・ブラヒミは、正しい撤退の方法などなかったという点で、今回の撤退は最善の撤退であり、同時に最悪の撤退であったと述べている。その意味で混乱を伴う撤退になることは多くの人が想定していた。

 圧倒的な勝利の後の撤退でない限り、撤退は散らかったものになる。しかし、それでも今回の撤退は想定しうる限り最悪事態に近いものだった。唯一、救いと言えば、死傷者の数が少なかったことだ。しかし、これとてアフガニスタン国軍が抵抗せず、戦闘を放棄したからに過ぎない。ただ今後、事態がどう展開していくかは依然として不透明だ。

 バイデン政権としても、もし米軍が引き上げれば、アフガニスタン政府や国軍がもたない可能性は十分に承知していた。米軍撤退後のアフガニスタン情勢につき楽観的な展望を語る声はほぼなかった。ただし、事態がここまで急展開するとは想定していなかったはずだ。1年、もしくは半年でも、政府や国軍が持ち堪えてくれれば、アメリカとしてはどうにか乗り切れる、そういう判断があったはずだ。

 つまり、20年かけて、アメリカをはじめ、国際社会は、アフガニスタン政府、市民社会が独り立ちできるよう手助けし、30万人に及ぶ国軍も育成、最新の装備も提供してきた。それでも独り立ちできなければ、もはや、責任はアフガニスタン側にあり、その責任を全うすることを放棄したというロジックで、想定できる撤退に対する批判をかわすということだ。

 しかし、今回のタリバンによるアフガニスタンの制圧は、米軍の撤退が直接トリガーになっていたことは誰の目にも明らかであり、アフガニスタン側の責任をただひたすら強調する議論は責任逃れにしか見えなかった。

 アメリカはなぜタリバンのブリッツを予測できなかったのか。なぜ、30万に及ぶ国軍がメルトダウンしていくかのように消えていく可能性を察知できなかったのか。

 もちろん、ある政府がいつ転覆するかということをピンポイントで予測することなどほぼ不可能に近い。政府側が1年から1年半くらいは持ち堪えるという想定は、タリバーンによる制圧が近づくとともに、少しずつ短くなっていった。カブール陥落直前には、場合によっては、30日以内にカブールが陥落するかもしれないという情報が飛び交うようになっていた。

 しかし、現実にはそれから数日で最悪の事態が発生し、人々は十分な準備もできないまま、カブール空港になだれ込んでいった。

 なぜ、ここまで大きく読み違えてしまったのか。これは今後、詳細な分析がなされるであろう。

あわせて読みたい

「アメリカ」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「日本の小売業者は宝の持ち腐れ」アマゾンにあって楽天にない"決定的な違い"

    PRESIDENT Online

    09月24日 12:03

  2. 2

    視聴者が選ぶ最新版「嫌いな芸能人」コロナの影響か新顔多く並ぶ

    SmartFLASH

    09月24日 09:09

  3. 3

    レポート2枚? 立憲民主党の「アベノミクス検証」は単なる批判文書

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    09月25日 09:01

  4. 4

    習近平氏が進める「共同富裕」政策 恒大集団の救済に足踏みか

    飯田香織

    09月24日 08:40

  5. 5

    ワクチンで感染を防げぬ時代に 国民が望む対策をとるのが政治家の役目

    中村ゆきつぐ

    09月25日 08:40

  6. 6

    与党・公明党が選挙直前に「10万円給付」を大々的に発表 与党ならすぐに実行せよ

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    09月24日 08:37

  7. 7

    再任してほしい歴代首相ランキング 2位は安倍晋三氏「1番日本が平和だった」

    女性自身

    09月24日 14:23

  8. 8

    韓国で出版された「慰安婦被害者はいない」とする著作

    諌山裕

    09月25日 09:34

  9. 9

    「スマホレジ」が変えるコンビニ店舗の風景

    内藤忍

    09月24日 10:29

  10. 10

    【独自】自民党総裁選4人の候補者に政策方針アンケートを実施 消費増税の可能性から夫婦別姓の是非まで

    BLOGOS編集部

    09月24日 18:49

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。