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資本主義だけでは叶えられない「全体の幸福」を実現する潮流が生まれている - 「賢人論。」第145回(中編)堀内勉氏

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資本主義経済は一部の人々を豊かにする一方、経済格差や自然環境破壊、社会の不安定化など、さまざまな弊害を生み出した。そんな資本主義の限界を超えるべく新しい経済の流れが生み出されつつある。その代表がソーシャルファイナンスだ。社会問題の解決や地域活性化など、社会的価値の実現を目的としたファイナンスであるソーシャルファイナンスは、既存のコーポレートファイナンスに代わって社会と経済の両面で豊かさを生み出すことができるのか。多摩大学社会的投資研究所教授・副所長/ボルテックス100年企業戦略研究所所長である堀内勉氏に伺った。

取材・文/みんなの介護 撮影/丸山剛史

社会的価値を考えるところから始まるソーシャルファイナンス

みんなの介護 堀内さんが研究しているソーシャルファイナンスが資本主義の限界の突破口を開く可能性はいかがですか?

堀内 いわゆる、ビジネススクールで習うファイナンスというのは、コーポレートファイナンスです。コーポレートファイナンスというのはとても単純で、要は企業価値を最大化するためのファイナンスです。

例えば、資本コストをどうやって下げるかとか、そのための最適な負債と資本の構成をどうするかとか、新規事業を手がけるときにどのようなファイナンスにしたら良いかというような問題で、数学的に答えが導けます。まさに投資したお金の価値を最大化するためのファイナンス手法で、社会的価値とは直接結びついていないのです。

ソーシャルファイナンスというのは、社会的価値を実現しようというファイナンスです。これは、コーポレートファイナンスよりかなり難しいです。「社会的価値とは何ですか?」というところから始めないといけないわけですから。コーポレートファイナンスにおける価値は数字ですぐに出てきますが、ソーシャルファイナンスで重視する社会的価値は、なかなか一義的には決められないわけです。

ただ、ラッキーなことに時代の必然として、2030年までに世界が解決すべき17項目を掲げるSDGsが国連によって提示されました。「これが地球の課題です」というものが国連レベルで提示されたことで、SDGsが掲げる問題を解決していくことが社会的価値を実現することだという手がかりを得られるようになりました。もちろん、そのことだけがすべてではないにせよ、わかりやすい大きな指針ができたと思っています。

このように、SDGsに表象されているような社会問題を解決して、社会的価値を実現していくために、ファイナンスの手法がどのように使えるかということを追求するのがソーシャルファイナンスです。

リターンのある投資と寄付の両方が必要

みんなの介護 ソーシャルファイナンスでは、例えば日本や世界のどのような問題が解決できると想定されるでしょうか?SDGsの推進に貢献し得るとお考えの点はありますか?

堀内 例えば、今流行りのESG(環境、社会、ガバナンス)投資やインパクト投資などは、SDGs推進に貢献し得るものです。ESG投資は、どちらかと言えばネガティブチェックで、特に環境に焦点を当てて、環境に悪いことをしている企業には投資しないようにしましょうという受動的なイメージです。

これに対してインパクト投資は、ある特定の社会的価値を実現するためには、この分野に積極的に投資してサポートしていきましょうというものです。ですから、インパクト投資はESG投資よりも、ファイナンスの目的がよりはっきりしている能動的なものと言うことができます。

日本におけるインパクト投資の例としては、新生企業投資が取り組んでいる、「子育て支援ファンド」や「はたらくFUND」などが挙げられます。これら2つのファンドは、「少子化」「高齢化」「人口減少」といった社会的な課題にフォーカスし、社会課題解決型ベンチャー企業に対して資金提供と経営支援を行い、成長を支援しています。

みんなの介護 ソーシャルファイナンスが今後広まっていく可能性は感じていますか?

堀内 広がってほしいですね。今は例えば、ESG投資も注目度が高まっていて、キャシー松井や村上由美子、関美和の三人の元インベストメントバンカーが大型のESGファンドを立ち上げるという動きもあります。そのような話題が出て、少しずつ広がっているのは良いことだと思います。しかし、相対的には、やはり従来のコーポレートファイナンスの分野の方がはるかに巨大です。単純に今のソーシャルファイナンスの動きをそのまま延長していったら、社会問題が解決されるということはないように感じています。やはり何か弾みをつけないといけません。

ソーシャルファイナンスには大きく分けて2つの分野があると思っています。その一つが「寄付」です。一般的にファイナンスと言うと、資金を貸すか投資して、それが一定のリターンを伴って返ってくるというのが原則です。ですが、返って来ることを想定しない資金である寄付も、ファイナンスの一つと考えることができます。政府や自治体が交付する補助金や、財団などが提供する助成金も同じです。しかし、寄付はお金が循環しないので、1回提供して終わりということになります。

これをさらに一歩進めたものが、もう一つのソーシャルファイナンスであるESG投資やインパクト投資です。これらはお金を投資することで、大きな額ではないにしても何らかのリターンを伴って戻ってくるものです。するとお金が循環して、同じお金が何回でも使えることになります。

寄付の場合は、毎年寄付を集めにいかなければならず、何度もお願いに行って「また来たんですか?」と言われてしまいます。しかしお金が循環するようにすれば、その必要もなくなります。

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