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  • WEDGE Infinity
  • 2021年08月20日 11:08 (配信日時 08月20日 06:00)

「〝商売人〟の精神を取り戻せ」カプコン辻本会長に聞く - 友森敏雄 (月刊「Wedge」副編集長)

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ゲームメーカー・カプコンの創業者である辻本憲三会長と、『Fail Fast! 速い失敗が未来を創る ーコロナ後を勝ち抜く36の視点』を上梓したQED創業者・藤田浩之氏は、奈良県立畝傍高校の先輩・後輩にあたる。『ストリートファイター』『バイオハザード』など世界中で大ヒットしたゲームを生み出した辻本会長から見た経営者・藤田浩之とは? そして、商売人(≒起業家)の本質とは何かを聞いた。

辻本健三(つじもと・けんぞう) 1940年、奈良県に生まれる。畝傍高校(定時制)を卒業後、親戚の経営する食品問屋に就職し、仕事のかたわら経理を学ぶ。22歳で独立し、1966年には大阪市内に菓子店を開業。その後、綿菓子製造機の行商を始める。 1970年ごろ、子供向けパチンコ機との出会いをきっかけにゲーム機の販売を開始。顧客を全国に拡大し、1974年にはゲーム機の製造販売会社であるアイ・ピー・エム株式会社を創立した。インベーダーゲーム機の販売で大成功したが、ブームの終焉によって苦戦を余儀なくされる。 その後ソフト開発に目を向け、1983年に株式会社カプコンを創業。当時は主に業務用ゲーム機器の開発を行っていたが、ファミコンブームの到来に合わせ家庭用ゲームソフト事業にも参入し、「ロックマン」や「ストリートファイター」シリーズをはじめ国内外でヒット作品を次々に生み出す。1990年には株式を公開。数度の構造改革を敢行し、カプコンを世界的なゲームメーカーに育て上げた。 2007年、経営に専念するため代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)に就任。
藤田浩之(ふじた・ひろゆき) 医療機器開発製造会社クオリティー・エレクトロダイナミクスCEO。在オハイオ州クリーブランド日本国名誉領事。キヤノンメディカルシステムズCTO。ケース・ウェスタン・リザーブ大学(CWRU)物理学科博士課程修了、物理学博士。

辻本憲三(つじもと・けんぞう)カプコン代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)

編集部(以下、――)辻本会長と藤田さんは、奈良県立畝傍高校の先輩・後輩にあたります。出会いはどのようなものだったのでしょうか?

藤田 カプコンの創業者が、母校の大先輩であることは知っていましたが、直接お目にかかったのは、10年ほど前のことです。ボストンで、当時のキャロライン・ケネディ日本大使を囲む会に招待されました。そのときにチャリティオークションが行われて、「ケンゾー エステイト」のマグナムボトルが出品されました。

「それはなんとしても欲しい」と思って、そのオークションで競り勝ちました。というのも、JALで日米を移動するときに、機内でケンゾー エステイトのワインを飲んでいたからです。

ただ、恥ずかしながら、このオークションでボトルを獲得し、ボストンからクリーブランドまでの飛行機のなかで、ケンゾー エステイトのパンフレットをきちんと読むまで、カプコンの創業者である「辻本憲三」と「ケンゾー エステイト」のケンゾーさんが、一致していませんでした。だから、あの辻本憲三さんが、ナパバレーでワイナリーをされていると知って本当に驚きました。

その後、ボストンのジャパンソサイエティで、ビジネスによってアメリカに貢献した日本人を表彰するイベントがありまして、このとき、表彰された憲三さんの隣に座らせていただき、はじめて面識を得ました。

―― 辻本会長の藤田さんの印象はどのようなものでしょうか?

辻本 知り合いになってから、何度もクリーブランドを訪問させてもらいました。アメリカでビジネスしている日本人は少なくありません。ただ、藤田さんが、他の日本人と違って、事業をするだけではなく、さまざまな理事に就くなどして、クリーブランドやオハイオ州といった地域に貢献する活動をたくさんしていることに驚きました。外国に出て、日本人として非常に立派なことだと思います。

親しく付き合うようになって特に感じたことは、非常によく勉強されていることです。それは、事業のことだけではなく、文化的なことを含めてです。私は、昼間働きながら夜に高校に通っていましたので、このような教養を身に付ける余裕がなかったということもありますが、藤田さんがアメリカでの事業に成功したのも、この勉強の賜物ではないかと思います。逆にいえば、アメリカでは成功しようとすれば、勉強していないと難しいと言えるでしょう。

やはり、ソフトとハードでは住む世界が違います。実物を作るという点で、ハードで成功することは大変なことで、アメリカで事業を行う日本人経営者としても新しい存在だと思います。

―― 藤田さんは、辻本会長をどのようにご覧になっているでしょうか?

藤田浩之(ふじた・ひろゆき)医療機器開発製造会社クオリティー・エレクトロダイナミクスCEO

藤田 ワイナリー(ケンゾー エステイト)という全くジャンルのことなる事業も成功させておられることは凄いことだと思います。憲三さんは以前、「ゲームもワインも、人を楽しませるという意味では、同じエンターテインメント」とおっしゃっていました。コンセプトとしてはまさにその通りですが、事業としては全く別物で、これを成功させることは容易なことではありません。

ここで重要なことは「ビジョン」です。ワインもゲームも「エンターテインメント」ということがまさにそうです。ビジョンは、自分の信念を持って積み上げていくことで生まれるのだと思います。「信念」を持てば、ビジョンはぶれません。だから、ついていく社員も心強い。憲三さんとお付き合いさせていただくなかで感じさせられるのは、この揺らぎなさでもあります。

―― 辻本会長は1983年、40代だったときにカプコンを立ち上げられていますね。現在で考えると遅咲きといった感じがします。

辻本 その前にも、それこそ20代のころから商売をしていました。親戚の事業を受け継ぐ形でお菓子の卸業や小売りもやったことがあります。また、70年代に「インベーダーゲーム」が大流行したときには、ライセンスを受けてこのゲーム機を製造してレンタルをするという事業もやったことがあります。このときは注文が殺到し、爆発的に売れて売上100億円にまでなりました。ただ、コピー商品が横行し、それも約1年で終わってしまいましたが……(笑)。色んな経験をした後で、カプコンを立ち上げたのです。

―― 1985年にはカプコンU.S.A., INC.を設立するなど、初期段階から海外進出をされ、なんといっても91年の『ストリートファイターⅡ』は、爆発的な大ヒットとなりました。さらに、ハリウッド映画にもなった『バイオハザード』と、大ヒットゲームが続きました。そんなときに、なぜワイナリー事業を始めることにしたのでしょうか?

辻本 あるとき、カリフォルニアのナパバレーに土地があるという話が舞い込んできました。値段は、30億円くらいでした。しかし、当時の金利が高くて、何年か経つと会社の大きな借金になっていました。ちょうどそのころに、大証から東証一部に移るというタイミングで、この負債が問題になったんです。そのとき社員から「個人で買い取ってほしい」と泣きつかれたんです。いくらか? と聞いたら「80億円」だと。まぁ、負債が膨らむよりは、と思い切って買い取ることにしました(笑)。

最初は、近所のワイナリーにお願いして14万本、ブドウの木を植えました。その後、ブドウ栽培家のデイビッド・アブリュ―と、醸造家のハイディ・バレットと知り合いまして、彼らに運営を任せることにしました。仕事をはじめるとすぐ、デイビッドがブドウの木を引っこ抜いてきて、「この根は栄養不足でくちゃっとしている。本当は3メートルくらい根が伸びないといけない」と言ってくるのです。というのも、この場所は石ころが多いからということでした。ということで、全て植え替えることになって、土壌改良のためダイナマイトでどんどん爆破していきました。山の中だからこそできたことですが(笑)。

やはり、餅屋は餅屋で、私は農業ができませんからプロに任せました。それでも、彼らがごまかしをしたり、口先ばかりで行動や結果が伴わなければ途中で止めてもらっていたと思います。しかし、本当に一生懸命やってくれて、今ブドウの木は60万本にまで増えています。それでも、敷地の95%はまだ山のままです。

事業としては、バブル期などを通じて日本にもワインカルチャーが浸透していたこともあって、最初から日本向けに販売しようと考えてました。本当に最高なワインの味が分かるのはむしろ日本人だと思います。年間約50万本生産していますが、先に市場を開拓した日本の販売シェアが大きく、なおも不足気味なため、米国でも需要が拡大しているのに、その在庫を増やすことが出来ない状況にあります。

ナパバレーという場所も、我々にとっては有利に働きました。というのも、JALの訓練校があって、30年以上、150人近くの日本人が地域に住んでいたことで、日本人への高い信頼感がありました。あと、私自身のことも知られていました。94年には、ジャン・クロード・ヴァンダムさん主演で『ストリートファイター』がハリウッドで映画化されていることもあって、カプコンのケンゾー・ツジモトがワイナリーをやっているぞ、ということで評判にもなりました。

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