記事

「ハンセン病を忘れないで」―第1回 世界ウェビナー会議―

1/2
毎年、一年の三分の一はハンセン病制圧活動のため世界各国の現場で働いてきたが、コロナ禍でそれも不可能になり、今回初めてのウェビナー会議となった。

初回にも関わらず世界から約300人が参加して下さり、質疑応答も行った。海外活動が可能になるまで、ウェビナーの活用で世界のハンセン病関係者と連帯を深めたいと新しい活動を開始した

以下、筆者の冒頭挨拶と質疑応答の内容です。

*****************

皆さん、こんにちは。私は、WHOハンセン病制圧大使、および日本財団会長の笹川陽平です。

昨年以来、1年半以上にわたり、世界的な新型コロナウイルスのパンデミックが続き、私たちの日常生活は様変わりしました。とりわけハンセン病については、多くの国で、新規患者発見活動、診断・治療、リハビリテーションなど、ハンセン病に関わる様々な取り組みが縮小・中止を余儀なくされています。現場レベルでは、医療サービスへのアクセスが困難となったり、さらなる差別・偏見に直面したりするケースがあると聞いています。しかし、コロナ禍であっても、ハンセン病問題は決して置き去りにされるべきではありません。

そのためには、何よりもまず、皆さんとともに世界へ向けて、力強い声を発信することが重要であると考え、このキャンペーンを立ち上げるに至りました。私は2001年にWHOハンセン病制圧大使に就任して以降20年間で、約100か国を200回以上訪れ、各国の「現場」をこの目で見てきました。その結果、ハンセン病問題はモーターサイクルに例えることができるという持論を持つに至りました。すなわち、前輪は病気を治療すること、後輪は差別を解消すること、この両輪が機能しない限り根本的にハンセン病問題の解決につながらないということです。

私は、これまでの経験から、現場には、問題点と解決策があることを確信しています。皆さんがいる現場の隅々にまで「ハンセン病を忘れないで」というメッセージが届くように、このキャンペーンはこれから約1年かけてグローバルに展開していく予定です。

ハンセン病問題は、世界中の多くの人々の努力により、この半世紀で解決までもう一歩のところまできました。コロナ禍にあってもハンセン病制圧活動が後退することがあってはなりません。私たち人類は、コロナという新しい病気に懸命に対応しつつ、長きに亘り人類共通の問題であり続けたハンセン病との闘いに終止符を打つために、今一度力をあわせて立ち向かっていくべきではないでしょうか。

本日ご参加くださっている皆さんは、ハンセン病問題解決の一翼を担う一人ひとりであることを信じています。ハンセン病問題が忘れることなく、私たちの共通のゴールに向かって、ぜひ力をあわせていきましょう。ありがとうございました。

*****************

【タンザニア:Dodoma大学 Antony Seryaさんからの質問】
コロナ禍において、ハンセン病制圧に向けてどういった戦略をとるべきでしょうか。

【笹川】
コロナ禍において、ハンセン病のウェビナーに多くの人が参加下さったことにまず感謝すると同時に、セミナーの標語でもある”Don’t Forget Leprosy”を多くの方が実践していることにも感謝申し上げます。率直に申し上げて大変難しい質問を頂戴しました。世界は今やコロナの問題で対策に苦慮している中、ハンセン病の問題をどうするかは参加者全てが心を痛めていることと思います。私は現場主義で、現場を回ることでハンセン病制圧活動をしてきましたが、ウェビナーが発達し、或いはソーシャルメディアが発達しているので、旧来の活動に加えて新しいツールを使っていくことが重要で効果的であると思っています。これまでは各国単位で考えてきましたが、ウェビナーを通じて他国でどういった取り組みがされているかを世界中で情報共有できるというのは、大変素晴らしい戦力を得たと考えております。現在、それぞれの国で限られた活動しかできていない状況において、各自がどうしたらいいかという悩みを持っていると思いますが、このウェビナーには世界中からの参加者がいますので、皆さんは一人ではなく世界には多くの同志がいるという連帯感をウェビナーを通じて持っていただくことが大変重要なことです。日本ではオリンピックが開催されていますが、それに合わせテドロスWHO事務局長が訪日しており、先日会談する機会がありました。ご存じの通り、テドロスWHO事務局長はエチオピアの保健大臣を務めた経験もあり、ハンセン病にも関心が高い方でいらっしゃいます。私からは、ハンセン病の問題を決して忘れないで欲しいと申し上げたところ、「笹川さん、”Don’t Forget Leprosy”キャンペーンは素晴らしい。来年のWHOの総会でも時間をとるので、思う存分ハンセン病について話してほしい」という要請をいただきました。今一度テドロスWHO事務局長を中心にハンセン病制圧活動キャンペーンを更に強力にし、ゼロ・レプロシーに向けた戦略と共同の闘いが始まる機会にしたいと考えておりますので、各国政府においてはWHOの政策に基づいて活発な活動が再び展開されると確信しております。

【ブラジル:全国回復者組織Morhan Patrícia Soaresさんからの質問】
ハンセン病の患者・回復者の生活の質の向上の為に何が出来るでしょうか。

【笹川】
ご存じの通り、MORHANはブラジルにおいて、全国的に展開しているハンセン病NGOとして長く活躍し、引き離された患者と子供の再開を助け、政府から補償金を獲得したという素晴らしい活動をしてきた組織です。リーダーであるアルツールさんは病気になられましたが、元気になりましたでしょうか?心配しております。英語ではレプロシーと言いますが、ブラジルと日本ではハンセン病という言葉が使われています。ハンセン病の回復者の皆さんは、働く意欲も情熱もありますが、働く機会がないというのが現実です。刺繍や編み物を教えて生活の糧にするよう回復者を支援するNGOをブラジリアで訪問したこともありますが、政府の援助で生活するのではなく、自分たちの努力で汗をかいて働き生活していくことは、貧しいながらも人間としての尊厳を維持するには必要であり、そういう意欲を回復者の皆さんが持っていることを承知しています。身近なところから協力していただき、働く喜びとチャンスを与える努力をしていきたいと思います。ブラジルにおけるMORHANの活動は、有名な女優や歌手も応援しており、回復者の皆さんには力強い組織です。全国どこにも支部があり、また回復者の尊厳ある生活の為に国会議員の中にも多くの賛同者がいることを私は訪問して知っています。皆さん方のお力こそ回復者の方々が最も必要としていますので、困難な状況ではありますが、更なる活動を心から期待しております。

【エチオピア:全国ハンセン病回復者団体ENAPAL Tadesse Tesfayeさんからの質問】
ウェビナーの開催と会長の偏見と差別を終わらせるための活動に感謝します。障害者権利条約やハンセン病差別撤廃決議およびそれに付帯する原則とガイドライン(P&G)は多くの国が採択していますが、それらは適切に実施されているとは言えません。この問題についてどのような戦略がありますでしょうか。

【笹川】
障害者権利条約の問題は、私たちが皆さんの協力を得て、国連人権理事会でハンセン病の患者・回復者その家族の差別撤廃の決議を得たことと、話を共有する部分があります。私が2003年に国連人権理事会を訪問するまで、一度もハンセン病が人権問題として議論されたことはありませんでした。皆さんの協力を得て、7年間粘り強く交渉した結果、全ての国の賛同を得て決議され、その後ニューヨークの国連総会でも192ヶ国すべてが賛同し、差別撤廃の決議案が可決されたことはご承知の通りです。私自身は決議の後、貴殿のエチオピアを含む5大陸で国際会議を開き、このハンセン病差別撤廃決議の意味するところの啓発をしましたが、これだけでは不十分だったと承知しています。その後どのようにハンセン病の差別撤廃決議に付帯するP&Gが実行されているかということについて、更に国連人権理事会に訴え、特別報告者が各国を回り、調査結果を人権理事会に報告することとなりました。その結果を待ちまして、更なる対応について検討する必要があると思います。障害者権利条約の件ですが、これも決議を得ながら十分に機能していないのは指摘の通りですが、私は戦略を変えました。それは、国家に訴えるより民間レベルから動かす手法がないかを考えるということです。世界には多くの大企業が存在しますが、大企業を維持するためには投資家が必要です。投資家にとって魅力ある会社でなければ投資は集まりません。今までは環境問題を積極的に取り組む企業に投資が集まる傾向がありましたが、現在はダイバーシティが大変重要なテーマになってきており、インクルージョンという言葉も浸透し始めています。日本財団はValuable500という団体と協力して、世界の大企業、例えばグーグルやマイクロソフトといった企業500社のCEOをメンバーにして、障害者を積極的に雇用するということがこれからの企業としての価値を上げていくには重要であると訴え、積極的に障害者を雇うことこそがこれからの企業の社会的責任の果し方であるという機運を作っています。投資家の関心がダイバーシティそしてインクルージョンに向かっていく中で、日本財団は世界の大企業500社を集めて障害者を積極的に雇用するという民間から国を動かす戦略で活動しています。「障害者雇用なくして企業の魅力なし」という社会構造にすることで、政府も従っていくという戦略をとっています。

あわせて読みたい

「ハンセン病」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    河野太郎は自民総裁選で勝てるか? 父と祖父があと一歩で届かなかった首相の座

    田原総一朗

    09月21日 08:02

  2. 2

    混雑する観光地、お休み中の飲食店…「国民の祝日」が多すぎることのデメリットを痛感

    内藤忍

    09月21日 11:56

  3. 3

    全国フェミニスト議員連盟の釈明は、明らかに虚偽を含み極めて不誠実である

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    09月20日 16:58

  4. 4

    引きずり下ろされた菅首相の逆襲が始まる「河野内閣」で官房長官で復活説も

    NEWSポストセブン

    09月21日 08:42

  5. 5

    「テレビ報道が自民党一色になっていることへの懸念はあった」立民・安住淳議員に呆れ

    鈴木宗男

    09月20日 15:48

  6. 6

    【会見全文】「アベノミクスは失敗だった、間違いなく」立民・枝野幸男代表が検証報告を発表

    BLOGOS しらべる部

    09月21日 12:14

  7. 7

    「感染ゼロではなく、重症化ゼロを目指す。医療と経済は両立できる」現場医師の提案

    中村ゆきつぐ

    09月21日 08:28

  8. 8

    NY市場が大荒れ 中国恒大集団の影響とアメリカそのものにも問題あり

    ヒロ

    09月21日 11:38

  9. 9

    連休明けに大幅下げの株式市場 実体経済からかけ離れた金融バブルは破裂すべき

    澤上篤人

    09月21日 15:32

  10. 10

    <オダギリジョー脚本・演出・編集>連続ドラマ『オリバーな犬』に危惧

    メディアゴン

    09月20日 10:32

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。