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多摩全生園機関誌「多摩」:インドにおけるハンセン病制圧活動

多摩全生園機関誌「多摩」
2013年1号
インドにおけるハンセン病制圧活動

WHOハンセン病制圧特別大使
笹川陽平

2012年8月25日から9月2日の日程で、インドの首都デリーと北部のダラムサラ、中央部のマディヤ・プラデシュ州を訪問しました。ダラムサラではダライ・ラマ師と面談、デリーではハンセン病回復者の代表者たちと面会、マディヤ・プラデシュ州では州首相などに生活向上の訴えなどを行い、実り多い出張となりました。

デリーに到着した翌朝、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラに飛行機で1時間半ほどかけて移動しました。ダラムサラはチベット亡命政府のある都市で、標高1,500メートルほどの丘陵地域です。空港から町へと移動する山道からは緑の山々や清流が眺められ、とても美しいところでした。もともとこの地はハンセン病患者が少なかったため、インド28州をほぼ全て回ってきた私ですが、この州を訪問したのは初めてでした。

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ダラムサラの風景

ホテルにチェックインしたあと、この地域の周辺では唯一といわれるハンセン病回復者たちの住むコロニー、パランプール村を訪ねました。1917年、キリスト教系団体によって設立され、かつては30世帯ほど、今では17世帯が暮らしています。なかにはダライ・ラマ師を慕い、チベットからネパールを越え、インドのニューデリーを通ってこの地へ移り住んできた方も何人かいました。木々に囲まれ過ごしやすい環境のなか、キリスト教団体やチベット亡命政府からの支援もあり、ラミッシュさんは「今の暮らしは素晴らしい。ここで差別されることはない」と語り、私が「ここに住みたいが料理を自分でできないのが困った」と冗談を言うと、「みんなで作るから心配ない。何でも好きなものを作りましょう」と笑顔で答えてくれました。

翌27日は、チベット宗教最高指導者でノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマ師を訪ねました。同師とはこれまで東京やチェコのプラハで何度もお会いしていますが、ダラムサラでお会いするのは初めてです。私が2006年から毎年行っているハンセン病差別撤廃のための「グローバル・アピール」に過去2回、賛同の署名をいただいており、私のハンセン病の取り組みに大変協力的な方です。今回は、ハンセン病の差別がいけないという強いメッセージをさらに多くの方々に発信するためのビデオメッセージをいただくために訪ねました。

1時間近くにわたる会談でダライ・ラマ師は、「20年ほど前、亡き兄とオリッサを訪ねたときには50万人のハンセン病患者がいた。兄と二人で話をして、彼らのために何かしたいと思ったが、50万人はとても多くて何もできなかった。これだけのハンセン病患者が治癒されたことは素晴らしいこと。あなたをはじめ、この問題に取り組まれてきた方々に敬意を表したい」と話され、ビデオメッセージでは「ハンセン病の患者、回復者を社会が拒絶してしまうことは絶対にいけない。私たちは同じ人間であり、兄弟姉妹。すべての人がコミュニティの一員として幸せに生きられるよう、慈悲心と愛をもって接しましょう」という強いメッセージを発言されました。

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ダライ・ラマ法王に謁見

ダライ・ラマ師との面談の後、ダラムサラからデリーへと戻り、ハンセン病回復者の全国組織「ナショナル・フォーラム」のリーダーたちと打ち合せを行いました。インドには850のコロニーが各地に点在していますが、これまでお互いのことをよく知らず、まとまっていませんでした。私は、これらのコロニーに住む回復者たちが一致団結することで、政府やメディアを動かすことのできる大きな力になると考え、回復者の方々と共にこの全国組織を2005年に創設しました。

今回は、創設時から中心的役割を果たしてきたゴパールさんが代表職を退任され、新しくアンドラ・プラデッシュ州のナルサッパさんが代表になったことを受けての会合です。私から「皆が一致団結し、問題解決のため一つ一つステップを踏んでほしい。全国組織があるということで、中央政府や州政府が交渉に値するとみてくれるようになる。私も全面的に協力し、各州を訪ねたい」と激励しました。新代表のナルサッパさんはやや緊張した面持ちで「これまでの草の根レベルでの経験をいかして頑張りたい」と決意表明されました。

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人権委員長(左から3人目)とナショナルフォーラム・メンバー

デリーではこの他に、P.K.プラダン保健次官やサムリー・プリアンバンチャンWHO(世界保健機関)東南アジア地域事務局長との面談、ササカワ・インド・ハンセン病財団の理事会やメディア・インタビューなどを行い、8月30日の早朝にマディヤ・プラデシュ州の州都ボパールに飛行機で移動しました。

マディヤ・プラデシュ州は2011年の新規患者数が5,708人、人口1万人あたりの罹患率は0.60と、年間12万6千人の新規患者を抱えるインドの中でも患者数が多い地域です。今回の訪問目的は、早期発見・早期治療を徹底し、患者数を減らすための努力を政府にお願いすると同時に、回復者の生活改善や差別撤廃といった社会面での働きかけを行うためです。治療が遅れたため障害が残っている回復者のなかには、障害者年金を受給している方もいますが、この州ではその年金が月150ルピー(約250円)と少額で、インドでも非常に困難な生活を余儀なくされています。他の州では平均して500ルピー、デリーではハンセン病回復者に特化した年金が月1800ルピー支給されており、同州でも高齢者や重度障害のある方が最低限の生活を保障されるよう年金を増額してもらう必要があります。

早速、前述の回復者組織ナショナル・フォーラムのナルサッパ代表と州代表のサランさんとともに、シブラジ・シン・チョウハン州首相に陳情に訪れました。サランさんは、この日にそなえてまとめた州内に34カ所あるコロニーの実態調査と政府への提言書を提出しました。私からも、最近になって月200ルピーから2000ルピーへとハンセン病年金の増額に動き始めたビハール州の例を紹介し、特に年金の増額を検討いただきたい旨と、今後もナショナル・フォーラムと継続して交渉を進めてほしい旨を要請しました。チョウハン首相はその場で、年金額を要望通りの1000ルピーに増額すると約束し、その他の要望についても善処すると応えくれました。

その後、A.K.サクセーナ州人権委員長代理との面談後、メディア30名ほどを前に記者会見を行いました。そこで州首相によるハンセン病年金増額の約束を紹介し、翌日の各紙に大きく取り上げられました。実際に制度として成立させるには今後の交渉と調整が必要となりますが、当事者であるサランさんと共に必ず実現までこぎつけたいと思います。

翌31日には、州都ボパールから車で3時間ほどかけて地方都市のインドールまで移動しました。途中に寄ったマガスプール・コロニーでは、ササカワ・インド・ハンセン病財団の小規模融資を受けて行っている酪農の様子を視察しました。1日20リットルの牛乳を州政府などに卸し、月に約18,000ルピー(約3万円)の収入を4人1グループで得ているそうで、「支援のおかげで素晴らしい活動ができ、みんな喜んでいる」と事業の成功を嬉しそうに報告してくれました。

次に訪問したラム・アバター・コロニーでは、同じく融資を受けて政府から借用している農地で、主に野菜栽培を30人で協力して行っており、昨年は雨が少なくあまり良い成績ではなかったが、今年は雨も多く、好収穫が期待できると自信のほどを話してくれました。また、ササカワ・インド・ハンセン病財団の奨学金で看護師の勉強をしているバシュニヤさんに「村の誇りだね」と話しかけると「一生懸命勉強します」と神妙に答えてくれました。

最後に、州代表サランさんの地元のコロニーも訪ね、100名近くの住人が集まる集会に参加しました。ハンセン病が治癒された子どもたちの歌や、奨学金を受けて大学に通っている若者、それに住人たちの活気ある姿に接し、「皆さん一人一人が非常に苦しい人生を歩んできましたが、これからは皆さんが社会から尊敬されるような時代に変わろうとしています。皆さんは決して一人ではありません。一致団結して希望をもってがんばってください」と語りかけると、住人からも「代表のサランさんと一緒に一人一人が責任をもってがんばっていきたい」と力強い言葉がありました。

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州代表のサラン氏

今回のインド訪問では、ダライ・ラマ師のビデオメッセージから、回復者全国組織ナショナル・フォーラムの新しい出発、そしてマディヤ・プラデシュ州における年金増額の約束取り付けや融資事業の成果の確認と、多岐にわたる分野で一歩ずつ前進することができました。ハンセン病の差別のない世界、彼らが物乞いをせずに尊厳をもって生きられる社会を実現できるよう、これからも回復者たちと共に歩んでまいりたいと思います。

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