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人間に寄り添って考えない限り、システムが変わっても人間疎外は避けられない-「賢人論。」第145回(前編)堀内勉氏

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コロナ禍の中にあって、資本主義が生み出す経済格差に改めて心を痛めた人は多い。折しも、SDGsの推進によって持続可能な社会を目指すことを一人ひとりが意識し始めた時期でもある。俯瞰して見ると、日本の資本主義経済はどのような状況にあるのか。そして、資本主義が生み出す弊害を解決する道はあるのか。日本興業銀行で長年勤務したあと、ゴールドマン・サックス証券勤務、森ビル取締役専務執行役員CFOを経て、現在、多摩大学社会的投資研究所教授・副所長やボルテックス100年企業戦略研究所所長などを務める堀内勉氏にお話を伺った。

取材・文/みんなの介護 撮影/丸山剛史

興銀時代に抱いた「金融は世の中の役に立っているのか」という疑問

みんなの介護 堀内さんは、金融危機の中でさまざまな経験をされ、「自分のこれまでの生き方や日本の金融のあり方、公権力としての検察のあり方に対して疑問を持った」とご著書に書かれていました。当時の日本の金融のあり方にどのような疑問を持ったのでしょうか?

堀内 要は「金融は世の中の役に立っているのだろうか?」という、シンプルで根源的な疑問を持ったということです。私は1984年に、日本興業銀行に入行しました。通称「興銀」は、「業を興す銀行」と書きます。日本の産業界に長期の資金を提供するということで始まった国策銀行です。ですから、当然、創業時には、重要な役割を担っていました。

もともと就職するとき、漠然と「世の中の役に立ちたい」と思っていました。そして、役人になるか法曹界に行くかなどいろいろと考えた結果、興銀に入りました。そして、入社後は興銀で働いていること自体が、社会に貢献しているのだと勝手に思い込んでいたのです。しかし、バブル崩壊以降さまざまな問題がどんどん出てきて、銀行で働いていることが必ずしも社会貢献につながっているわけではないことに気づきました。そして、「そもそもなんで自分は銀行員になったんだっけ?」という根本的な疑問がふつふつと湧いてきたのです。

戦後、資本蓄積が不足していた日本企業に対して、興銀を始めとする長期信用銀行は、擬似資本的な長期安定資金を提供してきました。しかし、経済が成熟していく中で、新たな存在意義を見つける必要があったにもかかわらず、それができなかったのです。

企業というのは、時間が経つと存続すること自体が目的になってしまいます。そしてその企業が世の中にとって存在意義があるかどうかと関係なく、自分たちが生き残るためだけに事業を継続していくという傾向があります。

先頭に立っていると勘違いしている日本の資本主義

みんなの介護 現代の日本の資本主義に対しては、どのように感じていますか?

堀内 日本の資本主義は、残念ながら世界の中ではやはり周回遅れです。資本主義のルールや作法については、アメリカが最先端を走っています。それに反発するものとして、ヨーロッパ大陸型の社会主義的な資本主義などがあるわけですが。

日本は、アメリカ型の資本主義を追い求めてここまで来ています。そのような視点から見れば、非常に遅れていると言えるわけです。資本市場も十分にワークしていないし、企業の経営力も弱い。そのため、先進国中で最後尾にいて、「アメリカ型の新自由主義的な資本主義はおかしいよ」と言っているわけです。これに対して、アメリカでは、特に2008年のリーマンショック以降、修正資本主義のような話になり、最近はステークホルダー資本主義などの議論も出てきています。

これは日本の近江商人が掲げた「三方よし」に似ているのではないかという意見もあります。企業を取り巻くステークホルダーにはいろいろな人がいるので、その人たちのことを考えましょうというのがステークホルダー資本主義です。近江商人の「三方よし」は、自分だけではなく、取引先や社会も考えましょうということです。それで、「世界が日本に近づいてきたんじゃないか」と考えてしまうわけです。

しかし、実状を見ると、日本は資本主義であるにもかかわらず、それが十分に機能していません。なんといっても、「儲ける力」が極端に弱いのです。かといって、資本主義とは違った代替システムを提示しているわけでもありません。アメリカ的な資本主義は問題が大きいので、別のシステムを日本的にアレンジして、世界に発信していこうと言うのなら、まだ良いのです。何も考えがないのに、「三方よし」と「ステークホルダー資本主義」が似ているからといって、何となく先頭に立っているような気になっているのが、日本の資本主義の現状だと思います。

実業家だった渋沢栄一や経済学者の宇沢弘文のように物を突き詰めて考えていた人たちは、日本から世界に発信していける思想を持っていたと思います。例えば、渋沢栄一は、お金儲けは良いことであり、「しっかりお金儲けをしましょう」と言っているわけです。しかし、ただ儲けるだけではなく、「論語と算盤」という考え方を提示して、論語(倫理)をわきまえたお金の儲け方があるはずだと言っています。

宇沢弘文は「社会的共通資本」といって、社会の中には資本主義の市場のルールに則らない部分があるべきだと言っています。例えば、自然や教育、医療などがそれにあたります。資本主義の有用性を認めたうえで、それだけではない世界観をしっかり提示しているのです。

こうした日本ならではの思想を世界に対して発信していけば良いと思うのですが、自分たちの儲ける力のなさを、「社会」とか「持続性」とかいう言葉で糊塗している部分があるのではないかというのが、日本の現状に対する私の意見です。

みんなの介護 日本からも提示できるものをしっかり確立していくことが大切ですね。

堀内 そうですね。アメリカ型の資本主義がおかしいと言うのなら、そのおかしさをきちんと指摘して、代替の仕組みを提示すべきだと思うのです。例えが良いかはわかりませんが、貧しくても清く生きようという「清貧の思想」があります。しかし、「貧乏であることが、すなわち清いことだ」と受け取られるとおかしなことになります。裏を返せば、お金持ちは汚いということになってしまいますから。それと同じで、「遅れているから進んでいるのだ」という言い方をするのは違うのではないかと思いますね。

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