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「韓国ではプロ野球並みの人気なのに」ゲーム大国の日本でeスポーツが出遅れた本当の理由

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コンピューターゲームで競い合う「eスポーツ」が人気を集めている。海外では年間賞金総額が233億円の大会もあるほど規模が拡大している。しかしゲーム大国の日本では、海外ほどの盛り上がりはない。なぜなのか――。

※本稿は、中村尚樹『最前線で働く人に聞く日本一わかりやすい5G』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

第2回全国高校eスポーツ選手権 決勝戦(EBiS303にて)
提供=全国高校eスポーツ選手権©2020 Riot Games, Inc. All rights reserved.

国体の文化プログラムに採用された

eスポーツは、Electronic Sports(エレクトロニック・スポーツ)の略で、「コンピューターなど電子機器を使った競技」という意味である。Electric(エレクトリック)、つまり「電気」を使うという意味ではなく、あくまで「電子」上の競技である。ちなみにeが小文字になっているのは、決まりがあるわけではない。ただ、アップル社が自社のパーソナルコンピューターに小文字の「i」を冠した製品を売り出して人気を博したことにあやかって、小文字を使うようになったのではないかと、関係者の多くは見ている。

ゲームの種類は、1対1で戦う格闘技だったり、チームに分かれて陣地を取り合う団体戦だったりと、様々だ。具体的にはFPS(シューティングゲーム)、RTS(戦略ゲーム)、MOBA(チーム戦バトル)、格闘ゲーム、スポーツゲーム、パズルゲーム、カードゲーム、ソーシャルゲーム、スマートフォン向けゲームなどがある。

国内ではプロ野球やJリーグも、それぞれの競技をコンピューター画面上で競うeスポーツの大会を開いている。海外では野球のメジャーリーグ、サッカーのFIFA、バスケットボールのNBA、モータースポーツのF1など著名なスポーツ団体が、eスポーツに参入している。2019年から国体でも、文化プログラムとしてeスポーツが競技種目となっている。

2018年には既存のeスポーツ3団体が統合して「日本eスポーツ連合」(JeSU)が発足した。eスポーツ大会の普及活動や認定、プロライセンスの発行、選手の育成や支援などを行っている。

世界の競技人口は2億人以上

このeスポーツを、どのくらいの人が楽しんでいるのだろうか。平成30年度の文部科学省の事業として国際研修交流協会がまとめた「eスポーツ分野における先端技術活用型チームマネジメント人材養成事業」成果報告書によれば、国内のeスポーツ競技人口は約390万人、eスポーツを見て楽しむオーディエンスは約160万人と推定されている。さらに世界の競技人口は約2億人以上という。錦織選手や大坂選手の活躍で日本でも人気の高まってきたテニスの競技人口が日本で約400万人、世界では約1億1000万人だから、その世界的な広まりがわかっていただけるだろう。

また、eスポーツの優れている点は、プレーヤーに関してフィジカルな制約が少ないことだ。だから身体に障害のある人たちも、自分にあった補助器具を使うことで、健常者と対等に戦うことができる。大会の多くは、性別や年齢による区分もない。

eスポーツ人気を裏づけるように、特に海外では大会の規模が急速に拡大している。2019年に開かれた「フォートナイト」というゲームの大会では、日本円にして賞金総額約33億6300万円、1位賞金3億2500万円という大会も開かれた。各地の大会の賞金を積み上げた年間の賞金総額では、2019年の「ドータ2」がなんと、233億円である。観客動員では、「リーグ・オブ・レジェンド」の世界大会決勝戦で6万人、インターネットで配信された決勝戦の視聴者が2億人というからすさまじい。ちなみに2008年の北京オリンピック開閉会式の観客が6万人である。

ARスポーツ「HADO」対戦風景
提供=メリープ

日本のeスポーツはいまだ発展途上

eスポーツ先進国はアメリカや韓国、そして中国である。それに比べて、日本はかなり出遅れているといわざるを得ない。「任天堂やソニー、セガを擁するゲーム大国日本でなぜ?」と思われるかもしれない。

eスポーツは、コンピューターを相手に戦うのではなく、電子ゲームを舞台に、複数のプレーヤーが対戦するものをいう。あくまで、人と人とが戦うのがeスポーツなのだ。1対1の個人戦もあれば、5対5の団体戦もあり、中には100人が一度に参加できる競技もある。

一方、日本では家庭用のゲーム機があまりに普及してしまったため、主にパソコンなどを使って対戦するeスポーツは出遅れてしまったのだ。加えて日本では、専用の光ファイバーを使った光回線が普及する前に、従来の電話回線を利用するISDNをはさんだため、インターネットの回線速度が他国と比べて遅かったのも理由のひとつにあげられている。

さらに日本では、景品表示法や刑法の賭博罪との関係で、eスポーツの大会に多額の賞金を出せない恐れがあったり、風俗営業法でeスポーツ特化型ネットカフェの営業時間が規制されたりすることも、日本でeスポーツが出遅れた要因といわれている。

これに対してお隣の韓国は、世界大会上位の常連であり、eスポーツ大国と呼ばれる。その歴史的背景としては、1990年代後半の世界同時不況で韓国が通貨危機に直面した際、国策としてネット事業に力を入れたことがあげられる。仕事のない若者がネットカフェに集まり、オンラインゲームに熱中するようになった。やがてeスポーツの人気は拡大し、ソウル市内にはeスポーツ専用の競技場もオープンするなど、いまや韓国を代表する文化のひとつともなっている。

後れを取り戻しつつある日本のeスポーツの魅力

もうひとつ指摘しておきたいのは、eスポーツの、「スポーツ」という用語である。日本語でスポーツというと、身体を動かす「運動」を意味する。だからコンピューターゲームをスポーツと呼ぶことに違和感を覚える方もいることだろう。しかし欧米諸国における「スポーツ」の語源はラテン語で、「日々の生活から離れること」「気晴らしをする」「楽しむ」という意味がある。時代が下って、「競技」という意味も加わった。つまり「楽しみでする競技」というのが、欧米で理解されるスポーツなのだ。

身体を動かすのはフィジカルスポーツだ。そして頭脳で勝負するチェスやカードゲームは、マインドスポーツと位置づけられる。eスポーツも、この系譜に入る。

一方、明治期の日本政府は、外国から入ってきた「スポーツ」を「楽しみ」ではなく、教育における「鍛錬」と位置づけた。そこから日本では、身体を鍛える運動がスポーツと考えられるようになったのだ。こうしてみると、日本は「e」に対するアプローチ、そして「スポーツ」に対する受け止め方という二重の意味で、eスポーツに後れをとってきた印象がある。しかしいまではその後れも、急速に取り戻しつつある。

かつてのプロ野球のような勢いでe スポーツが普及する

東京都eスポーツ連合会長で、日本eスポーツ学会代表理事も務める筧誠一郎はeスポーツの魅力について、若い人たちにとってゲームはきわめて身近な存在で、しかも対人性があることだと言う。

「何が若い人たちを惹きつけているのかというと、人と人とが競うという点です。その人の性格や考え方がそのまま表れるのが、eスポーツのいいところですね。コンピューター相手だと、同じ攻め方をすれば、同じ反応が返ってくる。しかしeスポーツは相手が人ですから、対戦相手によって変わるわけです。戦い方の好みも様々です。それは、対戦相手とのコミュニケーションでもあるのです」

人間関係が希薄になりつつある時代だからこそ、人びとはeスポーツに、気のおけない仲間とのつながりを求めているのかもしれない。

1960年生まれの筧は高校時代にテーブルテニス、大学時代にはスペースインベーダーやギャラクシアンに熱中した世代である。大手広告代理店の電通に入社したあとも、ファミコンやスーパーファミコン、プレステ、さらにはオンラインゲームと、ゲーム熱が冷めることはなく、ついにはゲーム制作の企画を立ち上げて、スーパーファミコンやプレステのゲームを大ヒットさせた経験もある。そんな筧がeスポーツを知ったのは46歳のときだった。韓国など海外で、eスポーツが深く浸透している状況を知り、衝撃を受けたのだ。

筧はさっそく社内に勉強会を立ち上げ、eスポーツに関する取り組みを開始した。リーマンショックで開発費が削減されると、筧は49歳で思い切りよく電通を退社した。やがてeスポーツの普及に関する事業をマネジメントする会社を立ち上げ、大会を主催したり、渋谷に日本最大規模の「eスポーツ・パブリックビューイングバー」をオープンさせたりしている。

そんな筧はeスポーツについて気負うことなく、「要はスポーツジャンルのひとつ」と語る。「eスポーツって、特殊なものと思う人もいるかもしれませんが、かつて野球が若者に支持されたように、いまの時代はeスポーツが支持されている。だからプロ野球で行われてきたことが、これからのeスポーツにもそのまま当てはまるのですね」

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