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次期FRB議長はハト派のブレイナード氏か「影の大統領」イエレン氏カギ握る

パウエルFB議長(2021年7月15日) 出典:Photo by Win McNamee/Getty Images

岩田太郎(在米ジャーナリスト)

【まとめ】

・米連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長、来年2月で任期満了。

・ブレイナードFRB理事、次期FRB議長の最有力候補として急浮上。

・バイデン大統領に影響力あるイエレン財務長官の助言に注目集まる。

ドナルド・トランプ前大統領によって指名された米連邦準備制度理事会(FRB)ジェローム・パウエル議長の任期が2022年2月で終了するのに伴い、FRB議長の指名権を持つジョー・バイデン大統領が、コロナ禍による経済ショックへの対応で手腕を高く評価されるパウエル氏を留任させるのか、それとも与党民主党の経済・金融政策観をより忠実に反映させる進歩派の人物を新たに指名するのか、市場の熱い注目を浴びている。

バイデン大統領は、この10月に任期切れとなる銀行監督担当副議長であるランダル・クオールズ氏(トランプ氏に指名されたタカ派)の後任、さらに現在空席の理事1名分と併せ、FRB指導部や将来の金融政策を「ハト派色」に染めるチャンスを手にする。議長指名は9月に行われる可能性が高いが、バイデン政権内で強い影響力を行使する前FRB議長のジャネット・イエレン財務長官の動きと合わせ、今後の米経済を占う重要な人事となりそうだ。

■ 文句なしの実績

まず、パウエル議長の続投論は、金融業界の中心地であるウォール街を中心に極めて根強い。コロナ禍の中で、「やれることはすべてやる」という強い指導力の下、大胆な緩和的政策をもって米金融市場が落ち込むことを防いだばかりか、米株式が史上最高値を更新する「よきパターン」を作り出したからだ。

米金融大手JPモルガンのチーフエコノミストであるマイク・フェローリ氏は、「パウエル議長のコロナ禍対応はアグレッシブかつ創造的で、しかも本気度が高かった。パウエル氏のリーダーシップは、党派を超えてエコノミストや議員から絶賛された」と総括する。

パウエル議長はさらに、米議会によりFRBに課せられた雇用最大化・物価安定という使命を、大枠でクリアしている。もっとも、現在高まる物価上昇率に関して、「予防的に資産購入(テーパリング)縮小や利上げなどの引き締め策実行を前倒しすべきだ」との一部の投資家の声に対してパウエル議長は、「インフレ上昇は一過的なものであり、緩和策は続行する」との立場であり、その面では市場対話が上手く機能していない感がある。

それでも総合的に見れば、パウエル議長への評価は依然として高く、「パウエル氏なら」という続投待望論が、民主党のブラッド・シャーマン下院議員などからも出ているのだ。

■ ハト派もタカ派も批判

このような実績や評価から見れば、パウエル議長の再任は問題がないように見える。しかし、民主党内では、バイデン大統領が別の人物を新たに議長職に指名するのではないかという観測が流れている。

米経済専門局CNBCの分析記事によると、パウエル氏がトランプ前大統領に指名されたという因縁(もっとも、在任中にトランプ氏は自らの意を体さず、独立した中央銀行運営を行ったパウエル氏を激しく口撃した)、そして何より、2010年に成立したドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法の定める規制を一部緩和するなど、金融業界に対する融和的な政策を推進したことが問題視されている。

加えて、FRBが新たな使命として掲げる環境問題や人種・ジェンダー・性的少数派問題への取り組みが十分ではないと見られている。早い話が、共和党員のパウエル議長は「ハト派」「進歩派」に睨まれているのである。

またパウエル議長は、「インフレ高進説」を唱えるダラス連銀のロバート・カプラン総裁やセントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁など、FRB内部のタカ派高官たちからも、予防的にテーパリングや利上げを早めない姿勢を間接的に批判されるなど、左右から挟撃される気の毒な立場にある。

■ ウォール街の懸念

こうした中、次期FRB議長の最有力候補として急浮上しているのが、過去にたびたび財務長官やFRB議長の候補として名が挙がったラエル・ブレイナードFRB理事だ。彼女は財務省勤務が長く、バイデン政権組閣の際には財務長官への指名があると見られていた。だが、バイデン大統領は経験豊かで明確な政策観を持つイエレン前FRB議長を長官に指名し、ブレイナード氏はFRB理事に留任した経緯がある。

▲写真 ラエル・ブレイナードFRB理事(写真は2011年10月25日) 出典:Photo by Alex Wong/Getty Images

しかし、今回の人事でブレイナード理事がパウエル氏の後継と目されるのは、相当の理由がある。まず、ブレイナード氏が金融業界の規制強化に前向きであることだ。これが、民主党の進歩派にウケがよい。FRBを率いる立場になれば、パウエル議長の下で緩和された規制を再び強化する方向に進む可能性がある。

またブレイナード理事は、金融政策を用いた経済格差是正の熱心な支持者でもある。もし人事が米議会で承認されれば、パウエル氏の下ではかけ声のみに近い貧困対策や環境問題への取り組みに本腰を入れるようになろう。

さらに民主党内におけるブレイナード人気のもうひとつの大きな理由は、彼女が中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行に前のめりであることだ。「デジタルドル」と呼ばれるFRBのCBDCは、同じくFRBが提供する無料デジタルウォレット(口座)や、2万5000ドル未満の取引に限定してエンド・ツー・エンドの支払いを24時間365日可能にするFRBデジタル決済と「三位一体」の、政府による金融サービスを構成する要素になる。

加えてCBDCは、民主党内に支持者が多い最低限所得保障の「ベーシックインカム」や恒久的な扶養子女(児童)税額控除の自動給付装置の一部として機能することが構想されており、リベラル好みの「大きな政府」と親和性の高い政策だ。

だが、FRBによる金融サービスの提供は、銀行など民業の圧迫につながりかねない。このため、規制強化・格差是正・大きな政府など左派的な政策を推進する可能性が高いブレイナード理事は、ウォール街にとってはイデオロギー色が強い「要注意人物」なのである。事実、前述のフェローリ氏は、「(功績の多い)パウエル氏は失職する恐れがある」という間接的な言い回しで、「ブレイナードFRB議長」誕生への警戒を露わにしている。

■ カギを握るイエレン財務長官

バイデン政権にとり、「ブレイナード議長」人事は、金融政策を意のままに動かせるチャンスであると同時に、金融業界を敵に回しかねないという諸刃の剣でもある。最悪の場合、新FRB体制に不満を持つ銀行勢力が共和党と結び、2022年の中間選挙と2024年の大統領選挙で民主党に対抗する事態になるかも知れない。ウォール街を味方につけられないままで、テーパリングと利上げが円滑に実施できるのかという懸念もある。

こうした中、バイデン大統領の思考と判断に決定的な影響を及ぼし得る立場にいるのが、イエレン財務長官だ。FRB議長(当時)としてパウエル理事(当時)とブレイナード理事両人の上司を務めたため、人事に関する彼女の助言には極めて重みがある。加えて、財政出動・税制改革・格差是正など一連のバイデン政権の経済政策は、マクロ経済や労働経済学が専門であるイエレン氏の政策観や主張にぴったりと沿うものであり、事実上、彼女が「バイデノミクス」を仕切っていると言っても過言ではない。

▲写真 イエレン米財務長官(2021年6月23日) 出典:Photo by Greg Nash -Pool/Getty Images

この「影の大統領」であるイエレン氏は、パウエル議長のパフォーマンスについて、「上手くやった」と評価するものの、パウエル続投を支持するかと問われた際には、「今は自分の意見を公言しない」と述べるに留めている。

イエレン氏は妥協ができる「現実派」でもある。そのため、バイデン氏に「パウエル再任・ブレイナード副議長(銀行監督担当)昇格」というアドバイスをするかも知れない。また、FRB外部から新しい人材を登用するよう助言をする可能性もある。バイデン大統領の決断を、市場や投資家は固唾をのんで見守っている。

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