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安易な「日本すごい」中毒に注意?スポーツの祭典と愛国ムード

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国境を越え尊敬しあう選手、中傷合戦と化すネット

東京五輪が閉幕した。久しぶりにテレビに噛り付いた17日間だったが、なかでも体操競技に釘付けになった。私自身が学生時代体操部に所属していたこともあり、長年にわたり熱心に応援をしていたためだ。

それにしても、個人総合の金メダリストである橋本大輝選手の演技はもちろんのこと、銀メダルを獲得した中国の肖若騰選手の立ち振る舞いも感動的なものだった。橋本選手が逆転で金メダルを獲得した瞬間、肖若騰選手は金メダルを祝福するかのように拍手を送ったのだ。橋本選手の点数が出る前にも、両選手が互いを称えあう様子が見られた(参考:https://sports.nhk.or.jp/olympic/highlights/content/486f3e85-b8f8-4b50-bb46-82e45dfe322c/ 2:55:50頃)。

また、報道によると銅メダルだったロシアのニキータ・ナゴルニー選手は、橋本選手が最終演技に向かう際「君ならできる」と声をかけていたようだ。素晴らしいパフォーマンスをするアスリートたちが互いに尊敬しあう姿は、五輪精神を体現している。

それだけに、橋本選手への誹謗中傷は大変に残念だった。橋本選手の得点に不満を持った中国人ユーザーたちがネット上で暴れたのだ。愛国心を胸によかれと思って行動したのかもしれないが、結果として母国の品位を落としてしまったと言える。アスリートの進歩とは裏腹に、応援する側はなかなか変われないようだ。

安易な「日本すごい」記事に注意?

ドイツの哲学者、ホルクハイマーとアドルノによる『啓蒙の弁証法』という本がある。野蛮な社会を克服するはずの啓蒙主義が、最も野蛮なナチス・ドイツを生んでしまった理由を考察したものだ。

同書を補助線にしてみると、橋本選手に寄せられた誹謗中傷が「愛国の弁証法」に見えてくる。国家の威信を高めるはずの愛国心が誤った方向に働いた結果、誹謗中傷を投げつけるという母国を貶める行為に発展してしまったのだ。近代国家においては愛国心が要請されるが、暴走すると国益が損なわれたり威信が低下したりしてしまう。

こうしたことを考えるとき、五輪期間中に多く見られた「日本すごい論」的な記事は少し気にかかる。羽田空港のトイレに感激した、という記事に始まり、日本のコンビニがいかに素晴らしいか、選手村でのおもてなしに感動したといったものまで、その内容は様々だ。

当然ながら、そういった記事を読むことそのものは全く問題がない。私自身、日本の体操選手に関する記事を中心に色々と読み漁った。海外の視点から語られる日本のよさにも、気づかされる点が多々あった。日本の美点や日本国民の活躍を伝える記事から活力をもらえるなら、むしろ是非とも読むべきだ。

しかし、五輪に乗っかる意図で、それほど深く考えず「日本すごい論」的な記事が大量生産されている感は否めない。愛国心や郷土への誇りが得られるならば、それはとてもよいことだと思う一方、橋本選手に向けられた誹謗中傷のような愛国の弁証法を目の当たりにした今、ただそれらを高めればよいとは言えないはずだ。

愛国心と言えば、政治的なポジションとして保守を想起する人も多いと思うが、保守思想は他国を貶める発言を頻発する排外主義を忌み嫌う。保守思想家の西部邁氏もそうだった。

西部氏が残した多くの著作には、度々「平衡感覚」という言葉が登場する。「熱烈」「劇的」「過剰」とった言葉で形容される何かが人心を掴むとき、しばしば社会が混乱に陥る事実を保守思想が重視するからだろう。平衡感覚は、そんな言葉に惑わされないための心構えだと見なせる。一方に偏することを戒める言葉だと解釈してもよいと思う。日本すごい論を読み活力をもらうのはよいことだが、それが行き過ぎて排外主義者にならないためにも、平衡感覚を頭の片隅に置いておきたい。

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