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【書評】羽田圭介『ワタクシハ』☆☆☆★★

芥川賞に2度候補になった羽田圭介の『ワタクシハ』は、「就活小説」として手に取った人も多いのではないだろうか。ぼくのいた大学の生協でも、いよいよシーズンに突入した就活生たちに手にとってもらうことを念頭に売られているようだ。

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「ワタクシハ」 (講談社文庫)

主人公の太郎は、高校生の時テレビのオーディション番組でデビューを勝ち取り、一躍スターになったギタリスト。とはいっても今ではバンドが解散し、印税や演奏のバイトで稼いだ彼の貯金も100万を切ろうとしている。同じ大学の同級生でアナウンサー志望の彼女・恵と一緒に、「記念受験」のつもりでテレビ局の採用試験をきっかけに、彼も就活戦線に出て行くことになる。

高校生でデビューしたヘビーメタル系のギタリストがする就活をする小説、というと、現実離れした話のように聞こえる。けれど読み進めればわかるが、主人公の状況はなにも特殊なものではない。すくなくとも著者は、ほとんど特殊なものとしては描こうとはしていない。

本作の太郎の卓越したギターの演奏技術、そしてギターで有名になった過去というのは、就活生誰もが一つや二つは持っているはずの趣味や特技、取り柄といった、その人固有の「個性」の誇張だ。

そして、その「個性」は、就活の上では何の役にも立たない。太郎も、かつて人気を勝ち得たことがあるだけに、面接官もその話題に触れてくれる。けれど、そのあと彼の元にくるお祈りメールが、「個性」が実際のところ就活で何も意味をなさないということを教えてくれる。

この小説には、そのほかにも元就活生をえぐる描写がいくつもある。

たとえば、太郎がエントリーシートの自己PRを書く段になり、具体的な数字をもって自分の体験を表現する場面がある。ぼくも、無味乾燥とした数字に自分の体験談を無理に置き換えていくとき、自分の体験がかえってみずぼらしくしぼんでいく、という感覚を強く覚えた。

ほかにも、ちらっと出てくるテレビ愛だけはアツいがそれまで局でバイトするなど具体的なアクションを何もおこしてこなかった双子の就活生や、面接で質問攻めにあって空虚でつじつまの合わない美辞麗句ばかり並べてしまう場面なんて、あいたたたと心に効いた。


時期が時期だけに、同じ就活がテーマで直木賞をとった朝井リョウ『何者』と比べたくなる。

『何者』に比べると、ストーリー構成が一筆書きのように一本道で、よくいえばシンプル、悪くいえば淡泊だ。魅力的なキャラクターなのに、物足りないところもある。

けれど、就活を体験し終わった人も、これから体験する人も、それなりにもやもやしたものをひきずること請け負いの、清々しい小説であることには間違いない。

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