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  • 2021年08月12日 10:15 (配信日時 08月12日 06:00)

PCR検査と緊急事態宣言はどちらがコスト高か - 原田 泰

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前回(『オリパラ代表受け入れがカギ握る空港での検疫』)に引き続きコロナ対策の費用対効果分析を行う。今回のテーマは、PCR検査(抗原検査を含む)とクラスター対策である。PCR検査の進め方には、むやみに拡大すべきではないという抑制派と、拡大すべきであるという推進派がいる。それぞれの主張は様々な論点があるのだが、ここではどちらがより効果的に感染者を発見し隔離できるかという観点のみで考える。また、感染防止の試算においても、前回で指摘した海外からの検疫を徹底させた上で、国内での感染拡大のみを対象とするものとする。


(Alessandro Biascioli/gettyimages)

抑制派はクラスター対策の効果を強調

クラスター対策とは、感染者を発見したら、その濃厚接触者をあぶりだし、それだけを追跡して感染者を隔離し、感染を広げないようにするという政策である。なお、これを日本独自の対策としている方が多いのだが、マット・デイモン、ジュード・ロウ、ケイト・ウィンスレットらハリウッドの豪華スターが出演した2011年公開のウイルス・パニック映画『コンテイジョン』でも電話と監視カメラで感染者を追跡するというシーンがある。

クラスター対策を進めた感染症学者は、検査拡大を批判していた。PCR検査は絶対ではなく、偽陽性者(陰性なのに陽性となる)、偽陰性者(陽性なのに陰性となる)が出る。偽陽性者は無駄に医療資源を使い、隔離することが本人に過大なコストを与え、場合によっては人権侵害となりかねない。偽陰性者は、むしろ安心して自由に行動し感染を広めるというのがその理由である。

新型コロナウイルス感染症対策分科会委員、東北大学大学院医学系研究科の押谷仁教授は、NHKの番組で以下のように答えている(「専門家に聞く“新型コロナウイルス”との闘い方と対策」NスぺPlus、2020年3月27日)。

実はこのウイルスでは、80%の人は誰にも感染させていません(『新型コロナ感染者「8割は他にうつさず」 厚労省見解 新型コロナ』日本経済新聞2020年3月1日)。つまりすべての感染者を見つけなければいけない、というわけではないんです。クラスターさえ見つけられていれば、ある程度制御ができる。むしろすべての人がPCR検査を受けることになると、医療機関に多くの人が殺到して、そこで感染が広がってしまうという懸念があって、PCR検査を抑えていることが日本が踏みとどまっている大きな理由なんだ、というふうに考えられます 。

抑制派の主張のうち、偽陽性者は無駄に医療資源を使い、また、隔離することも本人に無駄なコストを強いるというのはその通りである。これらはPCR検査のコストと考えなくてはならない。

抑制派の3つの主張

この主張は3つの主張からなっている。第1は、PCR検査を受ける人が病院に殺到すればそこが感染の発生源になるという主張である。第2は、偽陰性者は、むしろ安心して自由に行動し感染を広めるという主張である。第3は、「80%の人は誰にも感染させていない」から、クラスター対策だけをすれば良いという主張である。この主張は、20%の人はクラスター対策で追跡できていることを前提としている。私の疑問は、本当に追跡できているのか、ということである。

第1の指摘には、検査のために特別な場所を作れば容易に解決できる。世界的にもそうしていて、病院に検査を求めて人が殺到するということは起きていない。

第2への対処法は、PCR検査で陰性になったとしても本当に陰性であるかどうかは分からないし、今後感染するかもしれないから、今まで通りに感染防止策を徹底してくれと説得することだろう。この説得がどれほど効果的かは分からないが、まったく逆効果ということもないだろう。

第3については、80%の人は感染させず、20%の人が感染させているだけで、感染者が増えているということは、20%の人が多数の人に感染させていることになる。図は、このことを模式的に描いたものである。まず100人の感染者がいて、うち20人しか感染させず、かつ、全体として新規感染者が増えているなら、20人の人は100人以上に感染させたことになる。


写真を拡大

これを例えば120人に感染させると考える。1人の感染者から何人に感染が広がるかを示す実効再生産数が1.2ということである。すると、20人の人は1人平均6人に感染させなくてはならない。1人平均6人にうつすということは平均の倍の12人にうつす感染者がいくらでもいる、目立つスーパースプレッダーがいるということである。

であれば、感染経路が分かりそうなものである。しかし、ここが怪しいから集中的に追跡せよ、という対策は大々的にやらなくなった。代わりに人流を抑えろという話になっている。これは、クラスター対策で感染経路を抑える政策は、限界があったと示すことになる。

クラスター対策の費用の多くは、指導した感染症学者と保健所職員の人件費と電話代であるから、ほとんどが保健所の人件費と言えるだろう。厚生労働省によれば保健所の常勤職員数は2万7902人である(厚生労働省「令和2年版厚生労働白書」資料編、2保健医療、保健所の職種別常勤職員数)。

保健所は、もちろん他の業務をしている訳で、コロナのクラスター対策でどれほど余計に人件費がかかったかは分からない。ここからはまったくの推測になるが、保健所崩壊という報道から保健所業務はコロナ対策のために崩壊するほど増大したと考える。さらに、日常の業務量が3割増えればたいていの職場は崩壊状態になるとする。もちろん、崩壊しないように、他の部局から応援を出したり、非常勤職員を増やしたりしただろう。すると、2万7902人の3割強である1万人分の人件費がクラスター対策の費用であると推測できる。人件費を平均で年500万円として500億円である。

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