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大規模調査から見えてきた「部活動」の課題と未来/『部活動の社会学』編者、内田良氏インタビュー

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部活動研究の第一人者として研究・情報発信の両面で活躍する、内田良氏の編著『部活動の社会学――学校の文化・教師の働き方』(岩波書店)が刊行された。

部活動の過熱や生徒・教師の負担という問題の認識が広がり、社会での捉え方も変わってきている。だが内田氏によると、部活動の状況が全面的に変わってきたというには遠く、学校内の理解、また部活動に関するアカデミックな研究もまだまだ進展していないという。

そこで、部活動をめぐるこの数年の変化や現状、独自の大規模社会調査から見えてきた部活動問題の背後にある構造や教師の意識、今後想定される民間委託への展望、さらには研究と情報発信のあり方について、内田良氏にお話を伺った。(聞き手・構成/岩波書店 大竹裕章)

内田良氏

部活動問題を真正面から問えるようになってきた

――これまで部活動に関する研究と情報発信を続けて来られましたが、今回刊行される『部活動の社会学』の研究上の背景と位置づけを教えて下さい。

本書は2017年に実施した、約4000人の公立中学校教員を対象とする大規模な社会調査をベースにしています。実はこの調査については、先にブックレット『調査報告 学校の部活動と働き方改革』(岩波書店、2018)で速報的に結果を紹介しています。調査の実施からブックレットの刊行まで1年と、大規模調査の成果公表としては非常に早かったのですが、今回は調査データに多変量解析などの分析・検討を、時間をかけて行い、様々な視点から論点を整理しました。

どんな教師が部活動に熱中しているのか、男女差や世代・家族構成による差が部活動顧問の負担にどう影響しているのか、地域によって部活動の熱中度合いに違いがあるのか……等々、これまでわからなかった部活動の実態を、エビデンスをもとに明らかにしています。加えて、部活動やそれが現在のように社会問題化された経緯など、歴史的な観点についてもいくつかの章で言及しました。

実はブックレットを刊行した当時、書名を「部活動」に関わる言葉だけでよいのか悩みまして、最終的に「部活動」と「働き方改革」の両方を入れたタイトルにしました。その頃は学校の働き方改革の議論がまさに盛り上がっていたこともありますが、同時に部活動を真正面から問うのが難しい時期でもありました。部活動に特別な思いを抱いている人は多いですし、部活動改革に関するアレルギーは今よりもかなり強かった。

2017年に私は『ブラック部活動』という、より過激なタイトルの書籍を出してはいましたが(笑)、これは見てわかるように、世論を喚起するという問題提起の意図がありました。そうして社会の状況が変わる中で、アンケート調査でリアルな先生たちの声を拾い、より実態に迫る作業を進めたのですが、研究色の強い内容をどのように打ち出すか、当時は留意が必要だったのです。

それから3年後の今、社会状況も変わり、こうした懸念はまったくありません。ですから、真正面から部活動について取り組む書名にしました。研究内容から考えると自然ではあるのですが、世間の状況に左右されず、真正面から部活動を取り扱って考えられる空気も出てきたと思います。こうした時代に、部活動についてエビデンスをもとに掘り下げることができるのは、重要なことです。

――『ブラック部活動』を刊行された当時のインタビューでは、社会問題として部活動が取り上げられつつある一方、「職員室は無風状態」であるという状況も指摘しています。お話頂いた社会状況の変化に対して、先生たちの部活動への受け止め方に変化はありましたか?

答えるのが難しいですが、先生たちから「部活動に力を入れたい」「部活動が大好き」と無条件には公言しにくくなった、という声は聞きます。そういう変化は、地域によってはあるのかもしれませんね。

ただ、総じて全国の先生たちの意識が変化したとは言えないでしょう。教育者として部活動にコミットすることの価値や教育的意義がこれまで何度も言われてきて、その蓄積が価値観として存在するわけですから、そう簡単には変わらないように思います。

部活動がネグレクトされているアカデミズムの現状

――本書では、「部活動に関する研究は驚くほど少ない」と、アカデミズムにおける偏りを指摘しています。

部活動に関する世論は成熟してきていますが、研究面ではまだまだ乏しいと思います。中澤篤史さんや神谷拓さんといった部活動の研究者はいますし、2010年代中頃には『運動部活動の戦後と現在』『運動部活動の教育学入門』といった労作が刊行され、運動部活動の歴史的な経緯についてはかなり明らかになっています。

ただ、学校教育ではときに授業以上の存在感を持つ部活動ですが、膨大な授業研究の数に比べて部活動研究は極めて少ないと言わざるを得ません。またこのお二人の研究は、主として歴史という観点から運動部活動について研究されていますが、量的調査に関するものはほとんど皆無です。

――卒業論文で「部活動について取り上げたい」という学生が増えている、という話を各所から聞きますが、アカデミックな研究の領域への反映はまだ先ということでしょうか。

そういった学生は増えています。部活動に対する研究上の構えにも、少しずつ変化が生まれているように思います。これまで教育学では、部活動は「授業ではない人間関係の場」として、基本的にはポジティブに捉えられてきました。

部活動は教育課程外の活動ですが、だからこそ、国の教育制度に絡め取られない自治的活動の場であり、授業にはない教育の力、授業にうまく馴染めない子どもの活躍の場としての魅力が語られてきました。

でも、こうした語りはある種の牧歌的な部活動観に基づくものですよね。部活動改革の議論を経た今、教育学者は素朴に「部活動はいいものだ」とは言えないでしょう。

このような中、部活動を捉える枠組みが変わってきたことは確かです。ですが、それを焦点化して部活動研究へとつながる議論はまだはっきりしておらず、これから研究の充実が必要です。本書については、エビデンスを駆使し、部活動に関わる教員の声を浮かび上がらせたという点が特徴であり、新しいと言えます。

――本書がベースとする独自の社会調査のほか、これまで部活動に関してどのような調査があったのでしょうか。

近年では文部科学省の「教員勤務実態調査」(2016)やスポーツ庁の「運動部活動等に関する実態調査報告書」(2017)などで、教員が部活動顧問に充実する時間を具体的に調査しています。

とはいえ、これらの調査は部活動の活動形態・時間数など客観的な事実レベルを明らかにしていますが、教員の意識がわかるものではありません。今回の私たちの調査では部活動そのものにしっかり焦点をあて、教員の意識や現状の課題を浮かび上がらせるデータを取得できる設計にしました。社会調査としてこれまでになかったものです。

これだけ影響力が強い部活動の実態がわかっていなかったわけですが、部活動が教育課程外のものゆえに、国が調査し解明すべきものとは考えられてこなかったのでしょう。こうした背景もあり、部活動がブラックボックス化し、肥大してきたといえます。

データから見えてきた過熱の理由

――教員の実態や意識を「見える化」したことが本書のポイントですが、どのような興味深い知見があるのでしょうか?

それはぜひ本書を読んでほしいところですが、部活動の過熱に関して2つほど読みどころをご紹介します。

第1に、小学校でのスポーツ経験と中学校での部活動の関係を論じた第5章です。この章では、小学校での競技経験をもつ生徒の割合が高い部活動では過熱が起こる傾向が増し、大会成績も上位に行きやすいことをデータから導き出しています。

この指摘はとても新しいもので、これまで部活動については中・高に関する論点が中心で、小学校についてはほとんどなにもわからなかったのです。

「小学校から野球をやっていた子どもが多ければ中学の野球部も強い」というのは、「言われてみたらたしかにそうだろう」とは思うかもしれませんが、これまで全く裏付けがありませんでしたし、成績だけでなく活動自体も過熱しやすいというのは重要な指摘です。言うなれば、小学校からすでに過熱が始まっていることを描いたと言えます。

もう1つが、先生たちの「勝利至上主義」と「楽しければいい」の2つの意識を分析した第6章です。部活動で子どもたちにどうなってほしいか先生たちに尋ねると、たいていの方は「勝ち負けはどうでもいい、生徒が活動を楽しんでくれることが一番」と答えるんですね。

この調査でもこうした勝利至上主義か、楽しさ(教育的意義)かを問う質問をいくつか入れているのですが、ある項目では「勝ち負けにはこだわらない」と答える一方、別の項目では「部活の競技・活動の成績を向上させたい」と答える先生が全体の42%に及びます(この割合は一番多く、次いで「勝ち負けにこだわる」かつ「成績を向上させたい」と答えた先生が32%)。

勝ち負けにはこだわらないはずなのに、競技の成績は向上させたい――部活動の「楽しさ」「成績」という2つの価値に対して、アンビバレントな意識をもつ教員が半数近くになることを示しています。これは部活動の実態を捉えるうえで、大変興味深い知見です。

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