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<フジ「新しいカギ」>お笑いで「ふつう」と「またか」はNGだ

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

***

ぜひヒットしてほしい、応援しているコント番組がある。フジテレビの『新しいカギ』だ。感染者が増えることを前提に開催された東京オリンピックの饗宴。その裏で夜8時から放送された『新しいカギ』(8月6日・金)。この放送時間帯は大変名誉なことであり、番組の独自性を、見たことのない人々に知ってもらうにはまたとないチャンスだ。

当然、筆者も見た。そして、結果はどうだったか。

残念だが感想は「笑いの番組で『ふつう』と『またか』はNGである」であった。それは冒頭のコントに象徴されていた。ドラマの形を借りた(パロディではないのであえてこう呼ぶ)『笑わせNight Doctor』。粗品が出す無茶な設定にメンバーが笑いで答える。まあ、コントではなく大喜利である。最初の質問は「世界最強のウォシュレット。おしりに当たるとどんな声が出る?」答えるのはチョコレート・プラネットの松尾。

さて、ここまでの設定を知って、筆者は何が楽しみだったか。もちろん松尾の答えである。だが、答えは凡庸なもので、粗品が笑えないと判定したので松尾は床が開いて地下に落下した。この落下を見て筆者は冒頭の感想「笑いの番組で『ふつう』と『またか』はNGである」が、すぐさま頭に浮かんだのである。

落下は、『またか』である。とんねるずの番組で大変印象的に使われていた。オチないときのオチ代わりとして機能させていたのがこの切れのいい落下であった。これをまたやるのは感心しない。『またか』の同義語は「もう一度」「同じく」「やはり」「Again?」だ。笑いの番組はいつも、この落下に当たるものとしてなにか違うものはないかと必死に考えてきた。ゴングが鳴る。新しいオチ音を考える。上から金ダライが落ちる。ビリビリと電気で痺れさす。新しい落下を考えることを放棄して「Again?」をやるのは、やはり情けない。

公式HPには「定番コント」と表記されているが、企画は出演者自体なのだから、定番コーナーづくりは始まったばかりのレギュラー番組としては早すぎる。色々違うことを試さないと先が見えてくる。ハナコの秋山も挑戦した。粗品『注射を嫌がる子供が絶対泣き止むキラーワードは?』秋山、落下。だが、秋山はここで落下した床の下がものすごく深いことを表現するために「わあー」と落ちていく声が長く小さくなって行く芝居をした。偉い。これがコメディアンだ。受けるまで止めないのがコメディアンだ。

[参考]ガラパゴス化した日本のコントは世界から消えるのか?

すこし、昔の話をする。

浅草のストリップ劇場の幕間でもこういう大喜利形式のコントは、安直なのでよくやられていた。たとえば、6人のコメディアンが並び、進行役のリーダーがネタを振る。「はい。元気なおばあちゃんをやって」。並び順は、最初が古株、キャリア順に並んで、6番目は新人である。みんな芝居をする。3番めに並んでいるのは定番のギャグを持っている人気のコメディアンである。客はお約束の定番ギャグを待っている。これさえやれば受けてくれる。だが、「ふつう」には絶対やらない。4番目の人と相談して順番を代わってもらう。するとその定番ギャグを先にやられてしまう。しょうがないので繰り返し定番ギャグをやる。受けない。「ほら、受けない」と言って笑いを取る。最もしんどいのは6番目の新人だ。色んなパターンをやられてしまって、どうしていいかわからない。しょうがないので、激しく飛び跳ねた。それなりに受けた。

舞台を降りてから、新人はリーダーに呼ばれて、しこたま叱られた。

「飛び跳ねて歩く婆さんがどこにいるんだ? 2階の窓からずっと通りを見てろ。飛び跳ねて歩く婆さんを見つけたら報告しろ」と言ったまま、リーダーは飲みに行ってしまった。新人は意地になって2時間、通りを見続けたが、飛び跳ねて歩く婆さんはいなかった。

リーダーは何を教えたかったのか? 虚実皮膜か? それもあるかもしれないが、教えたかったのは舞台(板)に乗っているコメディアンのチームワークだ。お前ひとりで受けようとするのは最低だ。新人はそれで考えた。俺は新人で6番目だ。だから俺がやらなければいけないのは前の人がなにをやっても対応できるように、7種類の受け方を考えることだ。

7種類の受けができるようになった頃、新人は誰ひとり知らぬ者のないコメディアンになった。

『新しいカギ』には、チョコレートプラネット(長田庄平、松尾駿)、霜降り明星(せいや、粗品)、ハナコ(菊田竜大、秋山寛貴、岡部大)といった、実力のある人が揃った。何かが生まれるチームだ、と筆者は思っている。

だから、やめなければいけないのはジャやニーズや坂道を使って「ふつう」をやることだ。アイドルが出演しただけでなんとかなると思う発想はやめることだ。今のうちは、その力に頼らないで、レギュラーのチームワークでやってみることが必要だと思う。

期待している番組だけあって優れた設定で優れた芝居のコントもあった。

『セールスマン売岡』。拉致監禁されて縛られている菊田(ハナコ)が、通りかかったセールスマン売岡(粗品)になんとか縄をほどいてもらおうとする。だが、売岡には縄を解く前に買ってほしいものがあった…気持ちが芝居で表現できる良い設定です。売りたい具体物を出す前にもっと長くもできるし・・・。ただ、編集のカット尻はもっと前でいいなあ。

ところで、「ふつう」の対義語は 「異常」「特別」「奇抜」であるが、これは企画においてそうであってほしいということで、コントの中で演じるときは、「異常」「特別」「奇抜」であっても、あくまでも「ふつう」の変形に見える芝居をしたほうが良いと付記しておく。

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