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『サマーウォーズ』から12年、細田守監督が『竜とそばかすの姫』でもネットを肯定する理由 「若い人に“世界を変えてくれ”とお願いしたい」

 先月から公開されている、映画『竜とそばかすの姫』。カンヌ国際映画祭でも上映され、話題を呼んでいる。

 主人公は、高知の田舎に住む17歳の女子高生・内藤鈴。幼いころに母を事故で亡くし、その死をきっかけに大好きだった歌を歌うことができなくなる。そんな鈴が出会ったのが、50億人以上が集うインターネット上の仮想世界「U」。

【映像】細田監督作品『竜とそばかすの姫』 一部映像

 「As」と呼ばれる自分の分身が作れる「U」で、鈴は歌姫「ベル」として華々しいステージに立ち、美しい歌声で世界中の人々を魅了する。そんな彼女の前に突如現れた「竜」と呼ばれる謎の存在。仮想世界上で対照的な「ベル」と「竜」が心を通わせるさまが描かれている。

 作品を手掛けたのは、アニメーション監督の細田守さん。『ABEMAヒルズ』では、キャスターを務める柴田阿弥が話を聞いた。

 今作の発想の原点について、細田監督は「インターネット世界の『美女と野獣』だと思っていて。現代の『インターネット』というものと18世紀のフランスの『美女と野獣』って一見、全然かけ離れている。野獣というくらいだから暴力的な、攻撃的な人だけど、その気持ちの奥には非常にやさしい心を持っている。その二面性が、インターネットと美女と野獣は共通している。人間の様々な多面性を描くのに、この2つを組み合わせるとすごく面白いものになるな、とひらめいたのがきっかけだ」と話す。

 「美女と野獣」と現代の「ネット社会」に共通する“二面性”を表現した今作品。その舞台となったのが、50億人以上が集う仮想世界「U」。仮想世界を舞台にした細田監督の代表作といえば、2009年に公開された映画『サマーウォーズ』だ。これも「OZ」と呼ばれる仮想世界が舞台の作品となっている。

 なぜ、細田監督は再び舞台として仮想世界を選んだのか。「サマーウォーズを作っている時と、今のインターネットの世界は全然違うなと思っている。そのくらい現実とインターネットの世界が近づいてきたなということがあって。今インターネットの世界って何を印象するかというと、みんな『誹謗中傷』みたいなことが最初に思い浮かぶ。そのくらい近くなっているという証拠なのだろうが、この映画を通して世界中の人がみんな同じ問題意識を、インターネットを通して、便利なところもあればこれからどういうふうに改善していこうかということも含めて、共通の問題意識を世界中の人が持っているという時代になったんだなという感じ」と語る。

 12年が経ち、多くの人の手には今、スマートフォンが握られている。

 「インターネットの接続システムがあって、それだけでも当時は世界が広がったなと感じた。そこから12年経って、みんながスマホを持つようになってできることが広がったという中で、同時にSNSが登場した。誰とでも繋がれる自由というのを手に入れた半面、若い人なんかそれによって孤独を感じたり、自己肯定感を削られてしまったりなんていう、良い面悪い面両方あるような時代になったんだなっていうのが感慨深い」

 この話に柴田が「ネットって悪い側面も多く言われるんですけど、気軽にいろんな人とつながれるっていういい点もありますよね」と返すと、まさにその点を考えて作ったのだという。

 「いい点ってつい忘れがちになる。この映画の中でもそうだが、まったく知らない誰かと気持ちを通い合わすことができるようになったりとか、世界中の人との言葉を越えた連帯みたいなものを作り出すことができたりとか、こういうのはインターネット抜きには語れない」

 作品中では、ベルの活躍に嫉妬や誹謗中傷があふれたり、ネットを取り締まる自警団が登場するなど、現実のネット社会で起きていることを投影するような描写もある。一方で、インターネットや仮想世界の肯定的な側面を描き続けるのは、ある願いがあるからだという。

 「若い人が見るものだったら、もっと自分たちのツールとしてこれから使いこなしていく、年上の人たちじゃなくて自分たちはもっとネットを通じていい世界を作っていくぞ、みたいな希望を持って接してほしい。そういう意味でも、どこか応援するような作品があっていいと思う。インターネットを肯定的に描くということは、取りも直さず若い人を応援したいっていう、その可能性を信じて世界を変えてくれというふうにお願いしたいということだと思う」

 仮想世界「U」を舞台にする上で、注目の最新技術も登場する。劇中では仮想世界により現実味を持たせるため、「ボディシェアリング」という技術が使われている。その研究をしているのが、琉球大学教授で最新の工学研究をする玉城絵美氏。

 玉城氏が研究するボディシェアリングとは、自分と同じ動きをロボットにさせたり、バーチャル上で連動させる最新技術だ。『竜とそばかすの姫』でも、ユーザーの生体情報のスキャンや、仮想世界での経験を現実と同じように感じ取ることができるよう、この技術が取り入れられている。

 細田監督はボディシェアリングに目を付けた理由について、「今だとゴーグルをつけて、VRみたいな形で仮想世界に入っていくというのが普通だと思うが、これからはゴーグルなしで、ちょっとしたデバイスだけで入っていけるようになるだろう。そういうふうなことも含めて、ボディシェアリング。この映画だと、仮想の『As』っていうキャラクターと自分自身が体をシェアするということ。

考えてみたら、『セーラームーン』だって、『仮面ライダー』だって一種のボディシェアリングだ。一種の“変身する”ということを科学的に、バーチャルな世界で変身が可能になるということ。僕らが仮想世界の中でSF的に考えているようなことを、玉城さんが現実的に研究されていて、『ここに真実がある』というふうに、研究室を訪ねて見せていただいてびっくりした覚えがある」と話す。

 他にも5G技術など、さまざまな研究者からアドバイスをもらったという細田監督。『竜とそばかすの姫』は、まさに最新技術が詰まった“未来予想”となるのか。

 「『竜とそばかすの姫』を作り出したのが3年前から。その時にシナリオを書いていたが、その後コロナ禍がやってきて。それまで未来のことを書いていたつもりが、コロナ禍によってインターネットで、例えばZoomを使って会話をするみたいなものすごい普通になってきて、すごくこの映画の世界のリアルタイム感が増したなと思う。そのくらい世の中の変化は激しくて、フィクションだと思っていることも、いつ実現化されてそれが普通になるかわからない。そういうようなとても現実的な話だと思う」

 最後に、作品を作る上で「常に大事にしていること」を細田監督に聞いた。

 「僕は最初にアニメーションを作り出した時、子どもに向けたアニメを作る会社、東映動画というところに入った。東映アニメーションって今はいう。そこからなので、ずっと子どもや若い人が見るものと思っているので、どういうふうに描いても、最終的には“子どもたちや若い人が気持ちよく映画を通して世界を楽しめるか”ということをいつも考えている」

 また、この日の『ABEMAヒルズ』にはコメンテーターとして玉城氏が出演しており、細田監督からオファーを受けたことについて、「とてもうれしいのももちろんだが、今まで『サマーウォーズ』だったりいろいろな作品で、テクノロジーの未来を指し示すだけではなくて、テクノロジーがあった中で社会的にどんな影響が出てくるかとか、使ってるユーザーがどう感じるか、どういううれしさがあるのかといったところまで表現されていらっしゃる。

将来的に、我々がどういう生活になっていくんだろうと、ディスカッションして未来を作っていけるんだなということで、本当にうれしかった」と語っていた。
(『ABEMAヒルズ』より)

映像:コロナ禍で変化? Z世代の“ヲタ活”

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