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「死」は恐ろしいものではなく別の世界へ移行するプロセス -「賢人論。」第144回(中編)内藤いづみ氏

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みんなの介護

「死」と聞くと、どのようなイメージが心に浮かぶだろう。「怖い」「苦しい」「すべての終わり」という返答をする人が大半ではないだろうか。しかし、在宅ホスピス医として、多くの患者さんの死のプロセスを看取ってきた内藤いづみ氏は、「死とは、恐ろしいものではない」という。その理由と後悔を残さない生き方のヒントについて、内藤氏にお聞きした。

取材・文/みんなの介護 撮影/中西裕人

人生の着地点をより良く迎えるために「生」を支える

みんなの介護 先生の本や講演の中で説明される「死」は、いのちの時間や出会いの大切さを教えてくれるもので、世間の多くの人が描いている恐ろしいイメージとは異なる印象を受けました。多くの患者さんの最期に立ち会ってこられた先生は、「死」とはどのようなものだと受け止めていますか?

内藤 「死」とは人生の「一つの区切り」だと思います。その人にとっての「命の答え」であり「着地点」。そして、ある意味では向こうの世界に離陸する場所でもあります。最期を迎えて「やり残したことがあるな」という思いを抱える人もいます。それを私たちが支える中で、いい塩梅で終われるのが理想です。

また、死は永遠の別れかというと、そうは思いません。死んだあとも続く何かがあります。それはただ「永遠の命」という宗教的な意味ではありません。家族や社会などでは、亡くなった後もその方の存在の理由が続くわけです。私はホスピスケアを通して、多くの患者さんを看取りながら、そのことを学べたと思います。

もし時間という側面で、死にゆく人に十分に関われなかったとしても、深さでかかわることが大切です。ですので、私は自分が診ている患者さんが最期を迎えられるとき、必要なら夜中でも、何度でも往診することがあります。それによって、その人の死と家族を支えられるかというと、非常に難しいところではあります。しかし、どうにか着地点を見つけるために、自分の時間や能力を最大限に使うんです。

死にゆくプロセスに寄り添ってきた私にとって、死は恐ろしいものではなく、「移行」と捉えています。ホラー映画も見られない怖がりの私ですが、そのような怖さとは違うものが死にはあると感じています。

痛みの緩和は、限りある時間に願いを果たすため

内藤 がんの人の場合は、まず痛みを緩和することが大切になってきます。しかし、今の在宅緩和ケアにとっては、痛みを取ることが最終目的になっているような印象を受けるのです。そうではなく、痛みを緩和するのはなぜかということを、もっとみんなに気づいてもらいたいです。

痛みを緩和するのは、その人がもう一度その人の地平を取り戻し、たとえ短い時間であっても自分の命に向かい合って、その中で願いを果たすための状況の整備なのです。

みんなの介護 急な命の危機に瀕することがあっても、人生の最期に後悔を残さないために、普段からどのような準備をしておくことが必要ですか?

内藤 終活です。最近は、100円ショップで終活のためのノートが発売されるようになるぐらい浸透してきました。しかし、現在広まっている終活は、事務的なことや法律的なことばかりに焦点が当たってしまい、本当の意味での準備はあまりできていないように思います。終活においては、自分の人生は何だったのかと、命の哲学のようなところに踏み込むことが大切です。

私も、難聴で認知症だった末期がんの患者さんが残した「いい塩梅でお願いします」という言葉から取った「いい塩梅ノート」というものをつくっています。そしてその後も、これまでの講演で出会った仲間が、各地元において、自分たちの文化で「いい塩梅ノート」を進化させつつあります。今後、さらに多くの人がいのちの時間を愛おしむことができるものにしていければと考えております。

ただ、今回の新型コロナによる「試練」を受けて、皆さん改めて「命」や「生と死」、さらに「なぜこんな状態になったのか」ということを考えました。しかし、まがいものと大切なものを見分けて、「きらびやかではないけどこれで大丈夫」と達観した人も多いように思います。ですので、そこで考えたことを、私たちは大事に思って生きていきたいなと思います。

1日を人生に置き換えたときに何をやり残したのか、何を改善すればいいのかということを毎日考えてもらいたい。それが、新型コロナによって私たちに与えられた一つの課題だと思います。そして、新型コロナによる影響が改善して、私たちの地平を取り戻したときに、たくさんの犠牲を払ってせっかく学んだことを絶対捨てないで、というのが私の願いです。

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