記事

【「謝れ!償え!かえせふるさと飯舘村」損害賠償請求訴訟】「村を放射能で汚された悔しさ計り知れぬ」 原告代表が意見陳述~東京地裁で第1回口頭弁論

福島県相馬郡飯舘村の村民29人が、国と東電に原発事故での「ふるさと喪失」と「初期被曝」の慰謝料として1人715万円の支払いを求めた損害賠償請求訴訟。第1回口頭弁論が4日午前、東京地裁103号法廷(野口宣大裁判長)で行われた。

原告を代表し、菅野哲さん(73)が意見陳述。原発事故前ののどかな村の風景をスクリーンに示しながら「飯舘村という大地を放射能によって長期的に汚染されてしまった悔しさは計り知れません」などと述べた。国や東電は全面的に争う構えで、請求の棄却を求める答弁書を提出した。次回期日は12月22日。



【被曝強いられた1カ月間】

 生まれ育った村は平和だった。孫との楽しい時間があった。生き甲斐があった。笑顔があった。

 長閑な田園風景が広がり、子どもたちはあぜ道を歩いて登校した。牛がのんびりと歩いていた。

 あの日、放射性物質が降り注ぐまでは。

 「何代にもわたって村民が自らの手でつくり上げてきた平和な美しかった飯舘村は、原発事故による放射能汚染によって一瞬にして失われ、村民は散り散りバラバラになってしまいました」

 法廷に立った菅野さんは、10年間の悔しさや無念さ、怒りをぶつけるように想いを語った。発災当時、62歳だった菅野さんは73歳になった。「この10年間という時間は、私の人生ではどう捉えたら良いのか、思いもつきません」。

 飯舘村が「計画的避難区域」に指定されたのが2011年4月22日。事故発生から実に1カ月以上が経過していた。同年3月15日には、いちばん館前に設置されたモニタリングポストが毎時44・7マイクロシーベルトに上がったが、ほとんどの村民には知らされなかった。その後も連日のように毎jに20マイクロシーベルトを超えたが、福島県庁は「健康に影響を与える数値ではない」と静観。19日には、村民が栃木県鹿沼市へバスで〝集団自主避難〟を始めた。

 牛乳からは1キログラムあたり5200ベクレルの放射性物質が、村の簡易水道からも1キログラムあたり965ベクレルが検出された。「テレビでは、当時の枝野幸男官房長官が『ただちに健康には影響ありません』と言って高濃度の放射線量下に村民を留めた」、「結果的に、村民はどこの市町村よりも高い放射線被曝をこうむる結果となりました」(菅野さん)。

第1回口頭弁論で、原告を代表して意見陳述した菅野哲さん。原発事故前の風景を示しながら「何代にもわたって村民が自らの手でつくり上げてきた平和な美しかった飯舘村は、原発事故による放射能汚染によって一瞬にして失われた」と語った

【「これが原発事故の現実」】

 法廷は少し暗くなった。スクリーンにスライドが映し出される。原発事故前の村の風景を菅野さんが〝解説〟した。

 祭りの様子や炭焼き小屋だけでなく、孫たちが雪遊びをしている写真や夏祭りで盆踊りや花火を孫と一緒に楽しんでいる写真も披露された。

 原発事故で村の風景は一変。水田には、黒いフレコンバッグが山積みされた。山も川も汚された。孫が遊びに来ることもなくなった。野口裁判長たちも、スライドの方に身体を向けて見入った。

 「村の80%は除染されておりません。山菜やキノコも、あと何百年と食べることも出来ないということです。原発事故が起こればこうなるのだという現実を日本国民には知って欲しい。原発事故が、いかに私たち飯舘村民にうとって悲惨な事故であったかを理解して欲しいと願います」

 菅野さんは言う。

 「私たちは、飯舘村という大地に根を張った飯舘村民なのです。それを放射能によって長期的に汚染されてしまった悔しさは計り知れません。どうか理解してください。私たちは日に日に老いていきますので、早期解決を期待しております」

 法廷が再び明るくなった。菅野さんは原告席に戻った。

 閉廷後の報告集会で「想いはたくさんあります。1時間や2時間で語り尽くせるものではありません」と振り返った菅野さん。「3月に提訴して、今日ようやく第1回口頭弁論となりました。これから何年かかるのか…。法廷でも言いましたが年齢は増えていきますので、早い解決を望んでやみません」。

 原告の1人である伊藤延由さんは「一瞬にして奪われるのが原発事故。『あんた運が悪かったんだよ、あきらめな』では終わらせたくない」と決意を語った。

訴状に掲載されている震災・原発事故発生直後の村の動き。政府の避難指示が出されるまでの1カ月間、村民は高濃度汚染による被曝を強いられた

【背景に東電の和解拒否】

 提訴日は今年3月5日。2011年3月の原発事故発生当時に飯舘村(居住制限区域)で暮らしていた12世帯29人(提訴時点での年齢は12歳から89歳)が原告となった。原告のうち2人が現在は村に戻って生活しているが、他の27人は福島県内の避難先で暮らしている。

 被告は国と東電。国と東電に「初期被ばく慰謝料」275万円、東電に「ふるさと喪失慰謝料」440万円の支払いを求めており、弁護士費用を含めて計1人715万円の支払いを請求している。

 この訴訟の背景には、東電による和解案拒否がある。

 飯舘村では2014年11月14日、737世帯、2837人が原子力損害賠償紛争解決センターにADR(裁判外紛争解決手続き)を申し立てた。

 ①飯舘村民に甚大な被害を与えたことに対する法的責任を認め、申立人ら及び飯舘村民に対して心から謝罪すること②無用な初期被ばくによって健康不安など精神的苦痛を与えた慰謝料として1人300万円を支払うこと─などを求めたが、東電はセンターの和解案を一貫して拒否。2020年5月にADR手続きが打ち切られている。

 提訴後の記者会見で、弁護団副代表の中川素充弁護士は「2017年12月に示された和解案は、原発事故発生から約4カ月間で概ね10mSv被曝した村民に限定し、慰謝料額もわずか15万円(長泥地区住民は50万円)と極めて不十分だった。しかし、東電はこれすら受諾せず、ADRセンターの受諾勧告にも応じなかった。初期被曝など当時の対応のまずさについて、裁判で責任を問うべきだという声があがった」と経緯を説明した。

 国も東電も全面的に争う構え。東電は7月14日付の答弁書で「既払い金を超える損害賠償責任があるとは考えていない」などと主張している。

 次回弁論期日は12月22日午前10時半。第3回は2022年3月23日が予定されている。

(了)

あわせて読みたい

「福島第一原発事故」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    混雑する観光地、お休み中の飲食店…「国民の祝日」が多すぎることのデメリットを痛感

    内藤忍

    09月21日 11:56

  2. 2

    横浜市長就任後も疑惑について説明しない山中竹春氏 ウソと恫喝の追及は続く

    郷原信郎

    09月22日 10:56

  3. 3

    サンドウィッチマン、かまいたち、千鳥…Googleで検索されている芸人ランキング

    放送作家の徹夜は2日まで

    09月22日 10:48

  4. 4

    賃上げ・労働分配率向上策は、河野氏の法人税減税よりも高市氏の人材育成投資が有効

    赤池 まさあき

    09月22日 09:04

  5. 5

    引きずり下ろされた菅首相の逆襲が始まる「河野内閣」で官房長官で復活説も

    NEWSポストセブン

    09月21日 08:42

  6. 6

    順当トップ交代人事では払拭できぬ三菱電機の"悪玉"企業風土とは

    大関暁夫

    09月21日 12:37

  7. 7

    「政高党低は悪?」 報ステは自民党批判ありきではないか?

    和田政宗

    09月21日 22:55

  8. 8

    アメリカの輸入規制撤廃に福島から喜びの声 「菅首相の置き土産?」指摘も

    BLOGOS編集部

    09月22日 16:26

  9. 9

    民主党の辞書に反省の文字はない

    非国民通信

    09月21日 20:34

  10. 10

    ワクチンパスポートの目的は差別じゃない~区別と差別を明確に切り分ける重要性~

    山崎 毅(食の安全と安心)

    09月22日 08:19

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。