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官僚に数字合わせ強いる46%目標の愚

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Yokohama, Japan - October 6, 2011: Thermal power plants in Isogo ward of 出典:Jiangang Wang/GettyImages

有馬純(東京大学公共政策大学院教授)

【まとめ】

・46%目標は「数合わせ」、インパクトは鳩山目標の比ではない。

・電力コスト増大のツケは産業、家庭に。国産原子力技術は先細りに。

・火力、原子力市場で中国の存在感増す。

■ 46%目標先にありきの数字合わせ

7月21日、経産省は検討中の第6次エネルギー基本計画の素案を提示した。

これを受けて新聞各社は一斉に社説で基本計画素案への論評を行った。

「エネ戦略を数字合わせで終わらせるな」(日経)

「 エネルギー計画 「数字合わせ」で終わらせるな」(読売)

「30年電源構成 原発維持は理解できぬ」(朝日)

「エネルギー計画案 安定供給果たせるのか 原発の新増設から逃げるな(産経)

興味深いのは読売と日経が期せずして「数字合わせ」という表現を使っていることだ。この点について筆者も全く同じ印象を持った。もっとも第6次エネルギー基本計画案が数字合わせを強いられることは十分予想されることではあった。エネルギーミックスの裏付けを持たない46%目標が先に決定されてしまったからである。

筆者は46%目標に対しては極めて批判的であり、その論拠については拙稿「日本の削減目標引き上げ:失敗の歴史を繰り返すのか」で論じているのでご参照ありたい。

■トップダウンとボトムアップが交互に現れる温暖化目標

思い起こせば日本の温暖化目標は実現性を重視したボトムアップの目標と、数字の見栄えのみを考慮したトップダウンの目標とが交互に現れるものであった。

京都議定書の際は日本の削減ポテンシャルを大幅に上回る90年比6%目標を米国のゴア副大統領(当時)に押し付けられ、帳尻を合わせるために1兆円もの海外クレジット購入と国富の流出を招いた。この苦い経験を踏まえ、2009年6月の麻生目標のときは日本の削減ポテンシャルや諸外国との削減コスト比較を綿密に行い、2020年までに2005年比15%減(90年比8%減)との目標を打ち出した。

しかし2009年9月、鳩山内閣はこうしたプロセスを一切経ることなく、2020年に90年比25%減との目標を対外公約した。このため第3次エネルギー基本計画では「数字合わせ」のために原発比率を50%に引き上げるとの無理筋のエネルギーミックスを作らざるを得なかった。

その意味で、自民党政権の下で策定された第4次エネルギー基本計画は「自給率の震災前レベルへの回復」、「電力コストの引き下げ」、「諸外国に遜色ない目標」という3つの要請をバランスさせるエネルギーミックスを作り、それに基づいて26%目標を設定するというアプローチをとっていた。

もとよりこの3つの要請を同時達成することは容易なことではなく、数字合わせの側面が大なり小なりあることは否めない。それでもエネルギーミックスの裏付けなしにトップダウンで数字を決めた鳩山目標の愚かしさに比べれば比べようもないほど真っ当なものであった。

今回の46%目標は目標年限があと9年しかないにもかかわらず、しかも現行26%目標の達成度が道半ばであるにもかかわらず、フィージビリティやコストを考慮することなく20ポイントも上乗せするものである。

そのマグニチュードは鳩山目標の比ではない。菅総理が46%目標を国際公約した時点で、検討中の第6次エネルギー基本計画が「数字合わせ」を強いられることは自明であった。筆者は「数字合わせ」を強いられた経産省の後輩たちに同情を禁じ得ない。数字合わせを批判されるべきは官僚よりも官僚にそのような作業を強いた政治家たちである。

▲写真 2030年度に向け温室効果ガス「13年度比46%減」目標を打ち出した菅首相。 出典:Yuichi Yamazaki/Getty Images

■ エネルギーミックスの問題点

今回のエネルギー基本計画では福島原発事故のトラウマにより、鳩山目標のときのように原発のシェアを拡大させることができない。そもそもあと9年で新増設などできるはずもなく、既存原発の再稼働により発電電力量に占める比率を20-22%に維持するのがせいぜいである。

そうした中で46%を実現しようとすれば、省エネを目一杯積み上げ、再エネを目一杯積み上げ、化石燃料のシェアの引き下げしか方法がない。蓋をあければ案の定、そのようなものになった。省エネを大幅に強化した結果、昨年12月のグリーン成長戦略では脱炭素化に向けて電化が進み、電力需要が30-50%拡大するとされているにもかかわらず、2030年にかけて電力需要はほとんど伸びない。

発電電力量に占める再エネのシェアは22-24%から36-38%に引き上げられ、石炭火力のシェアは26%から19%に、ガス火力のシェアは27%から20%に引き下げられた。

総合エネ調基本政策小委員会委員の橘川武郎国際大学副学長は今回のエネルギーミックスにつき、「ミスリーディングな数字が多い」と批判的であり、30日の日経新聞記事『電源構成、帳尻合わせ避けよ』の中で

①高く設定された再生可能エネルギー比率の実現性に疑問がある

②原子力20-22%実現の見通しが立っていない

③火力発電の比率が過度に抑制された結果、天然ガス投資・調達への悪影響を含め、エネルギー安定供給や電力コスト削減に懸念がある

等の問題点を指摘している。

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