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これからますます求められるのは「命の開放」をする在宅緩和ケア -「賢人論。」第144回(前編)内藤いづみ氏

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山梨県在住の在宅ホスピス医である内藤いづみ氏は、1986年から英国プリンス・オブ・ウェールズ・ホスピスに留学してホスピスで研修を受け、亡くなる数日前まで家族と幸せに過ごす末期がんの患者さんの様子に衝撃を受ける。そして、日本において在宅緩和ケアの浸透を実現するため、1995年にふじ内科クリニックを開業し、全国で講演活動を行ってきた。また、新聞やテレビ番組などでもたびたび活動の様子が紹介されている。コロナ禍にあって、在宅での看取りに向かう動きがますます加速する中、一人ひとりが納得できる最期を迎えるために何が大切なのか、内藤氏にお話を伺った。

取材・文/みんなの介護 撮影/中西裕人

緩和ケア病棟は増えたが「命を開放する」ところまでは至っていない

みんなの介護 日本での、在宅緩和ケアの現状をどのように感じていますか?

内藤 私がイギリスから日本に帰ってきて在宅緩和ケアを始めた頃は、緩和ケア病棟も非常に少なかったですし、在宅緩和ケアやホスピスという言葉も浸透していませんでした。しかし今は、医療の一部分としてがんの緩和医療が必要だと考えられるようになりました。そしてがんの治療をする病院は、緩和ケア病棟が付属するところが増えました。患者さんにとって大きな救いになると思いますが、まだまだ発展途上だと感じることもあります。

みんなの介護 在宅緩和ケアを始めたきっかけは何だったのですか?

内藤 私は、権威ある病院で研修を受けて、たくさんのスタンダードながん治療をしている方々を見てきました。そして、「もし自分が患者だったら、病院に閉じ込められたり、そこで命を終えるのは嫌だな」と思ったところから、現在の活動に続く取り組みが始まりました。

イギリスに行ったとき、ボランティアや専門家が、がん末期の患者さんの環境を整えるために、痛みを緩和したり恐怖を取り除いたりしていました。そうすることで、その人が最期にいたい場所で過ごせるのを見て、目が開かれる思いでした。それは医療というよりは、文化的な発見だったのです。

ですので、「環境が整うことで病院から解放されるホスピスムーブメントは、命を解放するすごい文化・社会活動だ」と感じました。そして、その活動がしたいがために起業して、一人で細々と、この活動を続けてきたわけです。

国が方針として力を入れることで、緩和ケアや在宅ケアを一つの医療システムとして理解する若手のお医者さんが増えました。家で診られる状態が整ってきたのは良いことだと思います。

しかし、「これをしないと診療報酬がもらえない」というように動いていくと、私が実現を願ってきた「命の解放をするホスピスムーブメント」とはまったく質の違う発展の仕方になってしまうと思います。なぜなら、そのようなシステムがなくても、患者さんのために在宅緩和ケアをやりたいと思うかどうかが大切だからです。

みんなの介護 なるほど。では、現状をどのように評価されていますか?

内藤 診療報酬もつかなかった時代に始めた身としては、皆さんすごく安全な路線でやっていらっしゃるように見えます。今後、在宅ケアではなく別の方法が大事だということがわかったら、皆さんはそれに取り込みますかということを若い医者たちには問うてあげたいです。モチベーションが大切なのです。

実践が難しい分野だからかもしれませんが、医師の皆さんは権威的というか、一匹狼みたいなことをする方があまりいません。今が過渡期で、この先本当の命の看取りというものに到達するために、私はまだしばらく口をつぐめないぞと思います。

環境を整えてもらえるなら最期まで家にいたいという人は多いので、ホスピスムーブメントは、患者さんの願いを実現するためのひとつの戦いです。

まずみんなが驚いたのは、がんの痛みは緩和できることだった

内藤 講演活動を始めた頃、一番反応してくださったのが看護師さんたちです。専門看護師さんも出てこない時代に、心ある人たちは「終末期をこんなふうに病院で送っていいのか」と、心を痛めながら支えていました。

そのようなとき、まず皆さんが驚いたのは、がんの痛みは安全に緩和できるということでした。30~40年前、特に日本ではがんの人は大多数が「死んだ方がいい」と考えるくらいの痛みに苦しんでいました。そして最後にモルヒネを静脈注射などの推薦できない方法で投与されて、副作用に苦悩しながら亡くなっていくのでした。

それを見ていた看護師さんたちは、「自分の親だったら嫌だ」と内心では思っていました。その人たちが私の話を聞いて、「先生、これもっと知らせましょうよ」といって、私の最初の仲間になってくれたのです。

もし私が師匠だったら、制度がなくなっても続けるかどうかの覚悟を、弟子には求めます。自分に返ってくるものも目に見えませんので、取り組んだからといって、大きな大学の教授になれるかというと、そうでもありません。何が残るかと言われると、自分の道を歩んだという満足感です。

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