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森林大国ニッポンが木材不足のナゾ ウッドショックは林業と住宅メーカーに変革をもたらすか


2021年3月以降、木材価格の高騰が続いている。1970年代に起きたオイルショックになぞらえ、ウッドショックと言われているが、様相はかなり異なる。アメリカでは5月初旬をピークに製材価格の急速な値下がりが伝えられているが、それでもコロナ以前に比べればまだまだ高値。木材自給率37.8%(2019年)と外材に頼ってきた日本への影響は大きく、多少下がったとしても不安要素は多数。これからどうなるのか。木材市場のみならず、住宅、省エネ等にも詳しい日経BP総合研究所上席研究員の小原隆氏に聞いた。

アメリカの住宅ブームが引き金

林野庁木材貿易対策室「木材輸入の状況について」

まず、ウッドショックについて簡単に説明しておこう。引き金となったのはアメリカでの住宅ブームである。コロナ禍によるテレワークの増加に加え、コロナ禍対策として住宅ローンの低金利政策が取られた結果、2020年6月頃から郊外を中心に住宅着工が急増。それに伴って北米の製材価格が2020年夏から急上昇した。その後、一時下落したものの年末から再び上昇に転じ、2021年5月まで上がり続けたのである。

コロナ禍を早期に抑え込んだ中国でも同様のことが起きており、さらにコロナ禍に伴う港湾処理能力の低下等によりアジアでコンテナが不足、海上輸送運賃が急激に値上がりした。それ以外にも伐採現場その他での人手不足などもあって、価格が下がったとはいえ高止まりというのが現在の状況である。

林野庁木材貿易対策室「木材輸入の状況について」

これを受けて6月に積水ハウス、大和ハウスなど国内住宅メーカー大手が木造住宅価格を相次いで値上げしたのはご存じの通り。

では、今後はどうなるのか。

「木材が買えない」という根本的な問題


「コンテナ問題、人手不足などはいずれ元に戻るでしょう。しかしながら日本が以前と同じように木材を買える状況にはすぐに戻らないと考えます」と小原氏。その理由は日本の木材需要、成長力にある。

小原氏によると、コロナ禍で住宅着工が落ち込み、木材がだぶついていた昨年は製材輸入量も少なかった。日本国内には積極的に買わなくても良いという雰囲気があり、それがアメリカ、中国で需要が急増した際に裏目に出たのだ。

元々、日本で必要とされる木材はグローバルスタンダードと異なり、特別な加工が必要で面倒。それに加えて、不要なら売れる国、たくさん買ってくれる国に売ろうというのが今回のウッドショック。日本は買い負けているのである。

過去の日本であれば「大量に買うから安くしてくれ」というやり方ができただろうが、人口が減り、住宅着工が増えるとは思えない今後、その手は取りにくくなる。世界の中での日本の存在感の弱小化が、木材が買えない状況に反映されていくのである。

森林大国ニッポン 国産材は潤沢にある

林野庁 森林資源の現況(平成29年3月31日現在)

海外から買えないなら日本の木材を使えば良いという声も聞く。日本は国土の68%が森林という森林大国で、日本の森林率は、OECD加盟国37か国中では3番目に高い。森林が減少・劣化が進む世界の中にあって、森林面積を維持し続けている希少な存在である。第二次世界大戦中や戦後に過剰に伐採されたものの、その後営々と植樹を続けてきた結果、現在では潤沢な森林資源を抱えるようになった。使う気になれば、使える木材はたっぷりある。


国も国産材の利用を推奨しており、日本の木材自給率は2002年の18.8%を底に少しずつ持ち直している。2010年の公共建築物等木材利用促進法以降、木造公共建築物の増加が目につくようになった。2014年、2018年の建築基準法の改正でも木材利用の規制は徐々に緩和されてきている。

日本の林業が抱える深い闇


だが、それだけでは国産材の利用は進まない。法整備は進んでも、利用を阻むものがある。そのひとつが林業そのものだ。

「長年つぎ込まれた補助金のおかげで命脈は保っているものの、産業化できておらず、せっかく育った木を存分に使えないのです」(小原氏)。

どの山にどれだけの樹齢の木があるかがデータ化されていないため、どこに切り頃になった木があるかが分からない上、伐採しようにも道がない。伐採後には製材所がないという問題も抱える。そもそも、森林の所有者と伐採以降に関わる事業者が別の場合、木材の価格が上がっても森林所有者は儲かりにくいなど構造的な問題も多々ある。アメリカ、カナダのように山林が集約され、先物市場まである国に比べるとレベルが違い過ぎるのだ。

安さ最優先で来た住宅事業者、消費者


もうひとつ、国産材の利用を阻んできたのは安さを追求、それを売り物にして拡大してきた住宅事業者とそれを良しとしてきた消費者である。

「今回、ウッドショックでダメージを受けているのは主に都市に拠点を構え、輸入材を中心に安さを武器にして数多く家を建ててきた事業者。逆に自前で山林を抱えている事業者、地域密着で年間10棟以下など限られた数を地元の材木を使って建ててきた工務店はそれほど困っていません。地方でもそうしたネットワークを持っていない事業者は困っているようですが」。

安さは正義とばかりに安さ合戦を繰り広げてきた結果、事業者は顔の見えない遠い海外の木材を買い叩き、ぎりぎりのコストでやってきていたが、今後はそうしたやり方は通用しにくくなるだろう。

「木材をヨーロッパから日本に運ぶには2カ月かかります。運送費が上がっていますし、ウッドマイレージが高くなり、環境負荷も大きくなる。脱炭素を真剣に考えなくてはいけないこれからの時代にはふさわしくないかもしれません」。

消費者も安さだけでは選べなくなってくるというわけである。

林業を成長産業化する動き


かつてのオイルショックは国内になく、海外から持って来るしかない品が不足した状態だった。今回のウッドショックは使えるものが国内にあるにもかかわらず、使えない状態なのだ。状況は明らかに違っており、使えるものがあるのなら道はあるはず。

そのひとつと考えられるのが2019年に施行された森林経営管理法に基づいてスタートした「森林経営管理制度」。前述した通り、日本では森林所有者と林業経営者が異なっていることが多く、しかも森林の所有形態は小規模・分散的である。そこで生じるミスマッチを解消、林業を成長産業化し、森林資源の適切な管理を図ろうというのが同法。

具体的には経営管理が行われていない森林について市町村が仲介役となって、森林所有者と担い手を繋ぐ仕組みを構築するという。これによって国産材の利用が促進されれば、外材の価格変化に一喜一憂しなくて済むことになるし、山林の適切な管理は土砂災害等の予防にも繋がる。

民間でも2020年8月に三井住友信託銀行が岡山県西粟倉村で森林信託を始めるなど森林資源を適切に管理しようという動きは始まっているが、現状はまだまだ非常に限定的だ。

脱炭素の動きが国産材利用に拍車!?


だが、幸いにしてそれを後押しする動きがある。脱炭素の流れだ。

「森林はCO2を吸収、木材の中に固定するとして木造建築を増やすことは脱炭素に向けてプラスの効果があるとされています。目ざとい人の中には林道のつけやすい山を買っているという噂もあるほどです」(小原氏)。

昨今、ESG(環境・社会・企業統治)を重視する運用大手や年金基金の中には化石燃料業界からの投資撤退が相次いでいるが、CO2削減に取り組む姿勢も同様の評価の対象となりつつある。そう考えると、今は十分に使われていない日本の木材が広く使われるようになっていくかもしれないのである。

いずれにしても事態は現在進行中であり、木材価格自体は高値のまま現状維持か、より高くなるか……。なんとか、値を元に戻そうと新たな買い叩き先を探す動きもあろうが、誰かを泣かすことで低価格を維持する仕組みにはそろそろ無理があるのではなかろうか。

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