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「幻の開会式プラン」を報じた週刊文春が五輪組織委の"圧力"に負けずに済んだワケ

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週刊文春が放つスクープは、時折「やりすぎではないか」と批判される。前週刊文春編集局長の新谷学さんは「炎上した時、絶対にやってはいけないことが3つある。これを守らなければ、どれほどスクープを出しても信頼を得られなかっただろう」という――。

※本稿は、新谷学『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』(光文社)の一部を再編集したものです。

インタビューに応じる前週刊文春編集局長、「文藝春秋」編集長の新谷学さん
撮影=門間新弥

「書いたことがすべてです」はもう通用しない

これまで新聞やテレビや週刊誌は取材プロセスを明らかにしてこなかった。

出した記事については基本的にコメントしない。問題を指摘されても「記事に書いたことがすべてです」「取材過程については従来よりお答えしておりません」という決まり文句で済ませてきた。メディアはそういう組織の論理を持っていたといえる。

だがそれでは済まなくなっている。インターネットでは、トラブルの対応を誤ると、批判や非難が殺到する「炎上」が起きるようになったからだ。炎上については第4章で詳しく述べるが、炎上した時に「記事に書いたことがすべてです」と木で鼻をくくったような対応では火に油を注ぐだけだ。

なぜこの記事を書いたのか、何を伝えたくてこの記事を書いたのかを、極力丁寧に伝えるべきなのだ。

たとえば、お笑いコンビEXITの兼近大樹さんがデビュー前に北海道で未成年売春を斡旋して逮捕されていたと報じた際(2019年)のことだ。兼近さんが所属する吉本興業は、猛烈な抗議とともに民事上・刑事上の法的措置を検討すると自社サイトで発表。芸能マスコミも週刊文春がプライバシー権を侵害しているという論調で批判し、インターネットを中心に激しい文春批判が起きた。

「現在の兼近さんを否定するものではない」と説明

そこで加藤編集長は、なぜ週刊文春はこの記事を書いたのかについて、文春オンライン上ですぐに説明した。

《……兼近さんという芸人を語る上で、逮捕の過去は、切り離せない事実です。また、テレビ番組に出演し、人気を集める芸人は、社会的に影響力が大きい存在です。記事をお読みいただければわかるように、週刊文春記事は逮捕の過去によって現在の兼近さんを否定するものではありません。兼近さんという芸人がいかに生まれたのかを、ご本人の言葉によって伝える記事であることは、読者の皆様にご理解いただけるものと思います》

彼は取材に対して「来てくれてありがとうございます。いつかはばれると思っていたし、ちゃんとお話ししなければいけないと思っていました」と語ったことも記事にはしっかり書いてあるのだが、炎上に便乗する人たちが元々の記事を読んでいるとは限らない。

炎上後、兼近さんは自身のSNSで「報道を受け入れる」「むしろ世に事実を伝えられたので多少の感謝もあります」「見出しだけで判断せず、買って内容を読んで見てください」というコメントを発表した。

こうして兼近さんもわれわれも説明責任を果たすことで、事態は収束した。

裁判で敗訴しても、社会的意義のあるスクープだった

女優の能年玲奈(現・のん)さんの記事〈国民的アイドル女優はなぜ消えたのか〉(2015年)では、彼女が所属していた芸能事務所の社長からパワハラを受けていたことを報じ、事務所から提訴された。能年さん本人の証言もあり、われわれは記事には十分に自信をもっていたが、最後は最高裁から上告を退けられた。

だがこの一連の裁判の過程で、大手芸能事務所とタレントとの不公平な力関係が社会的に問題視されるようになり、ついには公正取引委員会が指針を示すに至った。

そこでわれわれは判決が確定した時点で、週刊文春と文春オンライン上でスクープの内容から裁判での攻防、公正取引委員会の動きまでを詳しく報じた。

今でも社会的な意義のあるスクープだったと確信している。

※写真はイメージです
写真=iStock.com/microgen

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