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  • 2021年08月01日 11:25 (配信日時 08月01日 11:25)

秋吉 健のArcaic Singularity:仁義なき携帯電話料金戦争・第二幕!?菅総理による「さらに倍の負担減」発言の波紋とさらなる値下げの可能性を考える【コラム】



携帯電話料金のさらなる値下げについて考えてみた!

7月30日、武田良太総務大臣(武田総務大臣)がまたもや通信業界に小さくない波紋を投げかける発言を行い話題となっています。

発言とは、飛鳥新社刊行の雑誌「月刊Hanada2021年9月号」に掲載された菅義偉内閣総理大臣(菅総理)のインタビュー取材で、菅総理が携帯電話料金の値下げについて触れた際に「私はまだまだこんなものではなく、さらに倍の負担減が可能だと思っています。あくまでも道半ばです」と答えた件を受けてのものです。

通信業界としては菅総理の発言自体が衝撃的なものではありますが、武田総務大臣もまた記者会見の場で「過去に比べれば競争が活発化してきていると私も受け止めている。(中略)合理的な選択というものを実現するためには、今後とも校正な競争環境の整備に取り組んでいきたいと考えている」と述べ、菅総理の発言を否定しない姿勢を見せました(語弊のないよう、本文中にて全発言を掲載する)。

2020年末からの怒涛の通信料金値下げ合戦が一段落し、移動体通信事業者(MNO)のみならず、仮想移動体通信事業者(MVNO)もこの流れに対応してようやく料金プランが出揃い始めた矢先でのこの発言は、再び業界内に混乱と動揺を生む可能性があります。

果たして菅総理が言う「さらに倍の負担減」は可能なのでしょうか。またそれを実現した場合にデメリットはないのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は携帯電話料金のさらなる値下げの可能性と想定される今後の状況について考察します。

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携帯電話料金の値下げはまだまだ物足りない?



■菅総理と武田総務大臣との温度差

はじめに、時系列で情報を整理してみます。

冒頭で書いた通り、発端となったのは雑誌「月刊Hanada2021年9月号」に掲載された菅総理のインタビュー記事ですが、インタビューでは2020年以前の携帯電話料金について、大手MNOの寡占市場状態であったことを理由に「諸外国よりも高い料金となっていた」と述べた上で、「総理として国民に約束したことであり、すぐに実行しました」としています。

さらに携帯電話料金の国民負担額については、総務省が7月9日に開催した審議会「競争ルールの検証に関するWG(第22回)」にて、MNO各社がスタートさせた新料金プラン(ahamo、povo、LINEMOなど)によって年間約4300億円削減されたと発表した件を挙げ、「私はまだまだこんなものではなく、さらに倍の負担減が可能だと思っています。あくまでも道半ばです」という発言をしたとしています。

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菅総理のインタビュー記事が掲載された「月刊Hanada2021年9月号



武田総務大臣の発言は、総務省の記者会見の場でテレビ東京の記者がこの記事に関連した質問を行った際のものです。語弊がないよう、以下に質疑応答の全文を掲載します。

尚、記者会見の模様はYouTubeの総務省動画チャンネルからもご覧いただけます(動画の6分45秒あたりから)。



【2021.07.30】武田総務大臣 記者会見


動画リンク:https://youtu.be/cCHo7GgmqZk

テレビ東京

「テレビ東京のオオサワです。よろしくお願いします。携帯電話料金の引き下げについてお伺いします。菅総理が雑誌のインタビューで『さらに倍の負担減が可能だ』、『道半ばだ』というようなお話をしておりますが、そうしたお話は大臣の方にも来ているのかどうかという点と、総務省としてこうした点についての対応についてお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。」

武田総務大臣

「私も何度も記者会見で言いましたように、このコロナ禍、非常に家計が苦しい状況が続く中、その家計の負担というものを如何に軽減していくかということを、やはり総理は……この携帯電話料金のみならず、あらゆる分野でお考えになって、我々に支持を出しているのが現実でございます。」

「ずっとこの低廉化については、校正な競争環境、そしてまた、さまざまなメニューの中身というものを分かりやすくするなど、いろんな手を打ってきたわけでありますけども、現在、過去に比べれば、やはり競争が活発化しているものと私も受け止めております。“過去に比べれば”ですね。」

「今、国民のみなさんの乗り換えというものもどんどん進んできておりまして、各社から提供される新しい料金プランへの加入者契約数は、5月末時点で1570万となっており、国民の負担軽減額を試算したところ、年間ベースで約4300億円にのぼっております。」

「さらに、この乗り換えというものを検討中の利用者も一定程度おられ、この方々の乗り換えも進めば負担軽減は更に拡大するのではないかなと思います。」

「いずれにしましても、我々としては広く国民が携帯電話料金の低廉化の恩恵を実感することができるように、利用者の乗り換えというものを円滑にするための取り組みなど、また合理的な選択というものを実現するためには、今後とも校正な競争環境の整備に取り組んでいきたいと、このように考えております。」


※読みやすさ重視のため、『あのー』、『えー』などの無機能語は極力削除


武田総務大臣としては、菅総理がインタビュー内で述べた「さらに倍の負担減が可能」といった趣旨の発言を全肯定するのではなく、飽くまでも通信各社の新料金プランを中心とした携帯電話料金値下げへの努力を一定程度評価した上で、今後も引き続き校正な競争環境の整備に注力していくという考えです。

ここでポイントになると考えられるのは、携帯電話料金のさらなる値下げを総務省として明確に要求していく姿勢ではないことを強調している点と、これまでの値下げに対して一定の評価をしていると強調した点ではないでしょうか。

新料金プランの契約者数やそれによる負担軽減額の試算結果も数字で示すことで十分な効果が現れていることを述べた上で、「過去に比べれば」と2度も強調して発言したように、2020年以前までのMNO各社の強硬な姿勢からの変化を評価しています。

これらの発言をポジティブに捉えるなら、総務省としても現状で十分に納得の行く数字を達成できており、菅総理の発言に盲目的に追従する姿勢を見せずに現状の施策を維持する(とも取れる)姿勢を見せることで、通信会社からの反発を回避したいものと受け止められます。

慎重に言葉を選んでいる様子も見られ、これまで過激な発言や圧力に近い発言によって度々通信業界内から批判を受けてきた武田総務大臣の会見として考えるなら、かなり態度が軟化した印象です。

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非常に落ち着いた雰囲気で会見を行う武田総務大臣



■菅総理の発言は勇み足?

筆者が取材を進める中でも、現在の携帯電話料金が非常に妥当な価格帯であることを実感する数字を多く見ました。

例えば6月にHISの新料金プランが発表されましたが、その発表会にて通信各社のユーザーがどの程度データ通信を行っているのかという利用データ量の分布図が示されました。

それによると、大手MNO 4社で月間20GB未満のユーザーは、NTTドコモが76.1%、auが77.1%、ソフトバンクが65.9%、楽天モバイルが74.4%となっており、実に75%前後の人々が20GBの新料金プランで十分という調査結果が得られています。

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さらには5GB未満の利用者が50%前後となっており、全体的にあまりデータ通信を利用していないことが分かる



これらの第三者機関による調査データを見る限り、総務省が公開した1570万という新料金プラン契約数はまだまだ伸びしろのある数字であることが分かります。

その上で重要になるのは「ここからさらに値下げを行う段階にあるのか」という点であると筆者は考えます。

総務省が2020年12月にまとめた「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データ」によると、2020年9月現在の携帯電話契約者数は約1億8900万となっています。

さらに筆者が集めた資料によれば、同時期の個人によるスマホ契約数は約1億3000万件前後であり、MVNO契約数は1300万前後であることから、MNOを契約しているスマホユーザーの75%と考えるならば、実に約8800万程度がデータ通信量20GB未満で収まる可能性があります。

つまり、さらなる値下げの議論を行う前に、まずは現在の料金プランでの検討を推進していくことこそが重要であると考えられるのです。すべての消費者が適性な料金プランを利用した場合に通信会社の業績へ与える影響やその影響範囲が分からない以上、さらに倍の負担減(早い話が今の半額)が可能かどうかなどという議論は時期尚早と言わざるを得ません。

今回ばかりは、総務省と言うよりも菅総理の勇み足に近いものなのではないかと推察されるところです。

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8800万は言い過ぎにしても、5000万~6000万契約程度は料金プランを見直すべき状態にあると考える



■行き過ぎた値下げが生むさまざまな弊害

では、仮に現在の新料金プランの価格水準である「20GB/月額3000円未満」の半額、つまり「20GB/月額1500円未満」や、同じ月額料金でも50GBや無制限と行ったデータ通信量の増量を目標とした場合、市場にはどのような影響があるのでしょうか。

真っ先に考えられるのはMVNO市場の壊滅です。現在ですら、MNOの新料金プランの煽りを受ける形で5GB/月額1000円や10GB/月額1500円といった超低料金プランを設定せざるを得なくなっていますが、これを月額500円や月額750円といった料金にしなければ価格メリットをアピールできなくなります。

これほどの低料金でMVNOを運営するメリットがあるとは到底思えません。現状でもMVNO事業単体では赤字の企業がほとんどであり、自社の別のサービスを利用するユーザーへのサポートサービス的な事業となっている企業もあります。

少なくとも、通信時間帯によってデータ通信量に大きな偏りがあり、データ通信量の均一化に苦心させられ続けている個人向けMVNOは戦略の転換を余儀なくされるでしょう。その方向性としては単なる廃業ではなく、大手MNOによるM&Aが現実的です。しかしながら、その流れの先にあるのは通信業界のさらなる寡占化です。

KDDIやソフトバンクは現在、新料金プランでも取りこぼすユーザーやさらに低廉な料金を求めるユーザーの受け皿としてMVNOを活用していますが、あまりに料金の値下げを急いでしまうと、そのような流れが今後NTTドコモなどにも波及し寡占化が加速する恐れがあります。

まずは値下げの議論の前に、何故さらなる値下げを行う必要があるのか、それによってユーザーの流動性は本当に拡大(加速)されるのか、市場の再寡占化のリスクは考慮しているのかなど、慎重に見極める必要があります。

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料金の値下げを急いだ結果、市場の寡占化が加速したのでは本末転倒だ



他にも、通信会社の収益性悪化によるインフラ投資の縮小によって通信品質が低下したり、技術開発力が鈍化する懸念もあります。

現在通信業界はすでに次世代の通信技術である6GやIOWN(アイオン)に向けて全力の投資を行っている最中であり、その技術研究および開発は世界での競争力維持やシェア獲得に直結するものです。

単に現在使っているインフラの品質が低下するだけでは留まらないのが通信技術への投資の恐ろしいところです。現在米国と中国が通信業界を中心に大きな貿易摩擦を起こしていますが、そういった激烈な競争の中で日本が存在を示し技術的先進性を保てるかどうかという重要な局面を迎えているのです。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:遥かなるIOWN。通信業界が直面する問題を解決し、新たな世界を切り開くフォトニクス・ネットワーク構想を解説【コラム】


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NTTはIOWN構想を推進し世界での競争力を確保するためにNTTドコモの子会社化を決めたと言っても過言ではない



本連載コラムでも過去に取り上げてきたように、携帯電話料金の値下げは通信各社の収益へダイレクトに影響を与え、悪化した収益をカバーするために自社ポイントシステムを基幹とした経済圏の強化が現在の主戦場となりつつあります。

もはや携帯電話料金の大幅な収益改善は各社ともに見込んでいないというのが実情で、今後も各社間の値下げ合戦や総務省からのさらなる要求が続くことは想定済みです。そのため、各社の通信への熱も2~3年前より明らかに冷めており、その流れはスマホの販売縮小や全国のキャリアショップの統廃合にまで話が及び始めています。

特にキャリアショップの縮小や統廃合は現場スタッフや代理店契約をしている企業にとって大きな問題となっており、大手MNOは直接ショップの削減を明言するのではなく、ノルマの強化やインセンティブの大幅削減といった形でじわじわと首を締め付けているといった声も一部で聞かれます。

携帯電話料金の行き過ぎた値下げによって各地のサービススポットが減少したり、サポートの質が低下するようでは本末転倒です。現在の日本の通信料金は世界的に見ても十分安く、しかも通信品質は世界トップレベルを誇っているだけに、この価格と品質のバランスを保ちながら調整していく緩やかな施策が必要であると考えるところです。

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一般にキャリアショップと呼ばれてはいるが、こういった店舗を通信会社が直接運営していることは少ない。ほとんどが代理店による運営だ



■性急に答えを求める段階ではない

携帯電話料金の値下げは、それによる弊害やデメリットが想定されない範囲であれば大いに歓迎されるものです。しかしながら、通信各社の2020年度通期や四半期ごとの決算の数字を見る限り、どの企業も値下げによって圧縮された収益および利益をどこで補おうかと必死で模索している様子が伺えます。

しかもその手法を見れば、限界まで切り詰めたコストカットや不採算部門の廃止、業界の寡占化もいとわないグループ企業の集約による自社経済圏の強化など、いずれも市場としてデメリットの大きな手段に出始めています。

今まで過剰な収益と利益を得ていたのだから利幅が下がるのは当然だ、とする見方もありますが、それを通すわけにもいかないのが株主であり、株式会社という仕組みでもあります。

長年の経営の歪みを正すために別の大きな歪みが生じるようでは健全な経営改善とは言えません。極端な値下げを要求して企業を追い込みすぎては、そのツケを消費者たる私たちが払うことになりかねないのです。

MNOの新料金プランと、それに追随して値下げが相次いだMVNOの新料金プラン。これらが本格的に動き始めてまだ数ヶ月です。総務省もその成果を認めているのであれば性急に結論を求めず、せめて各社の業績動向やインフラ品質への影響が見えてくる1年程度の経過観察期間は必要であると感じます。

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人も企業も動き始めている。この動きを止めてはならない



記事執筆:秋吉 健


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