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表現の自由を侵害? ネットフリックスなどへの規制に向かうイギリス

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ネットフリックスをはじめとする有料動画サービスが急速に拡大するイギリスで、コンテンツに規制をかける動きが出ている。

これまで、国内の放送局が提供する動画コンテンツには規制がかかる一方で、イギリスに拠点を置かない海外のサービスは規制外とされてきた。

その流れが変わりつつあるようだ。

海外資本に圧倒される国内放送。王室ドラマをめぐる表現の自由問題。日本も他人事ではないイギリス動画サービス規制の背景を探ってみた。

テレビのライブ視聴は「死んだも同然」

pixabay

決まった時間にテレビの前に座って、番組を視聴する。テレビ放送が始まって以来、これが普通の番組視聴方法だった。

しかし、「従来型視聴習慣は、もう死んだも同然だ」。

今年6月、そう発言したのは、イギリスのデジタル・文化・メディア・スポーツ大臣のオリバー・ダウデン氏である。

インターネットにつながっている「スマート・テレビ」が普及する中、好きな時に好きな番組をオンデマンドで見る人は急増。夜、くつろぐ際にイギリスの視聴者が選ぶのは「ネットフリックスかBBCのオンデマンドサービス、あるいはアマゾン・プライムのはずだ」とダウデン文化相は続けた。

成人のほぼ半分がオンライン視聴をメインにする時代

現在のイギリスの番組視聴傾向を見ると、その指摘は当たっている。

イギリスで主要放送局が「見逃し視聴サービス」を無料で提供し始めたのは2006年頃。すでに15年以上がたち、番組は好きな時に好きなデバイスで視聴する習慣が根付いている。

放送・通信の監督機関「オフコム」による複数の調査からデータを拾ってみる。

「スモール・スクリーン、ビッグ・ディベート」(2020年2月発表)によると、放送時に番組を視聴する「ライブ視聴」の時間を1日当たりで比較した場合、2010年から18年の間に全年齢層の平均は242分から192分に減少した。

また、7月15日に発表されたオフコムの報告書によれば、昨年9月時点でイギリスの全世帯の60%がネットフリックスなどの有料オンデマンド・サービスを利用。前年は49%であった。

成人の47%がテレビ番組や映画の視聴は「オンラインがメイン」と答え、18歳から24歳の若者層に至っては、64%がそう答えたという。

アメリカ発のサービスに市場を独占される

Getty Images

2020年末時点で、各世帯は平均して1.7の有料オンデマンド・サービスを利用している。この中で、特に急速に伸びているのが、ネットフリックス(1480万世帯=ちなみに、イギリスの人口は日本の半分の約6700万人)とアマゾン・プライム(950万世帯)である。両方とも米国発のサービスだ。

イギリス世帯のビデオ・オンデマンド・サービスの利用度を示すグラフ。全世帯に占める利用度(黄色、60%)の下の赤い線はネットフリックスで52%、水色の線がアマゾン・プライムの34%である=オフコムHPより

「このままでは、米国発のサービスに動画市場を独占され、イギリスの放送局が締め出されてしまう」

そんな危機感がイギリスの政治家や放送業界にはある。

今や、イギリスの放送局のライバルは国内の放送局同士ではなく、「海外の動画サービス大手」なのである。

放送規定を海外サービスのコンテンツにも広げる動き

日本の放送業界は公共放送のNHK、複数の民放という形になっているが、イギリスの放送業界では、主要放送局であるBBC、ITV、チャンネル4、チャンネル5はすべて「公共サービス放送」(PSB)、つまり公共放送になっている。

運営の原資はBBCの場合はNHKの受信料に相当する「テレビライセンス料」が主で、英国におけるNHKだと考えると、わかりやすい。ITV、チャンネル4、チャンネル5は広告収入が主だが、チャンネル4は政府が所有する。

各局は、放送局に免許を与えるオフコムが定める「放送規定」に沿って番組コンテンツを視聴者に提供する義務がある。

例えば公平性、正確性を担保する、視聴者に危害を与えるような要素を入れない、18歳未満の視聴者を守るなどが義務化されている。

これまで、この規定はイギリスに拠点を置く放送・通信業者を対象とし、オランダに拠点を置くネットフリックスなどは規定の対象外となっていた。

しかし、ダウデン文化相は6月、今秋発表予定の放送業に関する白書で規制対象をすべての動画サービスに広げることを示唆した。

もし実現した場合、ネットフリックスにもオフコムによるコンテンツ内容のチェックが入ることになる。

史実と異なる? ネトフリ王室ドラマが広げた波紋

ネットフリックス配信の「ザ・クラウン」(イギリスのサイト画面) (1)

メディア評論家リチャード・スノディ氏はオフコムによる規制は「実際的ではない」と切り捨てる(ウェブサイト「メディアテル・ニュース」、6月23日付)。

「アメリカ企業にイギリスの放送規定をどのように守らせるのか。表現の自由を保障する米国憲法を持ち出されたら、何もできないだろう」

「交渉の上で編集内容に影響を及ぼすことは可能かもしれないが、どこまで効力があるかは不明だ」。

もし、実質的に規制できないとした場合、イギリス政府は何を目指しているのだろうか。

政府とネットフリックスが対立する事件が、昨年秋、発生した。ネットフリックスが放送した、1940年代末以降のエリザベス女王の治世を描く人気ドラマ「ザ・クラウン」第4シリーズをめぐる問題だ。

同シリーズでは1970年代末から1990年を舞台に、チャールズ皇太子と故・ダイアナ元妃の出会い、結婚、そして夫婦仲の悪化までが描かれた。

王室支持派の国民・識者の一部は、愛人を持つ皇太子がダイアナ元妃につらく当たるシーンなどがあったことから強く反発。「史実とは異なる」といった指摘も当時を知る識者らから上がっていた。

英国政府や王室関係者が「フィクション」明記を主張

批判の高まりは、ダウデン文化相が「ネットフリックスはこのドラマがフィクションであることを冒頭に明記するべき」と主張するまでに発展。

ダイアナ元妃の弟スペンサー伯も、ドラマを事実として受け取る視聴者がいるとして、「真実ではないが、実際に起きた出来事の一部に基づいていると表記するべき」と述べた。

だが、全シリーズの原作・脚本を執筆したピーター・モーガン氏は、ドラマは「クリエイティブな創造行為」の結果とし、一連の批判を跳ね返した。

ネットフリックスの画面には「フィクションです」という表記は最後まで出なかった。

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