- 2021年07月29日 12:00
高校に通わなかった東大名物教授の独学勉強法 本や教科書は疑って読むクセ
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私が東大名物教授の独学法はマネすべきと思う理由

どの大学、どの学部にも名物教授というものがいる。
最近の東京大学経済学部での名物教授といえば柳川範之教授がそれにあたる。柳川氏は若くして「法と経済学」や金融契約の分野の研究で成果を上げ、政治的にも経済財政諮問会議の委員を務めており、名実ともに大物教授となりつつあるのだが、それ以上に注目されるのはその異色の経歴である。
父親の仕事の都合でブラジルへ 高校には通わず
柳川氏は小学4年から中学1年までをシンガポールの日本人学校で過ごし、帰国後日本で公立の中学校を卒業する。しかし銀行員だった父親の仕事の都合で今度はブラジルに行くことになる。ブラジルの公用語がポルトガル語ということもあり柳川氏は現地の高校に通わず、日本で購入した教科書や参考書で独学して、日本に帰国した際に大学入学資格検定に合格する。ただその後また父親の転勤でシンガポールに行くことになったので、大学は慶応義塾大学経済学部の通信課程を受けることとした。なお当時は「ほぼフリーパスの書類審査」で入れたらしい。
当時は今のようなインターネット環境がなかったこともあり、大学でも本の力を借りて独学に励むことになる。この頃公認会計士をめざす過程で学び始めた経済学の面白さに惹かれ、本格的に学び始める。大学の試験を受けるために日本に一時帰国した際に、東京大学の伊藤元重教授の授業に忍び込んで質問をしたところ、伊藤氏に見込まれて東大の伊藤ゼミの聴講生となる。そしてそのまま東大の大学院では伊藤氏の指導を受けて博士となる。
そんなわけで柳川氏は模試を受けたこともなければ予備校に通ったこともない、大学入試すら受けたこともないまま、東大教授までになった。私の東大の同級生でも30代半ばでアメリカの有名大学にスカウトされて教授になった傑物がいるのだが、彼にしても幼い頃から父親の転勤について回って各国を引っ越して回るうちに独自の独学法を身につけていた。いつも「こいついったいどういう頭の構造してるんだ」などといつも思っていたのだが、若くして有名大教授になるようなレベルの違う頭脳をしている研究者には独学は必須のスキルなのかもしれない。
とにかくこうした経歴から柳川氏は経済学とともに「独学の大家」として学生に慕われており、氏の書いた「東大教授が教える独学勉強法」は東大生協では2年連続1位(2018年、2019年)のベストセラーとなっている。
案外ゆるくて堅苦しくない勉強法

そんな柳川氏の説く独学法であるが案外ゆるくて堅苦しいものではない。
柳川氏曰く勉強とは
① 明確なゴールがある勉強(受験や資格向けの勉強)
② 教養を身につけるための勉強(趣味的な世界の勉強)
③ 答えのない問いに自分なりに答えを見つける勉強
に分かれるが、同氏が説くのは③にあたる「答えのない問いに自分なりに答えを見つける勉強」のための独学法であり、これこそが社会で、というより人生のあらゆる局面において役立つスキルとしている。柳川氏は勉強の本質的な意義について「深く考えて『選ぶ』『決める』こと」と述べており、これ自体に異議を唱える人は少ないだろうと思う。
では「どうやって独学を始めるか?」ということなのだが、氏は「いきなり高い目標を掲げるのではなく、時間をかけていろんな試行錯誤をする準備期間を持つ」ことの重要性を強調している。具体的には、
・いきなり的確な目標を見つけるのは難しいので、いろいろな本を読み流しながら、自分の目標を探してぶらぶら歩き回り、どんな学びのスタイルが自分に向いているか探り、自分に合う本や勉強の仕方を探す
・自分の関心が見えなければ本屋などで情報を集めながら心がワクワクするテーマを2つか3つピックアップしてみる。また学んだ先にある少し遠い自分の姿をイメージして、そこに至るための具体的な道筋を考える。
といったような具体的なアドバイスをしている。大学時代の自分に聞かせてやりたい平易で有用なアドバイスだ。この本が売れるのもわかる。
教科書を疑う、批判的に本を読む

そしていざ勉強に入るとなったら教科書に従順な受験勉強的なスタンスを捨てて「教科書を疑う」ことの重要性を強調し、「疑う」クセを作るためのテクニックとして
・本を読んだり、テレビを見たりして疑問に感じたことをメモする
・世の中で「何がうまくいってないか」「何が解決してないか」という視点で物事を見て、それを解決していくにはどうしたらいいか、という方向に発想を向かわせる
・立てた目標の達成にこだわらずに、あくまで「仮の目標」と考えて都度都度客観的な視点で見直すこととし、当初の目標の達成具合は3割程度で良しとする。
とこれまた具体的なアプローチを紹介している。このように本書内容は極めて具体的、実用的なアドバイスに満ちている。肝心な「本の読み方」についても同様で
・本の中に正解を探さない
・入門書、概説書は2段ステップで読み、はじめは書かれているものを素直に受け入れざっと読み、2回目は批判的に読んでみたり、疑問点を探しながら読んでみたり、読み方を変える
・入門書を読み始めて1回目でいきなり線を引くと、どこも重要に見えて線だらけになってしまい意味がないので、まずは通しで読んで本のコンセプトを掴み、2回目、3回目、など何回読んでも引っかかる部分に線を引く方が良い
などの具体的な対処方針を与えている。まるで学生に対するチュートリアルのようだ。こうして「批判的に本を読む」ことができるようになったら「今度は自分の考えに対する答えを見つける」トレーニングに入ることになるわけだが、ここから先は是非直接確認してほしい。
このように本書は大きくは
① 勉強の目標を見つけ
② 本を批判的に読み理解を深め
③ 自らの中から浮かんだ「答えのない問い」に対する答えを見つける
というようなステップで独学のプロセスを解説し、実践するにあたっての極めて具体的で有効な手法を体系的に紹介している。
学生当時の勉強だけでは乗り切れない人生100年時代

何よりも「東大教授」という重々しい響きとは裏腹に書いてあることは全て「そりゃそうだよな」と感じる「当たり前」なことなのがよい。私も柳川氏ほどではないが、独学寄りの人間なので、自然に実践していることもあったし、逆に目から鱗が落ちるような指摘もたくさんあった。
人生100年時代と言われるようになり、学生時代の勉強のみだけでは人生乗り切れなくなったことを実感しており、かといって仕事があり学校に通うような時間の余裕もない、という人も多いと思う。私自身もその一人だ。そういう人にとって本書は「独学」というアプローチのあり方をまとめてくれた非常に価値のある本だった。
、、、、もっと前に読みたかったなぁ、、、、




